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先輩と後輩と文芸部・後

 最初は文芸部としてもっと文集出したりとかそんな感じのことをしたいなと思っていたのだけど、この文芸部の闇にどっぷりと浸かっていくうちに、居心地が良くなって、それが当たり前になって、もう今では僕の中での文芸部というのはこの文芸部なのだ。

 それが伝われば儲けものだと思っていたが、まさか我ながらここまで熱くなってしまうとは思わなかった。もしかして僕って意外と熱血派?

 顔を隠したままなんの返答もない部長。さすがにここまで一方的に熱くなっていたのが冷めてきて、少し恥ずかしくなってきた。


「あの部長? 何か言ってもらえませんか? だんだん恥ずかしくなってきたんですけど……」


 そう部長に尋ねても何も返事はなかった。

 えっ……そんなに面白いこと言った? めっちゃツボにハマるくらい面白い状況だった? うわぁ……誰かタイムマシン持ってきてくれないかなぁ……。穴掘って隠れたくなってきた。

 僕がひどい羞恥心に襲われそうになってきたので、部長のほうへと歩み寄った。

 そして手を伸ばせば届く距離まで来た時、いつのまにか部長の後ろに立っていた先輩に呼び止められた。


「香月。そっとしておいてやれ」

「先輩? さすがにこの状況は僕が恥ずかしすぎるんですけど……」

「まさか綾瀬があそこまでこの部活を好きになってたとは思わなかったからな。そりゃ高城も驚くわ」

「いや、驚いたからって笑いすぎでしょ」

「笑う? あぁ、そういうことか」


 先輩は何かに納得してケラケラと笑うと、部長の頭をポンポンと叩いてそこに手を置いた。そしてすぐに払われた。


「こいつ、笑ってんじゃなくて泣いてんの」

「……は?」

「……バカ香月。やめんか」


 先輩を振り払った部長の声は、まさしく泣いているときの震え声そのものだった。

 部長は完全に顔を隠すように机に突っ伏した。

 僕、驚愕の事実を叩きつけられる。


「って、なんで泣いてるんですか!」

「いやいや。そりゃあ可愛い後輩がここまで部活のことを思ってくれたら部長冥利に尽きるってもんだろ」

「いやいや。そんなもんで泣きます?」

「綾瀬にとってはそんなもんかもしれんけど、高城にとってはそんなもんじゃないんだわ」


 再度先輩は部長の頭の上に手を置くと、今度は払われなかった。


「どうせさっきだって綾瀬にカマかけてみただけなんだろうけど、自分が返り討ちにあってるようじゃまだまだだな」

「香月……うるさいぞ」

「こんな意地はりまくりの高城だって、こう見えても青春真っ只中の女の子なんだ。意外と可愛いところもあるさ」

「香月っ! それ以上はいけない!」


 ぐあーっと身体を起こして香月先輩を振り払った部長。さすがに涙は止まっていたようだが、目の周りが赤くなっていた。

 グシグシと目をこすると、バツが悪そうな顔をしながら口を開いた。こんな部長の顔は初めて見たかもしれない。


「……ふぅ。やれやれ。綾瀬君に泣かされる日が来るとは思わなかった」

「マジ泣きしてたんですか?」

「聞くでない。乙女の秘密だ」


 部長に乙女って言葉、似合わなさすぎだろ。


「とはいえ、まさか綾瀬君がここまでこの文芸部を好いていたとは思わなかったよ」

「まぁ闇に飲まれて初めて闇の良さがわかるってやつですよ」

「そのダークな発言も板についてきたな」

「そんなにこんな発言してましたっけ?」


 クククと笑う部長。どうやら調子が戻ってきたらしい。


「正直言うとだな、綾瀬君が心配で部活の引退を長引かせていたんだ。香月と話し合ってな」

「心配?」

「可愛い後輩だからな」

「一年二人は二人になっても何ともないだろうけど、二年は綾瀬しか残らないじゃん? だから心配だったわけ。俺にとっても可愛い後輩だし」

「本当にウザったくなってきたら引退しようと思ってたんだが、まさかこんな状況になるとは。引退しなくてよかったな」

「ほんとにそれな。綾瀬の本心も聞けたんだから永久保存版だろ」

「保存用と観賞用で二組は欲しいところだな」

「布教用も買わないとな」

「布教する友達なんているのか?」

「いや、いねぇな」


 アハハハと笑う二人。

 僕は、こんなくだらなくて意味のない会話を聞くのが最後になると思うと、言葉に詰まってしまって何も言えなかった。

 あ、ヤバい。これはヤバい。


「綾瀬君?」


 部長が声をかけてきた。僕は目頭が熱くなってきたのを感じて、二人に背中を向けた。振り返った目の前にフランが立っていて、いつもの笑顔で、


「ヨカッタね」


 と言われた瞬間、僕は顔を腕で覆った。

 背中からの視線を感じたけど、振り返ることも言葉で返すこともできず、立ったまま泣いた。肩に手を置かれて、よしよしと頭を撫でてきたのがフランだとわかった時、後ろからの視線が嬉々としてきたのも感じた。


「香月! 綾瀬君が泣いてるぞ!」

「おぉっ! これこそ永久保存版だろ!」

「スマホだ! スマホを出せ!」

「任せろ! パシャパシャー」

「おい、バカ、やめろ! 私の顔を撮るんじゃあない!」

「泣いてるくせにそんなこと言われたってなんの説得力もねぇんだよ」

「うるさいぞ香月!」


 なんだか僕に関係ことで盛り上がってる気がしたけど、これはこれで好都合だった。でも部長の泣き顔を見れないのは悔しかった。自分の泣き顔を見られなかった分と等価交換ってことで良しとしたい。

 そんなやりとりが後ろから聞こえてくると、なんだか涙も出なくなってきた。

 フランから離れて後ろを振り返った時、目を真っ赤にした部長と目が合った。その顔を横から先輩がスマホで撮ろうとしていたが、そのカメラの軌道上には手があって、顔を撮られるのだけは阻止していた。でも僕の心のフィルムには部長の泣きながらの笑顔は収められたのだった。

 ……少し闇に染まりすぎたようだ。

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