キッコさん、焦る
…僕は覗きながら思った。
美徳は、服の上からそうとわかる位グラマーだと思ってたけど、その美徳が
うつむいてうなだれちゃう位グラマーとは、どんな何だと。
でも、キッコさんは身長165センチの俺より背は高いのだし、それ相応って奴なのかなと。
それにしてもなあ…。
背中とは言えいいもん見れた気がする。
さて。
そろそろマズい気もするから部屋に戻るか。
…しばらくして。
「健太郎。もう、こっちの部屋に来てもいいわよ」
と、美徳からお呼びが掛かった。
それなんで、美徳達のいる部屋に行く事にする。
「美徳。キッコさんの服はどこで買うんだ?『しむまら』か?それともアウトレット?」
「…しむまらはともかく、アウトレットには行かないわよ。高いだけだし。『中島屋』にしようと思ってるけど」
「中島屋か。いいな!」
中島屋は、文字通り中島町にあるから中島屋というのだが、ここの店主がちょっと変わったいい人なのだ。
「はぁ…」
「美徳。どしたん?ため息ついて」
「何でもない。…はぁ。大き過ぎりゃいいって物でも無いわよ。あたし位のほうが。あたし位のほうが・・・」
あのー。独り言バッチリ聞こえてますけど。美徳サン。
ここは突っ込まないほうがいいな。黙っておこう。
…話しをかえるか!?
「美徳。明日の集合場所はどうする?木皿津西口の前でいいか?」
「えっ!?そ、そうね。それでいい…」
ちょっと慌てる美徳。
さっきの独り言といい、今の慌て様といい。
あの事はショックだったんかな?
「…じゃあ、また明日ね」
しばらくして美徳は帰って行った。
僕は、キッコさんと一緒になってテレビをみていた。
するとしばらくしてキッコさんが言う。
「あのなぁ。健太郎。今日も外に連れて行って欲しいんじゃが」
と、お願いしてきた。
「ん。いいよ」
僕はキッコさんと外出する事にした。
今日は、反対側を歩いて見る。
目指すは反対側の公園だ。
この、公園はこの間の公園よりも倍近く広かったりする。
そして、この公園に行く途中には、大きめの神社が有ったりするのだ。
そしてその神社の前に差し掛かる。
すると、キッコさんの動きが止まった。
「キッコさん。どうしたの?」
「うん。この社から少し嫌な気配を感じてのう。…長居は無用じゃ」
「嫌な気配?」
「ああ。行くぞ」
キッコさんは急に走りだした。
「待ってよ。キッコさん!」
僕は慌ててキッコさんを追い掛ける。
キッコさんは少し体を浮かせ、浮遊しながら真っ直ぐに行ってしまう。
浮いてからのスピードが速くなり、差がついてしまう。
こうなるともう、大声で呼び止めるしかなかった。
「キッコさん。公園はそっちの方じゃ無い!止まってくれよ!」
「なぬ?此方ではないのか?」
「全然違う!もう少し戻って右の方なんだって!」
「ほほう。そっちのほうか」
「…嫌な気配がしたからって、速すぎだよ!」
「無茶をいうでない。健太郎や。身の危険を感じ取った時は誰もが
脱兎のごとく逃げ出すもんじゃて」
「人によってはそれも違うと思う……」
後は、キッコさんは僕のペースに合わせて付いてきてくれた。
そして、公園につく。
そして着くなりキッコさんが、
「健太郎や。走ったら喉が渇いた。この辺のどこか、水飲み場はないんかのぅ?」
そう言われて僕は、公園の周りを少し歩いた。
けれど水飲み場は見つからない。
しかし、視線の先には灯りの点った自販機を発見した。
「水飲み場は無いと思いますよ。でも、自販機なら有るみたい。何か買いましょうか?」
「前に飲んだいちごみるく何て無いのかのぅ?」
「…そんなに都合よくある訳が…あったよ」
自販機は飲料メーカー「トリーサン」の自販機で、販売機の隅にいちごミルクの缶は有った。
「おー!何かすごい!」
僕は、キッコさんにこのいちごミルクを買って渡した。
「おお!いちごの絵が描かれておる。良いな!」
嬉しそうなキッコさん。
「飲んでいいのか?」
「どうぞ」
「…健太郎や。これの開け方は缶詰といっしょか?」
そう質問されて僕ははっとする。
この数日で、食事の時に鯖の缶詰めを食べる際、プルトップ付きの缶詰めの開け方をキッコさんに教えた事が有ったのだ。
教えておいて良かったと思った。
「ああ、はい。同じですよ」
「左様か」
キッコさんはいちごミルクの缶詰めのプルタブを開けて飲んだ。すると。
キッコさんは最初、美徳といっしょに飲んだ時の表情と同じ
表情を見せた。
ほーっと溜め息をつき、嬉しそうだ。
「また、いちごみるくが飲める何て幸せじゃあ!」
「良かったね。キッコさん!」
「さて。今日も木に登ろうか」
そう言ってキッコさんは見つけた木に浮遊し、登る。
だけど、その直後キッコさんの様子が少し変だった。
キョロキョロ回りをみた後にすぐ降りたのだ。
「キッコさん。どうしたの?」
「さっき通った社から、ずっとついて来ている気配がある。うちには苦手な感覚のな」
「苦手?キッコさんにも苦手が有るんだ?」
「うちより強大な力を感じる。適わないから逃げるぞ」
「逃げるって!?」
「健太郎よ。こっちゃ来い!」
僕はキッコさんに言われるまま、近づいた。
するとキッコさんは僕の体を掴み、それで浮遊して一目散にこの場から逃げ出す。
「キッコさん。危ない敵か何かなの?」
「危ないのではない。寧ろ昔から知って居る気配なんじゃて。それ故に苦手で一刻も早く離れたいのじゃ」
キッコさんは焦っている様子だった。
…一体何が、キッコさんをこんなに焦らせているのだろうか。
そして、翌日。
木皿津駅西口。
木皿津には、約束の時間の5分前には何とか到着した。
約束をした場所に向かうと、美徳は既に待っていた。
「おはよう、美徳。早いな!」
「おはよっ!健太郎。それに、キッコさんも」
「…じゃあ、合流した事だし早速、中島屋に行こうか」
僕とキッコさん、美徳の3人で歩き出す。
駅から中島屋までは500メートルも無い。
そんなに遠い距離では無いのだ。
まずは信号2つめを左に曲がり50メートルも歩くとまずは左側に「七剣神社」が現れる。
何でもこの神社は「里美七剣伝」にゆかりがあるとかで意外に有名で、ご当地ヒーロー
がいたり、ローカルテレビではトクサツヒーローとしてTV化までされている。
そして斜向かいには証乗寺がある。
この寺は、狸の伝説と童謡で有名になったお寺だ。
ここで僕は前にしたキッコさんとの会話を思い出す。
それは、キッコさんがぽん太郎とかいう狸といっしょに、人間を化かしていたという事だ。
その事が気になりキッコさんを呼び止める。
「キッコさん。ちょっと寄って欲しい所が有るんだけど。美徳も」
「何じゃ?」
「なあに?」
「直ぐそこの証乗寺なんだけど。ちょっと寄って見ないか?。たまにはこんな所の散策もいいだろ?」
「お寺の散策?地味な事考えるわねえ」
「美徳―。そう言わずに付き合ってくれよ」
「しょーがないわね。少しだけよ」
「それじゃ、決まりだな」
そして直ぐに証乗寺に着く。
3人で本堂の前まで行く。
本堂は思ったより小さく、何だか新しい感じだ。
眺めたら、お参りはせず、直ぐに左手にある掲示板をそれぞれで見る。
すると、この寺の歴史の事や、童謡の事。
そしてこの、童謡にまつわる童話が書かれている。
僕が眺めていると、キッコさんが横に来て同じ様に眺める。
少しして、キッコさんが僕にいう。
「健太郎や。悪いが読めない文字があるでのう。読んでくれぬか?声に出して」
「いいですよ」
…掲示板を最後まで声にだしていたのを読み終わる。すると、
キッコさんが言う。
「ほほう。良く出来たお話しじゃなあ。昔あった事とまあまあ合っておるわ」
「へ?『まあまあ合っておるわ』って。これ、フィクションじゃないの?」
「ふぃくしょん?何じゃそれは?」
「あ、通じないか。…絵空事」
絵空事と言ってみたが、通じるか?
「絵空事?ああー、そんな事はない。読んでくれた中にこの寺は何時も薄暗いとか、狸たちが人を化かしていたのは本当じゃったからの。
しかし、うちの様な狐の事は書いて居らんし。
たぬきの名前は本来ならばポン太郎にポン子じゃ。ちょっと違っておる」
絵空事という、言葉が通じたのはいいけど、キッコさんのツッコミ所が情景や出来事ではなくて名前だけとは。
昔話って良く出来ているんだな。
そんな事を思った僕であった。
そして掲示板も観おわり、少し奥へ足を運ぶ。
すると、童謡のと碑と、ポン太郎のお墓があった。
「ポン太の墓!?」
キッコさんが少しばかり驚く。
そして目をつむり、おでこに左手中指をつけて、念じている様だった。
「ここにはおらぬ。気配無しじゃ。成仏したのかのう。ポン太郎の奴」
キッコさんはそういうと、空を見上げた。
「この奥はどうなって居るんじゃ?」
「どうって、建物が」
「たてもの?すぐに海のハズじゃが」
そう言いながら、キッコさんは奥へ行ってしまう。
「ない、無い。海が見えん!」
「そりゃそうですよ。埋め立ててるんだから」
「埋め立てねぇ。よく分からんが、海は向こうへ行ってしまったのか。未来というのは凄いもんじゃな」
お寺をひとしきり見終わったので、やっと行く事にする。
中島屋は、元いた道に戻ると、直線ですぐの所にある。
「さてと。着いた」
僕は店の入り口の引き戸を開ける。
すると、
「カランコロン。カラン…」
と、小さな青銅で出来た鐘が鳴った。
そして、この店の主人が現れる。
「いらっしゃいませだポン!」
そう言うとにこやかに体格のイイ主人が出て来た。
「…ポン?」
キッコさんが不思議がる。
「やあ。養老さんじゃないか。元気してたかポン?」
「うん。元気だよ。金太さんも元気そうじゃない!」
「あのさ。美徳」
「え?何?」
美徳ってこの店の常連だっけ?」
「うん。そうよー?それにこの場所貸してるの家の親だし。前からの付き合い」
「美徳ん家は不動産屋だったな。それで、良く知っている訳か」
「今日はどうしたんだポン?」
店員さんが美徳に質問する。
「金太さん。今日は、連れて来た人の服をみて貰おうと思って」
「養老さん。隣にいるのは彼氏かポン!?」
「やだあー。彼氏だなんて。そうじゃなくてまた隣にいるキッコさんの服をみて貰おうと思ってね」
「任せるポン!こういう時は茶子の出番だポン!茶子。こっちに来てくれい!」
少しして奥から、ぽっちゃりした女性が出て来た。
「わっちに服選びは任せてちょうだいね。お客様はどなたかしら?あら?養老さん?」
「茶子さん。今日は違うの。ここにいるキッコさんの服選びをみて貰おうと思って」
「そうなんだー!わっちがいいのをコーディネートするわよぉ!」
僕は、茶子という人がオーバーリアクションかつハイテンションで答える事に何事かと思った。
「じゃあ、お客様。こっちに来てくれます?」
店員の茶子さんに言われて無言で付いていくキッコさん。
「あっ!茶子さん。キッコさんはまだ良く分からないから、一緒に選ぶわ」
美徳は、そういうと向こうに付いていってしまった。
ぽつーん。
僕は一人取り残された。
仕方ないので男ものの服をみる事にする。
すぐそこにTシャツのコーナーがあるのだけど、そのプリントが面白い。
普通に龍のプリントがあるかと思えば、
「人生矛盾だらけ。楽して生きよう!」
「考えるな。感じろ」
とか、
「そうか。がっかり(´・ω・`)」
や
「ワーキングプア中」
など、
よく分からない格言が描かれたものや、ある缶コーヒーのパロディで
「管コーヒー」
その下に「無糖」ならぬ「無○」
なんて描かれたTシャツが並ぶ。
「しっかし、これは…」
と、僕は思わず独り言がでてしまう。
なんというか、このTシャツのコーナーだけはいわゆる「色モノ」が多いのだ。
「ちょっと、そこの彼氏君。暇そうだポン?」
「健太郎です」
「健太郎君。暇潰しにマジックでもみて見るポン?」
「マジックですか?」
「養老さん達が選んで居る間にみて見るポン!」
サービスいいなぁ。この、金太さんて人。
「どんなマジックを見せてくれるんですか?お願いします」
「よーし。先ずはこれを見せるポン!」
そう言って金太さんが取り出したのはシルクハット。
背中からだったけどいつの間に?という感じだ。
金太さんが俺に、シルクハットの中身が空洞なのをみせると、金太さんはシルクハットを縦に何回か回転させて止めた。
「ハイッ!」
金太さんがそう言うと、白いハトがでて来る。
「おー!」
僕は思わず声をあげた。
そしてその白いハトは飛び立つと、金太さんが指を鳴らす。
すると、煙を立てて空中で消えた。
どうなってるんだ?
「じゃあ、次いくポン!」
金太さんはそう言うと、今度は左手のひらを前に出す。
そこに右手で蓋をしたかと思うと
「ヤッ!」
という声をたてて右手を上げる。
すると、青い炎が現れた。
「スゲー!」
僕は正直驚いた。
金太さんはその炎を近くの服に近づける。
それをみた俺の方が慌ててしまう。
「わわっ!服に燃え移る!燃え移っちゃう!」
「平気だポン!」
慌てた僕をみて金太さんは笑っている。
このマジック。一体どうやって居るんだ?
金太さんは慌てふためく僕をよそに、まだ炎を服に当てていた。
炎のでている手を高速で動かし、燃え移る前に移動させて居る。だからこそ服が燃えないのだ。
僕はそう思っていた。
そして、そのマジックも終わる。
すると間もなくして美徳がこっちに戻ってきた。
「健太郎。お待たせ」
「キッコさんは着替え終わったのか?」
「うん。…キッコさん。出てきてー?」
キッコさんが試着室からでて来る。
それをみた僕は、ちょっと吹き出した。
キッコさんの格好は俗に言う「姫ファッション」で、フリルの長めのスカートにやはりフリル付きの服であった。
何か間違ってないか?
「美徳なぁ?今は夏だし、もっと普通にカジュアル感のあるのにしときゃいいのに」
この会話を横で聞いてたキッコさん。
僕のほうに近づいてきてこう言った。
「健太郎。あ、あたしかわいい?」
と。
しかもどこかもじもじしながらの上目使い。
一瞬ドキッとしたけどすぐ我にかえる。
キッコさんは「あたし」とは言わないのだから。
「なぁ美徳」
「なあに?」
「お前、キッコさんに何か吹き込んだだろう?」
「えへへ。バレたか!」
「美徳。悪いけどもキッコさんには似合わないよ」
「えー?そう?…じゃあ健太郎が選んでみなさいよ」
「わかった。選んでみるよ」
「じゃあ、お願いね」
美徳がクスッと笑う。
「健太郎くんだっけ?わっちがアドバイスするからキッコさんの服をみてみる?」
「はい」
あーして。こうなって。
僕は頭の中で考えるだけ考えた。
それで選んで、キッコさんに着てもらったのは、下をジーンズ柄のタイトスカート。夏なので濃いめの色(赤)で英語文字入りのTシャツというシンプルなもの。
それをみた美徳。
「うーん。シンプル過ぎるのよねえ」
「そうなのかい…」
良く分からない。
「健太郎。あたしのこの格好…かわいい…か?」
キッコさんが再び言う。
「僕はいいと思うけど」
「あたしは納得行かなーい!」
美徳が突っ込む。
「あらーん。養老さんに彼氏。意見合わないのねえ。どうしようかしら?」
意見がまとまらないのをみて茶子さんが入ってくる。
「もう二人ともきなさいよ。キッコさんの服を複数買うんでしょう?わっちもコーディネートするから」
茶子がこう言うと
「わしにも選ばせるポン!」
金太さんまで参加して来た。
お店の管理は?
金太さんまでもがコーディネートに参加する。
僕は気になってしまい金太さんに
「お店のほう、見なくていいんですか?」
と質問する。すると
「この時間はお客さんもまばらだし大丈夫だポン!来たらすぐに離れるポン!」
こう言ってきた。
それなので、大丈夫なのだろう。
そして僕と美徳、茶子さんと金太さんとで、キッコさんの服のコーディネートが開始される。
僕はカジュアル感のあるモノを選び、美徳はかわいい系のモノ。
そして茶子さんはどこか地味だが大人っぽいモノ。
そして金太さんの選んだ服はアロハシャツ系の派手なものだった。
キッコさんの身体の上に、ハンガーをかけたままの服をあてていく。
そして、キッコさんが選んだ服は美徳と茶子さんがコーディネートした服であった。
キッコさんが美徳の服を選んだ時に美徳が僕に
「ほーら。みなさいよ。服のセンスは女の子には女の子のしか分からないんだから!」
「うるさいって!」
僕は少しばかり悔しかった。
そして、服を買う。
お代は、全部美徳がもってくれた。
そしてキッコさんは
美徳の選んだ服に着替えて、試着室から出てくる。
うれしそうなキッコさん。
「美徳や。ありがとう。恩にきるよ」
「いいえ。どういたしまして」
買った服を袋に詰めて、3人で店を出ようとした時だった。
キッコさんがふん、ふんと鼻を鳴らし、立ち止まってしまった。
「キッコさん。どうしたの?」
「くん、くん。かすかじゃが、妖気のかすが残っておる」
「妖気のかすって?キッコさん?」
「ちょうどこの所から、微かに妖気を感じとれるのじゃ」
キッコさんは妖気が残っているらしい服を掴む。
「あっ!それは!?金太さんが炎をあてた服の一つじゃん!」
「なに?『炎をあてた』とな?」
「うん。金太さんが手から青白い炎を手から出して服をなぞったんだよ。燃えそうで燃えない。不思議だった」
俺は、キッコさんにその時の事を伝えた。
「あい、分かった。この中にあたいと同じ妖怪が居るぞ」
「えっ!どこ?どこに!?」
「お主も鈍いのう。その金太のだす『まじっく』とやらが変とは思わなんだか?」
「はい!?マジックはマジックでしょ?」
「あははっ!そうか、金太とやらめ。上手い事しよって」
金太さんに何かあるんですか?」
「ちょいと心あたりがの。健太郎や。ちょいと一緒にこっちに来てたもれ」
僕はキッコさんに言われついていく。
「ちょっとー?何を二人で話してるのよー?」
すぐ横にいた美徳が話しに入ってきた。
「いや、なに。キッコさんが金太さんの事を気になるらしいんだ。それでさ」
「それで、なに?」
「会って話しでもしたいんじゃないか?」
「『したいんじゃないか』って。決めてないのね」
「ごめん。キッコさんの話しだと、金太さんが妖怪だとか何とか」
「金太さんが妖怪!?」
「うん。金太さんがマジックを見せてくれたんだけど、キッコさんによればそれがマジックではなくて妖術なんだって」
「えー?妖術なのー?信じられないわよ。あたしが前にきた時に見せてくれたのだって、ずっとマジックだと言って楽しませてくれたんだけど。それが妖術って?」
「美徳も前にあったんじゃな?所で、金太とは店の付き合いはどの位かのう?」
「うーん。かれこれ10年位かなぁ?」
「10年位とな?それで、美徳の歳は幾つじゃ?」
「えー?言うのー?花も恥じらうセブンティーンよっ!」
「美徳ぃ!何なんだよ。それはっ!」
「ほほう。では、美徳は幼き頃から付き合いがあると。して、金太は昔からああなのか?『ポン』とかいうのは?」
「うーん?あたしが中学生になる前くらいだと、金太さんが『ポン』って言っていた記憶が無いなー?その、中学生になってからある日突然、
明るさが増した感じで、語尾に『ポン』をつける様になったのよねー」
「ある日突然とな?予兆とかあるやも知れんのじゃがなぁ。むー?」
キッコさんが考え込む。
そしてキッコさんが考え込んで居ると、まだ店を出て居ない僕たちをみて、金太さんがよってきたのだ。
「養老さんたち。何を話してるポン?」
「金太さん…実は。キッコさんが金太さんの事を気になってるみたいで」
「何が気になるポン?」
「それは…」
ちょっと言葉に詰まる美徳。
その様子をみてキッコさんのほうから金太さんに話し出した。
「のう、お主。金太とやら。あたいはねぇ。金太が妖怪であると睨んでるんじゃがどうか?」
「はい?わしが妖怪?そんな事無いポン!」
「そうかのう?健太郎にみせたまじっくといい、言葉の語尾に『ポン』をつけるなぞ、昔いた、いたずら仲間のポン太郎にそっくりなのじゃ。
あたいが社で人間に問うた『輪廻転生』というので、現代に蘇ったのかと思うての。違うか?」
「違うポン!第一、髪を金色に染めて、昔の言葉を使う人に言われたくないポン!」
「失礼な!この金色の髪は地毛じゃ!あたいは狐の妖怪…むぐっ!?」
「わー!キッコさん!そこまで!」
「んー!○☆※〆(何故口を塞ぐのじゃ)!」
「キッコさんは人間だから!」
僕は、小さな声でキッコさんに耳打ちする。
「キッコさん。今は、妖怪なんて先ず有り得無いこと。人間社会なんだ。キッコさんが妖怪だなんて知れたら大変な事になるんだ。
今は我慢してくださいよ」
「○☆※〆(そうなのか?)」
僕は、キッコさんの口を塞いだままだったので、キッコさんが何を言ったか分からなかったが、力が抜けていたので、解ってもらえたのだと思った。
それで、手を離す。
キッコさんは力を抜き、落ち着いた。
「お客様。何を取り乱しているポン?」
「金太さん。この人は、金太さんをみて、生まれ故郷の幼かった時の知り合いと思ったらしいんですよ。それで、取り乱して」
「そうですか」
「キッコさん。それじゃ行きましょうか」
そう言って帰る事を促し、キッコさんをみた時だった。
普段は隠している耳と、尻尾が出て居るじゃないか!
これはまずいと思った。
だがしかし、それをみた金太さんの顔が赤くなったかと思ったら、金太さんの頭に耳が生えたのだった。
それをみた僕のほうが驚いた。
それで思わず口にする。
「うわわ。金太さんの頭の有り得ない所に耳が!」
「なぬー!そんな筈ないポン!」
今度は金太さんが自分の頭を掻くようにしてさわり始め、取り乱してしまった。
「金太さんも取り乱してるじゃん!?…それよりもその耳、まるで狸!と言う事はキッコさんの言う通り、妖怪!?」
「うう。バレてしまったポン」
金太さんはまだ顔を赤くしたまま、恥ずかしがっているようだ。
これをみていた美徳は、右手を口の前にもっていき、それこそ
「まあ!?」
という感じで驚いている。
そして、キッコさんが金太さんに近づいた。
「やはりか。えらい久しぶりじゃのう。ポン太郎?元気にしておったか?」
そう言って、金太さんの肩を、キッコさんがぽんと叩く。
するといきなり
「わー!」
と声をあげて向こうに行ってしまった。
僕が向こうをみると、金太さん?は茶子さんに捕まり
何やら説教されて居る。
その説教は短くて今度は金太さんと茶子さん二人でこちらに来た。
「ははは。キッコさん。久しぶりね。どう蘇ったの?」
茶子さんはもう耳を生やし、隠す素振りも無くキッコさんに近づく。
「その姿は…ポン子じゃな!?久しぶりじゃな。お主も蘇ったのか」
「わっちは蘇ったのとは違うみたい何だけど?それよりもキッコの蘇った理由が先よ。聞かせてちょうだい?」
「あい、分かった。あたいが出てこれたのはそこの少年のおかげなのじゃ。長いこと社に封印されておったが、この少年により解かれての。」
「へえー。ねえ、健太郎くん。どうしてキッコを蘇がえさせたのか説明してくれない?」
茶子さんの目が輝いている。
そして、僕は答える。
「それは、偶然なんです。僕が社をみていて下に倒れていた石が気になって。それを起こした時に、一緒にあった綱が切れて。
そうしたら、後になってキッコさんが家に現れたんです」
「直接、健太郎くんの家にいたの?」
「はい。カギはちゃんとかけていたし最初はどうやって入ったんだ?って。それで、キッコさんのほうからあの社から助けてもらったとか言って。それでなんと無く分かったけど」
「…うちは礼を言ったが、健太郎は大して驚きもせず受け入れてのう…そうじゃ。健太郎、昔の住人はうちの姿をみて
大層驚いたもんじゃが。相当にまで冷静でおったのはどうしてじゃ?」
「それは、古くからこの地には言い伝えがあってね。キッコさんも見たでしょう!?証乗寺を。あの寺の言い伝えは、お話だけじゃなくて歌にもなったんです。
それが元で全国に知られる様になって。
『それじゃあいつ、化け狸とか現れてもおかしくないんだ。』って」
「美徳はどうじゃ?」
「あたしも健太郎と大体一緒ね。この街に生まれた時から、狸の事は当たり前みたいに育ったし。
あたしの場合は小さい頃から狸囃子の稽古をやっていたから、何だか驚けなかったのよね」
「慣れ親しんでたのね!わっちはずっと不思議で仕方なかったのよ。知る事が出来て良かったわぁ」
茶子さんが言う。
「そうじゃったのか。しかしのう。今度はポン太郎にポン子が今こうして、姿をかえて居る事を知りたいのじゃが」
「それなら、ワシが答えるポン。ここには、突然飛ばされたんだポン。
一度死んで、それでも供養によって意識はあったワシは、
ある日突然この身体に入ったんだポン!最初わけ分からなかったけど、頭が痛いので撫でてみたら
コブがあって、どうやらこの身体の主が何かの衝撃でワシの魂と入れ替わったと、そう思ったポン!それからもう十年以上経つポン!」
「じゃあ、入れ替わった魂はどうなっているんだ?」
僕は疑問に思って言った。
「魂?魂はワシそのものだポン!ワシは『前世返り』でこの世に居るんだポン!」
「『前世返り』ですか!?なにそれ!」
僕がそう言うと、金太さんは一度そっぽを向き、眉間の辺りを掻く。
何か考えている様だ。
「五井くん。『輪廻転生』と言うのは知ってるかポン?」
「えっ!?…聞いた事はありますね。確か、死んでから生まれかわる時、別の人間や動物になるって奴でしょ。」
「そうだポン!ただ、ワシの場合はちょっと違うみたいで、同じ魂何だけど何かの
ショックで前世の記憶が蘇る『前世返り』だと、そう教わったポン!」
「教わった?それって誰にですか?証乗寺のお坊さんとか?」
「そうじゃ無いポン!この近くに、占いの館があって、そこの占い師に教えてもらったのだポン!」
「『占いの館』かぁ。それってどこにあるんです?」
「それはね。木皿津コミュニティープラザの一階にあるポン!」
「あー。あそこの建物の一階かぁ。行ってみるかな?」
「健太郎?後で行ってみる?」
「そうしてみようか。覗くだけ覗いてみよう」
「のう、健太郎や。もう少しポン太郎と話をしていいか?」
「まだ時間あるし、いいですよ」
「さようか。では…」
そう言うとキッコさんはポン太郎さんと二人でなにかを話はじめた。
店内に流しているラジカセからの音楽に二人の
話の内容は掻き消され、何を話してるか分からなかったけど様子を見ていると最後、二人して何か不適な笑みをうかべて
いたのはみえた。
何を話しているんだか。
怪しいよなぁー。
暫くして、キッコさんはこっちに戻ってくる。
「じゃあ行ってみようか。占いの館」
僕がそう言って出ようとした時だった。
「ちょっと。健太郎?あたしにこんなに荷物を持たせる気?」
そう言って美徳がキッコさんの為に買った、服の入った袋を指し示す。
「はい、はい。持ちますよ」
僕は、美徳が買った服の袋を全部持った。
「ありがとうございましたー」
金太さんと茶子さんに見送られて?
店を後にする。
僕は荷物を持ちながら歩く。
先行して、キッコさんと美徳が歩く。
「……。」
一度はコミュニティープラザにある「占いの館」に行こうとはしたものの、荷物の重さに僕が億劫になってきた。
「キッコさんに美徳。やっぱり行くのは止めによう」
「何でよ。行こうって言ったのは健太郎じゃないの?」
「…この荷物を見てくれよ。占いの館なら、近い内にきっと行ける。
それに、この荷物を整理するのが先だと思うぞ。」
「うーん。そうねえ。あたしもキッコさんのほかの姿を見てみたいし…キッコさんはどうなの?」
「あたい?あたいも実は、もっと早くほかのも着てみたい!」
「じゃあ、決まりだな。家にもどろう」
………。
自分の家。
帰って来るとキッコさんと美徳は、早々に、袋から衣類を取り出す。
「わあ~。これかわいいー」
そう言って、美徳が服を次から次へと広げる。
時にはキッコさんの身体の上に服を這わせて見たりしている。
対してキッコさんは、顔は喜んでいるけれど美徳よりは冷静に見えた。
「スッゴく楽しそうじゃん!?美徳」
「そりゃあ楽しいわよ。妹が出来たみたいで」
なにぃ?妹とは?美徳はキッコさんをそういう風にみているのか?
「…でね。あれとそれと。キッコさん。着替えて貰っていーい?」
「あぁ。かまわぬがのぉ」
何だかまた、美徳がキッコさんに催促している。
コレは見なければ!
「…じゃあ、健太郎はこの部屋から出てね?覗かないでね!」
「はいよ」
続く