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おんみょーん

「むっ? 君は噂の陰陽師少女かい?」

「そうだよ! 私が噂の陰陽師少女の芦屋梨桜だよ! こっちは稲荷山孝人くんです!」


学校帰りに、たまたま不本意ながら偶然不可抗力みたいなもので文芸部の三人で帰っていた時だった。

前から歩いてきていた男女カップルに向かって、部長がおもむろに声をかけていた。

活発そうな女の子の芦屋さんと若干嫌な顔をしている男の子の稲荷山くん。

確か前のケイドロ大会の時に大活躍をしていた女の子だ。香月先輩が勝手にライバル認定していた女の子だ。

てっきり部長の嘘かと思ったら、本人が肯定しちゃった。これは新しいパターンだ。

目があった付き添いの稲荷山くんと僕は軽く会釈をした。


「そうかそうか。やっぱりそうか。前から君とは話をしてみたいと思っていたんだ」

「そうなの?」

「うむ。香月が」

「…俺?」

「香月さんっていうんですか? どうかしたんですか?」


急に話を振られて、しどろもどろする先輩。これはひどい。

そんな中、部長はニヤニヤと先輩の行方を見ている。これはひどい。


「えっと…陰陽師ってどうやったらなれるんですか?」


なんだこのお悩み相談室みたいな質問。


「たくさん訓練して、色々勉強して、頑張ればなれるよ!」

「は、はい。ありがとうございました」


暑さにやられているのか、部長の無茶ぶりに困っているのか、それとも目の前の芦屋さんに恥ずかしがっているのか。理由はわからないが、最後のほうの語尾がどんどん弱くなっていって、香月先輩は目線を遠くへとそらした。


「ところで陰陽師というのは具体的に何をしているんだい?」

「この町に救う妖怪を対峙しに来たんだよ!」

「ほう。妖怪」

「妖狐がいるらしくて、スパイとしてこの町に転入して来たの」

「ふむふむ。スパイがそんなにおおっぴろげに言い回っていていいのかい?」

「大丈夫。あなた達からは妖気は感じられないから」

「…フッ。ハハハ…ハーッハハハハハ!!」

「な、なに!?」


部長が急に笑い出した。それも盛大に。

そのあまりの急変っぷりに二人は驚いている模様。


「君は陰陽師として失格だな」

「…どういうこと?」

「妖気というのはコントロールできるんだよ。それも妖狐と言われているぐらい有名な妖怪だぞ? 普通の妖怪ならば『妖怪』と言われるように『妖しい怪(あやしいもののけ)』と呼ばれているのに、わざわざ『妖狐』と呼ばれているんだぞ? そんな妖怪の代表する妖狐が妖気のコントロールの一つや二つできないわけがないだろう」


部長のもっともらしい言葉に、言い返すことができないのか黙ったまままっすぐ見つめ返している芦屋さん。

なおも部長は続ける。


「ならばもし私が妖狐だったとしたらどうする?」

「えっ!?」

「もしもこの場に妖狐がいたとして、妖気を抑えていたとして、それでも君はここに妖狐がいないということにするのかい?」

「それは…」

「それに長年生きている妖狐だ。陰陽師とは言えどもたかが人間。人間の寿命なんてたかが知れている。80年かそこらへんしか生きられない人間ごときの術に、妖狐様が対策を練っていないとでも? 陰陽師を倒す術を持っていないとでも? 君はまだ若い。だからもう一度修行をし直すことを私なら薦めるね」


部長がフルスロットルで嘘を吐き続ける。

初対面の人間にここまで嘘をつきまくれたらそりゃあもう大層なもんだ。

その証拠に、芦屋さんの握り締めた拳がわなわなと震えている。

これ、怒ってるんじゃないの?

初対面の人にあそこまで馬鹿にされたら誰だって怒るけどね。今の僕なら絶対にぶん殴ってる。


「あ、あなたは、妖狐なんですか?」


震える声で芦屋さんは言う。

そして部長は嘘で返す。


「そうだ。陰陽師の小娘よ」

「やっと見つけた……」

「ん? 今何か言っ…」

「妖狐! 覚悟っ!!」


そう言って、部長に飛びかかった芦屋さんは、どこからか取り出した御札のような何かを部長のおでこにベタリと叩きつけた。

ベチン!と大きな音が鳴ったが、部長は顔色一つ変えずに元の腕を組んだ体勢を変えなかった。

今のだと、御札の効力よりも、おでこを叩かれた威力のほうが痛そうなもんだけど。


「き、効かない!?」

「だから言ったろう。陰陽師とはいえども、ただの人間だと。こんな紙切れが効くはずがないだろう」


そう言っておでこに貼られた御札を剥がした。若干涙目になっているのを僕はちゃんと見逃さない。


「御札が効かない…だったら!」


そう言うと、芦屋さんはどこからか取り出した呪文のような文字が書かれた紙がついた棒を取り出し、それをおおきく振りかぶった。


「芦屋! やめろって! それじゃあまた撲殺で捕まるから!」

「離して稲荷山くん! せっかく見つけた妖狐なんだから!」


そんな芦屋さんの迫力に圧された部長が、半泣きで尻餅をついて手を前に出して制止と命乞いをした。


「ごごごごごごめんなさいっ! 嘘です! ちょっとした軽い気持ちだったんです!」

「ほらっ! 嘘だって言ってるじゃん!」

「うおっ! これが撲殺陰陽師芦屋ちゃんか! アニメ化期待!!」

「これも嘘かもしれないじゃない! 試してみないと!!」

「だからダメだっての!!」

「ごめんなさいぃぃいいいいい!!」


僕は止めることもせずに、ただ見ていた。

稲荷山くんが助けを求めているように見えたけど、ただ見ていた。

もう殴られて日頃の行いを正せばいいのに。

そう心の中でつぶやきながらこの状況を見ていた。

寺町さんの芦屋ちゃんと稲荷山くんをお借りしました。

お天気の件、ごめんなさい。

そんな気持ちを込めてのレンタル移籍でした。

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