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白髪赤眼

「薄幸の美少女が遊びに来てあげたぞ」

「カードで間に合ってます」


インターホンが鳴り、母親から『お友達よー』と呼ばれ、誰だろうと思って玄関を開けると、ちびっこい部長がいた。

いつもは制服なのだが、今日は真っ白なワンピースを着て、麦わら帽子をかぶっている。全然普通なんだけど、部長がそういう格好をするとなぜか違和感を感じざるを得ない。

そして部長を見てから思ったのだが、僕に夏休みにいきなり訪ねて来るような友達はいなかったことに気がついた。不覚。


「まぁそう言うな。今日は部長と遊んでくれないか?」

「相方はどうしたんですか?」

「あいつは風邪ひいた」

「えっ…」


バカでも風邪はひくのか。いや、バカだから体調管理ができなくて風邪ひいたのか? まぁどっちにしろ『バカは風邪をひかない』は辞書から撤廃してもよさそうだ。


「だから暇なんだ。遊んで」

「部長。一日くらい遊ばなくても大丈夫ですよ。それにほら、宿題とかあるじゃないですか」

「宿題ならもう終わった。夏休み前にやった」


これは意外だった。

部長ならギリギリまでやらずに、なんか難癖をつけて先生を困らせているものだとばかり思っていた。部長の評価プラス5。


「遊んで遊んでって、何して遊ぶんです? てかそんなに暇なんですか?」

「暇というよりは、夏休みだから遊んでおきたいんだ」

「ゆっくり休むという考えはないんですか?」

「綾瀬君。君は夏休みをどこか勘違いしていないか? とりあえず暑いから家に上げてくれないか?」

「断ります」

「……」


断られたことによって先輩が泣きそうな顔になる。そんなにショックだったのかよ。


「わかりました。一緒にコンビニでも行きましょう」

「…はい」


僕はサンダルをつっかけて外に出た。


コンビニまでの道のりを先輩と並んで歩く。


「綾瀬君。君は意外とひどい人間だと思うぞ」

「そうですか? いきなり人の家を訪ねてくるような人よりはマシだと思いますけど」

「…怒ってる?」

「怒ってません。非常識な部長もいるもんだなぁと思ってるだけです」

「それは怒ってるんじゃないのか?」

「どちらかというなら呆れてます」

「そうか。それなら良かった」


フフフ、と小さく笑う部長。

麦わら帽子で表情は見えなかったが、笑顔なのだろう。

僕が怒っていなくて安心した、ってところだろうか?

まぁ知ってる人が訪ねてきてくれるのは、正直嬉しい。でも連絡も無しに来るのは非常識であろう。小学生かと思う。

小学生の頃から成長が止まってしまったように見える部長は、もしかしたら精神年齢まで小学生なのかもしれない。

そうこうしているとコンビニなんかはあっという間に着くもので、そこでなんとなくジュースとお菓子を買った。

そしてコンビニを出た僕と部長は、また来た道を引き返す。


「お菓子を買ったということは、家に上げてくれるということかい?」

「そんな期待した目で見ないでください。外は暑いので、家の中の方がいいかと思っただけです」

「ということは?」

「このお菓子は部長への手切れ金です」

「君は時々ひどいことを言うな。私は傷ついたぞ」

「どうせ嘘でしょ?」

「嘘じゃないし」

「はいはい」


部長が何か言いたそうに頬を膨らませていたが、目の前を通り過ぎていった人に目を奪われていた。

そして目でその女の人を見ていたかと思うと、僕の手をとって引っ張った。


「追うぞ。綾瀬君」

「えっ? あ、はい」


追うの?

僕らの前を歩いているのは、真っ白な髪の女の人だった。部長曰く、目が赤かったらしい。

目が赤くて髪が白いとなるとなんかのコスプレかとも思ったけど、コスプレにしてはクオリティが低すぎる。僕の知っているキャラとは似ても似つかない。あれじゃあメデューサの血は引けない。


「あれはなんだと思う?」

「ただ髪が白い女の人じゃないですか?」

「完全に校則違反だぞ」

「学生なんですか?」


そこで部長がピタリと足を止める。僕も慌てて足を止める。


「部長?」

「髪が白いというのは、なぜかわかるか?」

「…老化?」

「毛根のメラニン色素というのが生成されなくなるのが主な原因だ。だから老化が主な原因というわけではない。老化現象の一つではあるのだが、それ以外にも、生まれつきそのメラニン色素が生成されないという障害を持った赤ちゃんも生まれてくるそうだ」

「じゃああの人はそれが原因ってことですか?」

「多分そうだろう。若白髪であそこまで綺麗に真っ白になることはないだろ」

「カツラにも見えませんでしたもんね」

「コスプレのを言いたいならウィッグと言うんだ。ヅラじゃない」

「じゃあ目が赤いのは?」


その質問に答える前に、一度深呼吸をする部長。


「それはだな…」

「それは?」

「きっと能力を開眼させているのだろう」

「それはないでしょう」

「なんでそう言い切れる?」

「だって非現実的ですもん」

「この世には非現実的なものほど現実的なんだよ。だからきっとあれは能力を開眼させているんだ」

「結局は自分が信じたいだけですか」


僕が呆れて歩き出すと、部長も慌てて隣を歩く。

部長はそのあとも赤い目について語っていたが、僕の耳は聞き流すことに専念していた。

しかし一つだけわかったことがある。

『謎は謎のまま』ということだった。


桜月りまさんのゆきちゃんをお借りしました。


まさかの10日ぶりの更新でした。

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