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お稲荷さま  作者: 麻本
2/18

キッコさんとの日常

キッコさんに目を向けると、キッコさんは美徳をじーっと見ている。

僕はどうしたかと思ったが、

どうやら美徳の食べ方を知りたい様だった。

美徳が、器に直接口を付けて飲むのを見ると、キッコさんも真似て口をつけて飲んだ。

キッコさんは、ゆっくり器を下ろすと、ほーっとため息をついた。

僕は、キッコさんを見ると、キッコさんの表情がうっとりとでもしている様に見えた。

満足したのだろうか?

…食器の片付けは、美徳に言われ僕がやる事になった。

しかし、側に美徳が居て美徳は僕が洗い終わった器の水を切るなどし、テキパキと片付けてくれた。

そういや、何故最初から妖弧と分かって驚かないのかって?

本人が妖怪だと言った上に、最初から2尾に分かれた尻尾だけは、見えていたからだ。

それがあったから、余り驚いたりしなかった。

でも、改めてみると耳が有り金髪で、尻尾がある。

やっぱり妖怪か何かなんだなぁと、つくづく思う。

そんな事を思っていると、キッコさんがTVの前に近づいてきた。

「コレは何じゃ?箱の中に人間と、声が聞こえる」

「テレビって言うんだ。電波を受けたら、この箱の中で映像や音に変えて映すんですよ」

「ほほー。コレがてれびか」

僕はこの後、何だかありがちな?キッコさんがテレビの周りをうろついてバンバン叩く姿を想像した。

「神社で聞いていたのじゃが、こいつがそのてれびなんじゃな。『ふっこうしえん』とやらはどうなって居るんじゃかのう?健太郎や?」

…だが違った。

「地震からの復興支援は各地で進んでますよ。もう、あの地震から1カ月と少し経つんですから」

「左様か。少し前に、ふっこうしえんとやらがじゅんぐり行く様に祈りに来た者が居ての。『てれび』と『ふっこうしえん』と言うのが気になっておったのじゃ。そのふっこうしえんの事は、このてれびで伝言されるのじゃな?」

「伝言って…古っ!」

美徳が言う。

「でも、てれびを通して人が物事を事細かに伝えておるぞ?伝言以外に何があるのじゃ?」

「放送って言うんだけど」

「ほうそう?」

「うん。放送」

「左様か」

…テレビの周りでうろうろは?

テレビ叩きは?

覗き込みは~~!?


僕は思わず、地団駄を踏みたくなる衝動にかられた。

それから、3人でテレビを少しみていた。時間も結構遅くなっていた。

「もう、こんな時間!?帰んなきゃ」

「帰るの?美徳?」

「帰るわよ。10時回りそうなんだもん」

「送っていこうか?」

「いい。大丈夫だから」

「そうか。今日はありがとうな」

僕は玄関までは見送る事にした。

「…じゃあ、キッコさんの事をちゃんと面倒見るのよ。それに、明日は学校なんだし。遅刻しないでね」

「はいよ。わかった」

「じゃあねー」

美徳は帰った。

後は風呂入って寝るだけなんだが。

「キッコさん。風呂が有るんだけどどうする?」

「ふろか?お主が先に入ってくれ。あたいはゆっくり入りたい」

「そうなんだ」

僕は、キッコさんより先に入る事にした。

「ふう」

風呂に浸かる。何だか急に、すごい事になったなあ。

たまたま通りがかった稲荷神社の石を直したら、後でキッコさんが現れて。

でもこれって妖怪?いや、死んでいた人?なのだから心霊ともいえなくもないし…

分からないなー?

でも、実際に居るわけで。

これから、どうしようか?何だか「イタズラ好き」ってのが

引っ掛かるんだけど。

そんな事を考えながら風呂に浸かる。

後は普通に体と髪を洗って出る。

「キッコさん。風呂開いたよ」

「そうか。それでは頂くよ。で、風呂場は何処じゃ?」

そうか!一度はそこに隠したけど、だからって覚えてる訳じゃないんだ。

「キッコさん。こっちだよ」

僕はキッコさんを風呂場に案内した。

「じゃあ、寝間着はここに置いておくので着て下さい」

僕はそう言って、もとは親父の着ていたバスローブをおいて「ぽん」と

叩きしめした。

それから出て、応接間に戻りテレビを見ながらほけーっとしていたら、

「ふぎゃーっ!あちいーっ!」

と、キッコさんの声がした。

またかよ!?

僕は、風呂場のほうへ急いで駆け寄りドアを開け、様子をみた。

見ると、シャワーから出るお湯を熱がって手をジタバタやっているキッコさんの姿があった。

「ちょっ…!どいて!」

僕は蛇口に駆け寄って栓を閉める。

その時僕も、このお湯を被ったが確かに熱かった。

家の場合は、蛇口にお湯と水の二つがあって、水を使って温度調節をしなきゃいけないタイプの、古いものだ。

「これでよし」

そう言いながらふと、キッコさんを見ると…


キッコさんは裸で、大事な部分を隠しつつ、こっちを見ていた。

顔が赤くなっている。

キッコさんが裸なので僕も見る訳には行かず、それでも至近距離なので少し視界に入ってしまう。


悲しい男の性というのだろう。

僕はチラ見した。

その時見たキッコさんの身体は「がっしり体型」に思えた。

「あっ!?今、あたいの事見たじゃろ?お湯を止めたんなら、早く出ていけーっ!」

そう言って風呂桶を投げつけられた。


カコーン!

風呂桶は俺の顔面目掛けて飛んできてヒットした。

痛てえよ。

…しばらくしてキッコさんはバスローブを身に纏いでて来た。

そして、僕の目の前まで来た。

「?」

そして腰を落としながらこっちに接近して、目を潤ませた。

な、なんだ?

「お主に大事な裸を見られた~。もう、お嫁にいけないー。しくしく~」

そう言って大泣きする。

あれがとっさの事とはいえ、少々悪いなと思った俺は近づいて謝ろうとした。

「キッコさん。ごめん」

僕は謝った。しかし、よく見るとキッコさんはウソ泣きをしていた。

「何いッ!キッコさん。ウソ泣きはひでえよ!?」

「ほほ。バレたか」

まったく。この妖怪は。


そして、寝る時間になった。

「もう、僕は寝るけど。キッコさんは?」

「さようか?うーん?添い寝してやろか?」

「はい?何で?いいって。キッコさんのは他の部屋に布団を敷いたし」

「お主の寝ようとしているこの部屋なぁ。昔の長屋の広さを思い出させるんじゃ」

「長屋の広さ?」

「ああ。…この広さだと三間位かのう?」

「この部屋は6畳ほどだけど…」

「ろく畳?畳の?そうか。広さに間違いはないと思うが、ろく畳というんじゃな。その昔はこの広さに四人で住んでおった」

「6畳に4人!?」

「そうじゃー。物はと言えばたんすひとつとちゃぶ台位じゃて。普通に過ごせたわい。お主の部屋には物が溢れておるが、もう一つ位は敷けそうじゃな。えいっ!」

そう言ってキッコさんが腕を振りかざすと、何処からともなく布団が現れた。

「あっ!その柄は、隣の部屋に敷いたはずの布団」

僕は自分の部屋をでて、隣の部屋を見に行く。

すると、隣りの部屋の布団は確かに消えていた。

キッコさんはこんな事も出来るのか。

部屋に戻り、寝る事にする。

「キッコさんお休み」

「ん。お休み」

仕方ないので僕は、同じ部屋で寝る事にした。


ん?なんだか起きてしまった。

まだ目はつむって居るけど何か、黒い影というか圧迫感があるのだ。

なんなんだろう?

僕はゆっくりと目を開ける。

「おわっ!?」

目の前の光景に思わず声がでてしまった。

キッコさん?

目の前で、キッコさんは宙に浮いていた。

しかも前屈の状態でふわふわと。

そして、目の前から右の方向へゆっくりと流れてゆく。

ごちっ。

あ。ぶつかった。

「うっ。う~~ん」

身体が反転する。

がすっ。

「痛ったぁ~」

これでも起きないの?

何だか…これでキッコさんがもし金髪のボサボサのロングヘアでなくて、黒い髪のストレートヘアだったりしたら貞子さながらだな。

なんて考えていたら目が醒めてしまった。

いかん。明日は学校だと言うに。

寝よう。

僕はもう一度寝てみた。今度は…影を感じない。

ちょっと気になったので、上半身を起こして部屋を見渡す。

すると、キッコさんは角で引っかかっていて、浮いたまま寝ていた。

「…」

僕は絶句した。

「…寝よ」


うーん。外が何か明るいな。

そう感じながら、目が覚めた。

「おはようさん。やっと起きたか」

直ぐ側にキッコさんがいた。

「おう…はよ」

時計を見ると、アラームをセットした時間の10分程前。

キッコさんが、雨戸を開けた事で光が差して、それで目が覚めた。

「お主、朝はどうしてるんじゃ?」

「軽く食べたらすぐに支度して出るよ。学校に行かないと」

「がっこう?」

「…寺子屋」

「おぅ!寺子屋か。付いていっていいか?」

「だめ!キッコさんは留守番してて!」

「えー?留守番してなきゃだめかー?外をもっと知りたい」

「とにかくダメ!キッコさん。今はまだテレビとかで今を知ってくださいよ。それから時間潰しにもなるから」

「時間つぶしか。そうしようかの。

ところで、てれびとは、どうやって違うのを見るのだ?沢山見るのがあるのは昨日分かった。だが、切り替えが分からんのじゃ」

そう言って首を傾げた。

僕は、テレビ用のリモコンを取り出しキッコさんに説明する。

「この数字のがチャンネルの釦。このレバーが音の大きさを変えるやつで。もう一つは同じくチャンネルのレバーね。あとは弄らないほうがいいから。」

僕は、キッコさんにテレビリモコンの操作を教えたあと、豆乳とバナナ一本だけを食べて家を出た。


―学校。


養老美徳は既に教室にいた。

「おはよっ!健太郎」

「よう。美徳。おはよう」

「昨日はあれからキッコさんはどうだったの?」

「どうって……テレビ観て、あと風呂に入って貰ってたら夕方と同じで熱湯浴びてた。それから、寝たんだけどキッコさんは宙に浮いてさぁ」

「熱湯!?どうしたのよ?」

「ほら、あれの温度調節の仕方を教えて無かったから。それで、お湯のだけ開けたからね」

「ふーん。それとさ、宙に浮くってどんな風に?」

「それこそ、風船みたいにふわふわと」

「ふわふわ?どんな格好で?」

「身体が内側に曲がって、腕を伸ばす感じ・・・」

僕がそう言ったら美徳は目をつむる。何か想像したようだ。

「もしかして前屈?」

「言葉だけで言われても分からないよ。美徳、実際にやってみせてよ」

「そう?…こんな感じだったんでしょう?」

僕の近くに立っていた美徳は、その場で、前屈をして見せた。

「そう。そんな感じ」

「ふーん?」

こんな事を言ってたら一人が割って入ってきた。

「やあ、仲良し夫婦!」

「な、中島っ。なによ!『仲良し夫婦』って!そんなんじゃ無いわよ!」

「そぉ?ただでさえこのクラスじゃ男女で話ししてるの少ないのに、あんたら見てるとしょっちゅうつるんでるからさぁ。言いたくもなるわよ」

いきなり現れた中島は少し目を細めて言う。

「そうかなぁ?」

「そうだって!…あんたたち、確か幼なじみだったよね?」

「そうだけど」

「そうだな」

「ほら。やっぱり」


…キーンコーンカーンコーン。


予鈴がなり、授業が始まる。

……あっと言う間に放課後。

ここは科学部の部室。

この間買っておいた電材を持ち込み、作る。


カシャコショ…カシャ…

「健太郎。何を作ってるの?」

同じ科学部の部員である美徳が質問する。

「目覚まし時計の改良型。鐘を叩くハンマーの所に細工して、どんな事があっても起きるようにする」

「どんなって?」

「これが出来たら三年○太郎だってきっと起きるゼ!」

「ない、ない」

美徳が左右に首を振った。


…そして帰宅。

美徳とは途中で別れて帰路につく。

「ただいまー」

あれ?返事が無い。ちょっと応接間に行ってみるとテレビの音がした。

キッコさんはテレビを見ていたのだ。

「何か面白いのやっていました?」

「おお、健太郎か。お帰り」

「何を見ていたの?」

「ぜー○がたーへいじーとか言っていたやつじゃ」

「歌の部分?時代劇か」

「じだいげき?」

「うん。それこそ、キッコさんが生きていた時代くらいの頃のやつだね」

「建物みてそれは感じたのじゃが…。あり得ない所も多く、派手じゃったなあ」

「それがテレビだから」

「そういうものかぁ!?」

「そういうものだよ?」

「さて。早速だけどご飯にしようか」

「飯にするのか?手伝おうか?」

「いや、いいです。それよりも先に風呂に―。…キッコさん。お湯の出し方教えますよ。ついてきて」

「さようか。熱湯を浴びるのはこりごりじゃ。教えてくれ」

キッコさんが僕の後をついて来る。

そして、お湯の調整を教える。

「まず、ここの釦を押したら、次は蛇口の赤い方をひねって。

熱くなったら今度は水色の蛇口をひねって好みの温度に下げればいいから」

「なるほど」

「じゃあ、僕は飯の支度するから」


なんだかんだで、ご飯も食べ終わり、寝る時間になる。

しばらくすると、またキッコさんの身体が宙に浮いた。

それを見た僕は、キッコさんを起こす事にする。

キッコさんはヘリウムガスを入れた風船の如く、ふわふわ浮いている。

「…キッコさん。キッコさん」

僕はキッコさんの後頭部を軽く叩いて起こそうとする。

「ふぁ?」

キッコさんの目が覚める。すると。

「きゃいんっ!」

キッコさんはお腹の辺りから

どてっ。

と、音を立てて床に落ちた。

「あ……」

「あいたたたぁ。もろに打った。…健太郎か。どうした?」

「キッコさん。毎回浮いたまま寝るのはどうかと。ダンベルでもくくりつけましょうか?」

「だんべる?なんじゃそれ?」

「これです」

僕はキッコさんにダンベルを手渡す。

「重い。つけもの石の様じゃ。…ひょっとしてコレを体にくくりつけろと?」

「そうです。浮かない様にするために」

「それは嫌じゃ」

「じゃあ、柱にでもくくりつけてあげますっ!」

「もっと嫌じゃ」

そう言いながら、キッコさんは部屋を見渡す。

「ならば、ここが良い!」

キッコさんが指差した先は押し入れだった。

「押し入れ!?」

押し入れとは…

まるでドラ○もん…

どうしてこういう場所を選ぶのだろうと思ったけれど。

ちょっと考えると元動物の習性?などと、自分自身を納得させたのであった。

「しょうがない。じゃあキッコさん。押し入れの下のほうを片付けるから待ってて。

「ものをどかすのか?手伝うよ」

「助かります」

幸いに、押し入れの下には重量物はなく、簡単に

移動させる事が出来た。

「キッコさん。じゃあおやすみなさい」

「ん。おやすみ」

キッコさんは押し入れの戸をスーッと閉めて眠りについた。

僕も寝よう。

……朝。

目覚ましよりも早く起きてしまった僕は

キッコさんを起こそうと思い扉を開けた。

そしてみると、布団にキッコさんの姿が無い。

「あれ?どこだ?」

そう思って僕は、隣の部屋や台所、応接間や脱衣場などを

探す。

居ない……。

僕はもう一度押し入れに戻って考える。

……何か問題に直面した時に僕はある言葉を思い浮かべて行動するようにしている。

それは。

「押してダメなら引いてみな。引いてもダメならほいさっさ!」

とかけ声をして、上下左右を隈無くみて捜す。

すると、

「こんな所にいた・・・」

キッコさんはまるで忍者みたいに、大の字になって天井にへばりついて寝ていた。

「よし。起こしちゃれ」

僕はキッコさんの頬を人差し指で強めにツンツンと押した。

「んあ?」

キッコさんが目を醒ます。

「ふっ!」

…するとキッコさんは吊っていた糸が切れたかのように落下して、布団に「ぼふっ!」という音を立てて落ちた。


「…じゃあ、今日も大人しくしてて下さいね」

「はいなー」


―学校―


放課後。

「健太郎。キッコさんはどう?」

「結構大変だよ」

「キッコさんは昔の人だから事ある毎に『あれは何?これは何?』ってさ。それで教えるのが結構大変。

時々うんざりする事があるよ」

「『うんざり』って。優しくないのね!キッコさんは現代にいきなりだけど現れて、この時代に合わせて物事を吸収しようと必至なんじゃないの!?それをさぁ。ちゃんと教えてあげなさいよ!」

「そう…か」

「分かったみたいね。だったら、今日学校終わったら健太郎の所にお邪魔するから」

「えっ!家に来るのか?」

「何か問題でも?」

「ある!まだ数日だけだぜ?ちゃんと教えるようにするから今度にてくれっ!」

「そう。じゃあ仕方ないわね。しっかりとキッコさんの面倒をみるのよ?」

「ああ。分かった」


―そして帰宅。

「ただいま。キッコさんいますかー?」

「おお。健太郎、お帰りー」

そういわれてキッコさんを見るなり

キッコさんの格好のちょっとした変化に気がついた。

みると、足が濡れた感じで、腕まくりもしている。

「キッコさん足が濡れてるみたいだけど何してんの?」

「うん?せんたく物が溜まってきた見たいだからせんたくをじゃなぁ?」

「洗濯!?どうやって!?」

「おぃ?こう盥にせんたくものをあけてじゃなあ。灰を入れて、手揉み洗いでゴシゴシと」

「今は盥使って手で洗わなくっても……って盥に灰?キッコさん!あんた、盥とかそんな物どこからだしたっ!?」

「どこからじゃと?それならこうしてこう…灰なんかはほれ。こうやって」

キッコさんは左の手のひらを下にすると、そこに右手をもって行き、その

右手を握ると灰色の粉が出てきた。

「どこかの国の奇術師かよっ!?」

僕は思わず突っ込みを入れた。

「妖術じゃて」

「それと、水が薄く灰色に濁って壁にも散ってるじゃないですか!」

「汚してしまったか。済まぬのう。しかしじゃ。昔はこの灰を使ってこすりあわせて汚れを取っていたんじゃよ。

その証拠にほれ。靴下とかいうのの茶色汚れは薄くなっとる」

そう言われて、手に取って確認してみた。

「わぁ!確かに汚れが薄くなってる。……て、キッコさん。今は洗濯機と洗剤を使って、手間無くきれいに汚れ落ちるから」

「手間無く?なんだ?前の『すいはんき』みたいに機械とやらがやってくれるのか?」

「そうですよ。…じゃあ、洗濯物を僕に渡してくれますか?」

「あい、分かった。所で、その洗濯機とはどんなものじゃ?」

「コレですよ」

僕は洗濯機の中に洗濯物を放り込んだ。

全自動洗濯機で、蓋がほとんど透明になっている。

僕は洗剤の「チャレンジα」だけを入れてスイッチを入れた。

スイッチを入れて、洗濯機から離れようと振り返るとキッコさんが不思議そうに洗濯機を見ている。

それなんで僕はキッコさんを、洗濯機の正面に誘導して、それを見せた。

するとキッコさんが

「面白い動きじゃ」

と言いながらじっと見ている。

洗濯機の渦が回る。


ゴウゥン。

「じーっ」

ゴウゥン。

「じー」

ゴウゥン……ゴウゥン。

「じーっ。……うーん。目が回るぅぅ~」

そう言ってキッコさんがその場で目を回してパタッと倒れた。

…まさか、こんな間近で古典的ギャグを見れるとは思わなかったな。

ちょっとだけ放っておこう。面白いから。

見ればまだ目を回して、首が少し動き何やら唸っていた。

…さて、起こすか。

僕はキッコさんを起こした。

「キッコさん。かなり面白いもの見させてもらったよ」

「渦を見て目を回すなんて不覚じゃ。健太郎や。お主笑っておったな」

「あれが笑わずにいられますかっ!」

洗濯も終わり、部屋干しをする。

その作業中にキッコさんが言ってきた。

「なぁ。健太郎や」

「なんですか?」

「そろそろ外の空気も吸いたいんじゃけど?」

「うーん。……やっぱりダメですよ。キッコさんは妖怪だし、その、今風じゃ無い格好が目立つし」

「そこを何とか!あたいは外を歩きたいんじゃ!」

そういわれて僕は考えた。

今は夜。

新興住宅地で夜は人もまばら。

家から公園も近いのだ。

「じゃあいいですよ。一緒にだったら。行きましょうか?」

「いいのか?」

「はい」

…そんな訳で僕はキッコさんを外に連れ出した。

家を出て、ちょっとしたら僕はキッコさんがちゃんと付いてきてるかどうか確認する為に振り返る。

すると、もう居ない!

「キッコさんの奴!どこへいった!」

僕は思わず叫んでしまう。

「ここじゃよ。健太郎」

キッコさんの声が上からする。

ん?上!?

キッコさんが浮遊しながら付いてきてるのを見て吹き出した。

「ぶっ!キッコさん。浮いちゃ駄目だって!普通に歩いてよ!」

「そうなのか?眺めがよくてこの方がいいんじゃけども」

「駄目!」

「ちぇーっ」

全く。何かの漫画の鬼娘かっての!

そんなこんなで公園に着く。

「ふう。夜風が気持ちいい」

キッコさんは風を感じながら伸びをした。

「……」

僕はただ黙ってキッコさんを見る。

…ふわっ。

キッコさんが宙に浮いたのをみた。

「キッコさんてば!宙に浮いちゃ駄目だったら!」

「そこに丁度いい木があるのでな。ちょっとだけ」

そう言ってキッコさんは僕の制止を聞かずに近くの木に登る。

「おーい。キッコさん。落ちるなよー?」

「いい眺めじゃ♪」

…聞いてないし。

「んん?腕がカユい。蚊に刺された!」

今は夏。この季節、公園には蚊が多い。

「おーい。キッコさん。蚊に刺されちゃうし帰りたいんだけど」

「もう少しだけ」

「しょうがないか…って。蚊!このやろ!」

バシーン!

僕は腕に止まった蚊を仕留める。

……何分か後。

「キッコさんてば。蚊に刺されてるんで帰りたいんだけど」

「そうなのか?じゃあ、そっちに行くなぁ」

キッコさんはそう言うと木からゆっくりと宙から降りる。

こういうのをみるとキッコさんが妖怪であると

認識させられるけれど、もう馴れた。


―翌日、学校。


「ねえ、健太郎。今日の部活の会議どうするの?」

「じゃあ悪いけども美徳。そういう訳で美徳が出てくれ」

「言うと思ったわよ。今日こそは会議に一緒にでてもらいますからね!?」

美徳が僕に近づいて、耳を引っ張った。

「いてー!耳を引っ張っるなよ!」

「こうでもしないと逃げるでしょーが。あんたは!」

「しくしく……」

部活会議というのは、月一で、生徒会が中心となり、各部活動の代表者が活動報告をするのである。

この学校はスポーツ、文化系の部活動が多く、しかも盛んで、報告とかだけでも

兎に角時間が掛かるのだ。

特に、文化系の報告は後になるのでそれの待ち時間が僕にはかったるくて仕方無かった。

でも今回は、美徳に捕まったので逃げれない。

報告の後、生徒会長が言う。

「秋の木皿津きさらつ狸囃子祭りの出し物を各部で考えておくようにお願いします」

こう言われ、そして解散となった。


―そして帰り。

僕の家と養老美徳の家は方向も一緒で、同じ町内。

そんなに離れてはいないのだが……。

「美徳!何故付いて来る!?」

「キッコさんで気になる事が有ってさー。着替えとかどうしてるのかなって」

「何?キッコさんの着替え?」

「そうよ。健太郎?キッコさんにはどうしてるの?」

「んーっと。特に夜は寝る時とか、バスローブか僕の替えのパジャマを着て貰ったりしてるけど。

昼間着てる和服は…そういやまだ脱衣所とかで見たことない!もしかして妖術で見せてるとか?」

「えっ?服をみてないの?」

「ああ」

「それだと、余計に妖術を使って見せて居る確率高いわね…。決めた!キッコさんに服を選んであげちゃおうっと」

「サイズとかどーするんだよ?」

「それならぁ。これからあんたの所へ行ってキッコさんのサイズを測るわ。気になっていたし、すぐにやらなくちゃ」

「それで付いて来てるのかい…」

「サイズとかどの位なのかしらねぇ。キッコさんガタイがいいしー♪」

「美徳…お前ってばひょっとしてキッコさんの女っぽくない所を喜んでないか?」

「何でよ?」

「そりゃあ、美徳はキッコさんより華奢かも知んないけど、耳を引っ張ったりとか十分に男勝りで暴力女だろ」

「誰が暴力女よ。失礼ねっ!」

「普段、何かある度に叩くのは何なんだ?」

「そんな事どうだっていいじゃない!」

「はあ?」

程なくして自宅に着く。

「ただいまー」

「おかえりー」

声はすれども姿は見えず。

奥の応接間に行くと

キッコさんは正座してテレビを見ていた。

「キッコさん。何を見ていたの?」

「どようさすぺんすとかいうやつじゃ!」

「土曜サスペンス?ああ、再放送のやつが今やってるんだ。面白いですか?」

因みに今日は金曜日だったりする。

「これは面白いな。罪人(犯人の事)が最後までうちには分からんかった!」

「そうなんだ……」

僕は何故か冷や汗がでた。

このテのドラマって言うのは後半に入った所で大抵は犯人がわかるもんなぁ。

それが最後まで分からずに興奮気味に話すキッコさんて…かわいい…のか?

いや、流石に昔の人と言うべきか。

こういうのにいちいち驚けるんだからな。

「ねー。キッコさん」

「なんじゃ?美徳」

「健太郎から聞いたわよ。外に出たんだって?」

「あぁ。出たぞ」

「それでねぇ。キッコさんに服を誂えたいと思うんだけど。

キッコさんの体を計らせて貰えないかなと思ってさー?」

「体をはかる?」

「うん。服を買うために必要だから」

「あたいの為に服を誂えてくれるとは嬉しいのう」

「キッコさん」

「なんじゃ?」

「キッコさんの今着ているその和服ってどうなの?」

「『どう』って何が言いたいのじゃ?美徳」

「ごめん。ちゃんとした和服なのか、妖術とかで見せているのかって事」

「それなら、妖術じゃな。美徳たちには妖術でもって服を見せてるんじゃが」

「妖術で?それを見せているのって、妖術のエネルギーを結構使うんじゃないの?キッコさん」

「えねるぎー?」

「あ。エネルギーじゃなくて力ね、力」

「ちからか。こんな服をみせるんは微々たるものじゃて」

キッコさんが微笑んだ。

美徳とキッコさんの会話を横で聞いていて僕は疑問が一つ出た。

それは、妖術を使わなかった場合にどうなるかだ。

なので、質問する事にする。

「ちょっと、キッコさん」

今度は健太郎か。何じゃ?」

「キッコさんが、もしも意識して妖術を使わない場合はどうなるの?」

「妖術を使わないとじゃと?はてなぁ?狐の姿になるか、この世から消えてしまうか。

どっちかじゃろう」

「試した事は?」

「無いわい!」

「そうか。存在が消えちゃうかも知れないんだ」

「ねえ。そろそろいいかしら。測りたいんだけど?」

「キッコさんの身体を測るのか?どーぞ、どーぞ」

僕は服の上から測るのだろうと想像して、その様子を見る事にする。

…が、一向にキッコさんの体を測る様子がない。

「……っ!」

キッコさんはこっちを向いて固まっている。

ちょっとすると美徳がぼくの方に寄ってきた。

「健太郎ぅ~?どうしてこっちを見てるのかしらー?」

美徳の視線がなぜか冷たい。

「どうしてって。服の上から測れるんじゃあないのか?」

「健太郎?あんたって天然?確信犯?因みに、服の上からじゃ測れないわよ」

「じゃあ…」

「出てけ!」

美徳がハイキックで追い出そうとする。

「ぐはっ!」

食らっちまった。

……。

俺は頃合いをみて、音を立てないようにして二人のいる部屋に行く。

部屋の前は襖になっていて、僅かな隙間があった。

これは!

キッコさんの背中と美徳の後ろ姿だけは見えた。

少し、話し声もする。

「キッコさん。胸、測るよ?」

美徳が何かやっている。

あれ?動きが止まった?

「うっ!負けてる~」

頭を下げて声の震えている美徳の姿があった。

続く

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