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お稲荷さま  作者: 麻本
5/18

キッコさん、見張る

翌日。

学校が終わり、軽く食べてから、キッコさんを連れて外に出る事にする。

「…という訳で、勉強をしに美徳の家に行くから。キッコさんもついてきて」

「そうか。お主の勉強を見張れば良いのじゃな。お安い御用じゃ」

「俺は何か気が重いよ」

「そんな事言うて。この間うちの読み書きを見張っていたお返しじゃな」

「お返しって。あれは苦痛だったの?」

「うんにゃ。役にたったよ。苦痛では無かった」

「だったらいいじゃん…じゃあ、そろそろ行きますか。…くれぐれも耳と尻尾は隠して下さいね?」

「あい、わかった」

………。

そして美徳の家に着く。

美徳の家は、昔からの大地主だったそうである。

いつ見ても美徳の家ってば大きいんだよな。


「ごめんくださーい」

程なくして玄関のドアが開く。

「はーい。待ってたよ。健太郎、それにキッコさんも」

「おじゃまします」

「おじゃまする ぞい」

そしてすぐさま美徳の部屋に行く。

美徳の部屋は、洋室で、ぬいぐるみとかもあるが決して多くはなく、明るく落ち着いた感じの部屋だ。

「じゃあ、そんなに時間が有るわけじゃ無いから始めるわよ」

僕と美徳は教科書とノートを広げて勉強に入る。


「じゃあ、歴史からでいいかしら?」

「いいよ。歴史からな」

二人でそれぞれに目を通して重要ポイントを書き込んで覚えて行く。

それから、美徳と僕とでテストの範囲を予想し合い、お互いに解らない所をカバーしながら勉強を進めていく。

少し余裕が出来たので、僕はキッコさんをチラ見した。

するとキッコさんは口に手を当てて、あくびをしている。

その状況を確認出来たのでとりあえず、勉強に集中する。

少し経ち、今度は僕のお腹が少し痛い。

マズい。おならが我慢出来ない。

「ぷぅ~」

やっちまった。

「!?」

僕から発せられる音にびっくり仰天する美徳とキッコさんの二人。

「ぎゃあ!いきなり何やってんのよ健太郎!キッコさん!窓開けてー!窓ーっ!」

「これかいな!?」

キッコさんは美徳が指差した窓をあける。

すると風が勢いよく入ったのだが…風が部屋の壁に当たり、渦をまいたらしくキッコさんの方へ流れる。

そして、風が渦を巻いた事に因って僕も自身のおならで自爆した。

「くっさぁーっ!何処ぞやの坊さんの屁よりも臭いわ!」

キッコさんは鼻を手で被い、もう片方の手をパタパタさせる。

「あんたねー!この大事な時にィーっ!」

「ごめんなはい…」

「…せっかくの緊張感が解けちゃったじゃないのよー?」

「えへへ…こういうのも必要だろ?」

「おならが?要らないわよ!」

「美徳に同じじゃの」

「キッコさんまで!?…あ。トイレ行きたくなってきた!美徳、トイレ借りるぜ」

「えっ?トイレ?とっとと行けーっ!」

美徳は、しっしっ!という感じで片手を振った。

僕は急いでトイレに駆け込み、用を足して事なきを得た。

「ふー。助かった」

美徳の部屋に戻り、普通に元の場所に座る。

すると美徳が近寄ってきた。

そして、僕の頭を掴んだと思うと拳で両方のこめかみをぐりぐりやってきた。

「あいでででで!『梅干し』は止めい!」

美徳は少し怒っているみたいだ。

だけど、ここまでされて黙っていられるか。

「このっ……!」

僕は美徳のこの攻撃を何とか振りほどいて反撃に出る。

「きゃっ!?何よ?」

僕は美徳の後ろにまわりこみ、両脇をくすぐり攻撃する。

「ぎゃはははは…!やっ、止めて!」

「止めねーよ!」

「…はははっもう、降参!」

美徳もまた、僕の攻撃をふりほどいた。

「健太郎に美徳や。お主らは、喧嘩するほどに仲がいいのじゃな!」

キッコさんが様子を見て喜々として言う。

「そんな事無いよ」

「そんな事ないわよ」

僕と美徳の声がハモった。

「あっはっは。見事に調和がとれていたのう」

「ささっ。続き、続き!」

僕はまた、勉強に取りかかる。

キッコさんに言われて何だか照れくさい。

僕は美徳の方に目をやる。

すると、美徳はちょっと顔を赤らめている様子だった。

…勉強をして、丁度良い時間になる。

「健太郎。家でご飯食べてく?」

「え?いいのか?」

「母さんに言ってあるのよ。キッコさんの事も」

「えっ!?キッコさんの事まで?…ちょっと待て。美徳はキッコさんの事をどう説明したんだ?」

「そのまんまよ?」

「そのまんまってまさか、妖怪である事とか全部か?」

「うん」

美徳は平然として頷く。

「なにィ!それでよく受け入れてくれたなぁ?」

「しょうがないじゃない?健太郎とは幼なじみだし、あたしの友達としてもちょっと考えに無理あったし。それに、健太郎と同居となればねぇ?」

「むむぅ」

「まあ、大丈夫よー?母さんは安全とさえ分かれば受け入れてくれるから!」

「そうだったんだ…」

「じゃあ、健太郎にキッコさん。下に降りてご飯にしましょ?」

3人で降りて応接間に行く。

美徳の家の応接間は和室であり、黒塗りの和風の、背の低いテーブルには、夕飯が並べてあった。

「美徳―?ご飯運ぶの手伝ってー」

奥から、美徳のお母さんの声がして、美徳を呼ぶ。

「はーい!…じゃあ、健太郎にキッコさんはそこに座って待ってて?」

美徳にそう促されて、僕とキッコさんはその場に座る。

キッコさんは、少し上を見渡したかと思うと、既に並んでいるおかずをじーっと眺めている。

「これは豪勢じゃのぅ。健太郎とは段違いじゃ」

「悪かったっすね!僕は独り暮らしだし、男だし。限界ってものがありますよ?」

「おぅ!済まぬ!決して悪気があって言った訳では無いんじゃ!」

キッコさんは自身の右手の平で頭をぺちっと叩いた。

「分かってますよ」

こんな事を話ししている内に、美徳がご飯を持ってきた。

そしてまず、美徳がご飯の入った茶碗を キッコさんに渡す。

「はい。先ずはキッコさん」

「かたじけない」

キッコさんはそう言って受け取る。

「じゃ、健太郎」

「ありがとう」

僕も美徳から茶碗を受け取った。

そして3人で一斉にに手を合わせ

「いただきます」

と言い、食事に移る。

あれ?良くみると味噌汁が無い。

「美徳。味噌汁はどうしたの?」

「味噌汁?それなら母さんが持ってくるわ」

何故美徳のお母さんが?

「お待たせ。味噌汁持ってきたわよ」

そう言って、美徳のお母さんが現れた。

美徳のお母さんは、天然パーマで、眼鏡をかけている。

それで背は低い。そんな出で立ちだ。

美徳のお母さんは味噌汁を配り、最後にキッコさんの所に置いた。

「かたじけない」

キッコさんがそう言うと

「きゃーっ!『かたじけない』って!昔の人らしいわ!あなたがキッコさんなのね!?初めまして。うちの娘から聞いているわよ!」

美徳のお母さんが大喜びする。

「お、おぅ?」

それを見たキッコさんがたじろぐ。

「母さんってば…ハハハ…」

美徳が苦笑する。

「ねーぇ。キッコさん。あなたの名前はなんて言うのかしら?」

美徳のお母さんが質問する。

そう言えば、今までキッコさんの名前はキッコさんが「キッコ」と言うものだからそのまま呼んでいたけど。

気にして居なかったけどやっぱりあるんだな。

どんな名前なのだろう?

「あたいの名前は『キク』と言うのじゃ」

「キク!?」

僕と美徳、そして美徳のお母さんが声を揃えて驚く。

キッコさんの名前がキクかあ。(因みにキク↑です)

僕は名前なら桔梗とか想像してたんだけどなあ。

なんかその時代の普通っぽい名前だったんだ。

「じゃあキクさん。あなた妖狐なのよね?耳とか尻尾を出してくれない?」

美徳のお母さんがキッコこと、キクさんにリクエストする。

「美徳の母君。そんなにあたいの獣姿がみたいのかえ?」

「はい!是非!」

美徳のお母さんが両腕の脇をしめ、それこそ「ワクワク」といった仕草でキクさんを見る。

「うーん。仕方ないか。ほい!」

キクさんはぱぱっと耳と尻尾を出してみせた。

「きゃー!」

美徳のお母さんの喜び様を見た僕は、そのテンションの高さに圧倒された。

キクさんもやりにくそうだ。

「み、美徳や。美徳の母君はいつもこんななのかえ?」

「『母君』って。きゃー!」

美徳が身を乗り出してキクさんに言う。

「キッコさん…じゃ無かった。キクさん。うちの母さんはなんて言うか『ミーハー』でさ。流行りものとか珍しいものに目がないのよ。それでテンション高いの」

「ミーハーかぃ…」

キクさんがため息をつく。

「ねぇ。キクさん。キクさんにはその名前がちゃんとあったのに、

なんで『キッコ』って名乗るようになったの?」

僕は正直に質問をぶつけてみた。

「話せば長い事ながら…あたいが妖狐となり、人間を学ぶために人の姿に化けて、一人の男に近づくとき、名前と言うものを知らんもんで、一度失敗してな。

狐の姿に戻りつつ、観察すると人と人とが名前で呼び合っておる。

それで名前が必要と分かったんじゃが、人間の催す花市で花が飾られて居るのを見て気に入ってな。あたいは、人間がその花を菊と言って居るのを見て

その花の名前を知ったのじゃ。

そしてから、また人間に化けて近づこうとした時に名前を聞かれ、とっさに出た名前がキクだったから

なのじゃよ」

「じゃあそれで、定着した名前がキクという訳?」

「そうじゃな」

「それからキクさんはどうしたの?」

「うん?前に言わななんだか?この名前のお陰で人間の中に溶け込み、一緒に生活しながら学ぶ事が出来たんじゃよ?それでも最後は人間にバレて、離れなくてはいけなくなったがの」

「へー。しかしさぁ。キクと言う名前があるにも関わらず最初にキッコって名乗ったのは何でなの?」

「それはな。お主に聞いた戦争のあと、お詣りする者の名前を読んだら

『子』のつく女子が多いもんで、キクと言うのが時代遅れだと分かった。

それで、愛称で呼んで貰うほうがいいと言うのに気づいてそれからじゃ!」

「へぇー。確かに『キクさん』じゃなんかおばさん臭いし、それを知ってたんだ?」

「まあな」

ここで美徳が言う。

「じゃあキクさんとしてはどうなの?『キッコさん』のほうがいいの?」

「そうじゃな。キッコと呼んでくりゃれ。そのほうが好きじゃ」

「じゃあ、元通り『キッコさん』なのね」

こうして、呼び名は元鞘に戻ったのでした。


―そして、月日が経ち、期末テストも終わって終業日当日。

「健太郎。テストの結果はどうだったの?」

「んー?何とか全教科赤点は免れたから補習授業は無し。でも数学はまずかったよ」

「ふーん。科学部の部長がどうしたのよ?」

「いやあ、面目無い」

「まあ、いいわ。今日も一度帰ったら、キッコさんを連れてうちに来なさいよ?」

「何で?」

「キッコさんに見せたいものが有るのよ」

「へえー。何を?」

「秘密」

「そっか。楽しみにしてるよ」

それから、美徳に言われた通り、一旦家に帰ってから、キッコさんを連れて、美徳の家に向かう。

だが、途中でキッコさんが神社に寄りたいと言い出した。

続く


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