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少女人形はタンポポの中から

作者: 野見 秋心
掲載日:2014/08/31

朝もやのかかる夕暮れ、舞子たちは今日も乱舞を踊っていた。

「独り身ですか」

「はい、そうです、そうです」

一人も全身の感覚を研ぎ澄ますことを怠らない。彼ら、彼女らは単三電池で動いていた。

人形みたいに、蜘蛛の糸を垂らしたみたいに、こうやってこう動いている。

刹那的に感情を解き放ったのち、彼ら彼女らは、自然と、ある言葉を口にした。

「君の頭にあるもう一人の自分に会いたいのですが」

「はいはい、そうですか、そうですか」

男と、女、男女と男女、その二つのパトスが混じり合うとき、男と女は両生類へと進化する。

進化の過程は、早く、あっっと言う間に、マッハの速度で輪廻転生を繰り返す。こんなことでは、南無阿弥陀仏も唱えられない。

神はそれらのことに絶望の念を抱いて、メグマの波動を地上に降らせた。

人間の心臓は、タンポポの中にある。心臓の中には、小さな小人が無数に存在している。

神様の言葉を受け入れない人は、誰彼構わず、生贄としてタンポポ人間へと、捧げられた。

「神様の、神様の、私を食べてくださいませ。死人に口を押してくださいませ。ませませ」

その子は、何の変哲もない普通の少女だった。

しかし、人々の希望、観測、その類によって、少女人形として生まれ変わったのである。

「神様の、神様の、私は、何も望みはいたしませぬ。ただただ、私をただの木偶の人形に、人形にしてくださいませ。もう人間のように、思考にとらわれたり、誰彼の悪い噂に流されたり、陰口を叩かれたり、暴力をされたり、泣きたいのに涙の流せぬ日々は嫌なのでございます」

少女人形はわずかに、うわずった声を放って、空を仰ぎ見た。

「神様の、神様の、私は、ただ、何も考えたくないだけなのです。思考に左右されたくない、赤軍派に感化されたくない、左翼、右翼ではなく、その両の翼で天使になりたいばかりなのでございます。ですから、お願いします、神様の、神様の。誰彼の悪い噂を、タンポポの綿にしてくださいませ。私はもう、人間の体では、満足に南無阿弥陀仏も唱えることもできないほどに、弱くなってしまいました。ですから、私が、完全なタンポポ人間になる前に、口が裂けて、その中からハラワタを空に撒き散らす前に、どうか、神様の、お願いします、どうか、どうか」

少女人形は、その発言をしたのち処刑され、タンポポ人間にされてしまった。目撃者は多数いた。新興宗教に奉られた、たくさんの綿の雨が、降り注ぐ。神様のメグマの波動が降り注ぐ。

誰のための人生なのだろう。誰のための自分自身なのだろう。

親の決めたことなのか。神様はそこで、ただ観測して傍観しているだけだ。

誰のために、鐘なる。

ゴーンゴーン、と鐘がなる。

とある新興宗教の、とある教団の、とある部屋の、とある待合室、信者の誰かがこう叫んだ。

「神は死んだ。私が神様だ。私はなんでも、できる。命をも捨てられる。赤軍派さえも、私の傀儡、誰のせいでもない。お前のせいだ。お前のせいだ」

その男は、喉を掻き切って死に至った。死亡推定時刻は、午前2時、丑三つ時の猿渡の霊が見える深夜。

深夜、それは、古くロクロを回す音が聞こえるという。

少女の母親、何を思うや。

「少女人形、私の少女人形はいづこに」

この女もすでにタンポポの一員となっていたのだ。そして、この女もまた、タンポポの一員になってしまったのだ。アワレ、アワレ。

だから、この母親の呼び声は届かない。誰もいない、人のいない、世間の見知らぬ、見知らぬ果ての先、そこにだって存在しない。

意味のわからぬ、念仏を唱えた南無三僧侶は、一人の男を捕まえて、こうのたまった。

「思考は人間の成れの果てか、それとも、人間の最上の天の御使いか」

そういった僧侶は、念仏を唱えて死んだ。ノコギリクワガタを腹いっぱい詰め込んで、そこから出てきた無数の小人たちに侵略をゆるしてしまったのだ。

少女の母親、何を思うや。

「どこにいるの。私の少女人形。もう、あなたに、いぢわるはしませんよ。あなたの嫌いなニンジンきゅうりトマトを食べさせませんよ。もう、あなたを、タンポポ人間にするなんて、ヘンテコな信仰を掲げる宗教家のもとには、いかせませんから、だから、お願い、帰ってきてください。もう、何も望みませんよ。あなたを着せ替え人形にしたり、変な男に犯されるような日々はグッバイサヨナラなのですよ。どこにいったのですか、返事をしてください。返事をしなさい、この少女人形ちゃん」

母親は、すでに、精神に異常をきたしていた。新興宗教に引っかかった時点で、頭はすっとんいかれていたのだが、ところがどっこい、そおれ念仏!

念仏を唱えるのだ。

誰のせいでも、ないんっだからっ。

ほれ、歌えや踊れ、踊り念仏、執念を命をタンポポの中へ「タンポポの中へ」(タンポポの中へ)〈タンポポの中へ〉【タンポポの中へ】〔タンポポの中へ〕たんポポの中え



翌朝、とある少女の遺体が発見された。

髪はショートボブ。

神はいじっぱり。

少女の遺体がついに発見された。

彼女の容態は、ハラワタが飛び出し、心臓が飛び出し、何かを解放したような、そんな得体の知れないものだった。

顔はなんとも言えない、筆舌にしがたい表情をしていた。なぜなら、首と胴体がそのまま切断されていたのだから。

何も、

言わぬ、

その遺体、

その姿はまさに、少女人形と呼ぶにふさわしい。


警察はすぐさま事件究明に当たったが、舞子の乱舞に巻き込まれ、精神がいかれてそのまま帰らぬ人々の仲間入りを果たした。

誰もかれもがメグマの波動にやられ、脳髄にタンポポのタネを植え付けられ、人口の半分がハラワタを噛み砕いて、死んだ。

アワレ、人類は、南無阿弥陀仏も唱えられずに、死んでしまった。


おしまい

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