↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/57

先輩と後輩と文芸部・前

 放課後、僕は一人で部室へとやってきた。掃除当番だったせいもあって、フランには先に行っててもらい、今に至る。

 僕は扉の前で一つ深呼吸をすると、心の中でよしっと覚悟を決めて扉を開いた。

 いつもの見慣れた風景の中に、いつもの所定の位置に部長、香月先輩、フランがいた。

 入ってきた僕に部長が声をかける。


「やぁ綾瀬君。ちゃんと掃除してきたかい?」

「してきましたよ」

「綾瀬は真面目だよなー」

「掃除くらい先輩だってやるでしょうに」

「俺は空間を浄化させるのは苦手なんだ。だから全てを無にすることに全力を注いでいる」

「熊本弁で話すのはやめてください」


 内心、いつも通りでホッとしたのを態度に出さずに席につく。とりあえず読みかけの文庫本を取り出して机に置いた。

 部長と先輩は参考書とノートを開いていて、本当に受験生のようだった。いや、実際受験生なんだけど。

 僕は僕で、いつ話を切り出そうかと考えていた。

 とりあえず文庫本を開いてみたものの、やはり頭に入って来ず、すぐに閉じて机に置き直した。

 隣のフランへと視線を向けてみると、僕に気づいたのか、目が合うなりニコリと笑顔で返してきた。

 なぜだかその笑顔に安心した自分がいて、うまく言えないけど背中を押された気がした。

 大丈夫。フランもついててくれる。言うタイミングは今で良い。そんな気がした。

 僕は静かに深呼吸をして、部長を見た。

 

「綾瀬君」


 僕が見たときには、部長は僕のことを怪訝そうな目で見ていて、目が合うなり先に名前を呼ばれた。


「は、はい」

「さっきから変だけど、何かあったのかな?」

「へ、変ですか?」

「うん」

「先輩よりも?」

「それほどじゃないが、いつもと違う」


 流れ弾が飛んできた先輩が何か言っていたが無視した。


「さすがに長いこと同じ部活で同じ時間を過ごしているんだ。綾瀬君の挙動くらいコピペ並にわかるさ」

「ちょっとよくわかんないんですけど」

「そうやって誤魔化そうとするのも君の悪いところだ」


 上からな態度の部長は鼻で笑いそう言った。

 何から何までバレバレなんじゃないか?


「で、なにかあったのかな?」


 まっすぐ僕を見てくる部長。僕は目を閉じて再度深呼吸すると、部長の目を見返した。


「部長。言いたいことがあるんですけど」

「ほう。珍しい」


 感心したと言わんばかりの部長の顔。

 僕は用意しておいた質問……というか文章を部長にぶつけた。


「部長は、自分たちが引退したら文芸部はどうなると思いますか?」


 これが僕なりの言いたいことを遠まわしに疑問文にした最高の言葉だった。我ながら語彙力(ごいりょく)に乏しいのが悔やまれる。


「どうなるもこうなるも、これからも文芸部は続いていくだろうさ」

「このまま?」

「さすがにこのままっていうわけにはいかないだろう。私達三年が引退すれば、その後輩である綾瀬君達が文芸部を作っていくことになるんだ。もちろんちゃんと活動するんだろうな」


 部長は静かにペンを置いた。そして話は続く。


「私が部長をやってた間は、割と好き勝手にやってたから、文芸部らしい活動なんて数えるくらいしかなかっただろう。それは綾瀬君には申し訳ないとは思ったさ。でもそれに付いてきてくれた綾瀬君然り香月には、私的には感謝してるつもりだ。このタイミングでなんだが、ありがとう」


 まさか部長からこんな言葉を聞けるとは思ってなかったせいか、反応に困った。それは香月先輩も同じだったようで、ペンを持ったまま固まっている。


「だから私たちが引退した後は、綾瀬君が部長として長内と鎌倉と一緒に、文芸部らしい活動をするといい」

「その……」


 言うべきか迷ったが、今日は言いたいことは全部脊髄反射のごとく言うって決めてきたんだ。一瞬を迷いを吹き飛ばして口を開いた。


「……部長はそれでいいんですか?」

「……どういうことかな?」

「部長が作ってきた文芸部が無くなるんですよ? 今までの文芸部じゃなくなるんですよ? それで部長は満足なんですか?」


 部長は椅子の背もたれから身体を離し、前のめりで両肘を机について手を組んだゲンドウのポーズで僕に訊ねた。


「今の言葉、私には綾瀬君がこの文芸部を変えるのが嫌だという風に聞こえたんだが、気のせいかな?」


 目が笑っているように見えた。が、僕は恥ずかしげもなく答えた。


「全くもってその通りですよ」

「おー」


 先輩側から感嘆の声が漏れた。

 気にせずつづける。


「僕はなんやかんやでこの部活が好きんなっちゃったんですよ。この全然まともな活動をしてない文芸部が好きになっちゃったんですよ! 何か悪いですか?」


 僕の言葉に部長は組んだ手で顔を隠した。小刻みに震えているところを見ると、きっと笑いをこらえているのだろう。

 人の気も知らないで、人がどんだけ悩んだかも知らないで、人がどんだけこの部活に思い入れを持ってるかも知らないで、結局は部長だって自分の楽しみのために部活をやっていたんだと思うと、声が大きくなってしまった。

長くなったので2パートにて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。