高城流虚言術講座
放課後。
部室に集まった僕ら部員は、部長の話を聞いていた。
僕は本を読みながら時々視線を部長に向けて、香月先輩は若干身を乗り出して聞いていた。
部長は椅子に座ったまま、持ってきたお菓子をテーブルに置いて、一つ食べてから話し始めた。
「例えば右手にりんごを持っていたとする。君はもし『この右手にあるのは梨だ』と言われたらどう思う?」
僕に向けられた言葉。
見ると、右手に何かを乗せたような格好をしている。
「え…梨だったのかと思います」
「だろ? 嘘というのは『もしかしたらこれは違うのか?』と疑念を持たせることから始めるんだ」
「疑念か。疑いを持たせることが大事なのか」
手をポンと叩いて先輩が言う。
「そうだ。そして一度疑わせてしまえばあとは簡単だ。そこから嘘に嘘を重ねてその隙間を縫うように抉っていく」
「言い回しがかっこいいな」
「言い回しは関係ないでしょ」
「いや、関係ある。時にはわかりにくい言葉でいうのも手だ。さっきの例だが『梨はバラ科だから、同じバラ科であるりんごとも言える』と説明してみる」
「で?」
僕は本から目を離して、素直に思ったことを口にした。いや、口にしてしまった。
部長の口の端が面白そうにつり上がった。
「そうやって興味を持たせるんだ。今の例の説明だけでもちょっと興味を持っただろ? そこで真実と虚言を織り交ぜてあたかも本当のことを言っているかのように思わせる」
やっちまった。
部長の思い通りに動かされたというわけか。なんか悔しい。
続けて香月先輩が言う。
「例えば?」
「りんごは赤いりんごと青いりんごがあって、通常は赤いりんごのことを『りんご』と呼んでいるが、実は青りんごというのが進化の過程で変わっていって派生したものが『梨』と呼ばれるものになっていったのだ」
「ほうほう」
なるほど。
と、一瞬思ったけど、すぐに次の言葉が想像できたので、表情を変えないように心がけた。
「まぁ嘘だけど」
「は?」
「ほら騙された。こうやって自分が適当にでっち上げた内容をさも本当のことのように言うことによって信憑性を持たせることができるんだ。ホントかウソかわからないことをいうのがベストだな」
ククク、と笑う部長に対して、ポカンと口を開けて少し間抜けな顔をする先輩。
ここまで本当っぽいことをさも当然のように言われたら誰だって信じるっての。
そんな放課後の文芸部だった。