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相談の夜

「浩二? 今イイ?」


 夜、僕がベッドの上で何もする気がおきずにごろごろしていると、ドアを開けてフランが入ってきた。

 僕が起き上がると、それを肯定と受け取ったらしいフランが部屋の中に入ってきて、僕の隣に座った。


「どうかした?」

「浩二、最近元気ナイヨ」

「……そう、かな?」

「ウン」


 目を見てはっきりと言われると、なんだか心の言葉さえも見透かされてしまっている気がして、僕はフランから目を反らした。

 フランの視線は感じるものの、今の僕はフランの目を見ることができなかった。だから反らしたままでいた。

 それから少しの間沈黙が続き、フランが僕の返答を待っているのかとも思ったが、その沈黙をフランが破った。


「浩二。イギリスにはこんな言葉があるヨ。『Thing to say that you want to say, we must ask also that you do not want to hear』って」

「なんて?」


 僕はそこまで英語が得意なわけじゃない。フランのガチでネイティブな発音で聞き取れるようなリスニング力は持ち合わせていない。


「『言いたいことを言うことは、聞きたくないことも聞かきゃいけない』っていうコト」


 そう言われた僕は、何とも返事ができなかった。


「浩二、ぶちょー達に言いたいコトがあるんじゃないノ?」

「……なんで?」

「そう思ったカラ」


 反射的にそう聞いたけど、フランの反応はあっさりとしていた。


「浩二はあんまり相談しない。言いたいことも言わない。ワガママも言わない。ダカラもっと言いたいこと言った方がイイ」


 そうは言われても、日本人はフランたち外国人とは違って、お人よしで謙虚で引っ込み思案で言いたいことは最後の最後にしか言わない。そんな人種だ。僕も例にもれずに日本人をやっている。

 しかしフランからしてみればそれが不思議なのだろうか。

 それかもしかしたら僕が例外に入っているのだろう。日本人と大きく括って(くくって)はいるものの、日本人だろうがなんだろうが、人にはいろんな考え方がある。血液型占いと同じ感じで、固定概念からくる思い込みだ。

 ともかく、フランには僕がそう見えたのだろう。だから僕は『日本人だから』という安直な返事ができなかった。


「ぶちょー達だってもう部活に来なくなるんデショ? もう言えなくなるカモしれない」

「そんなこと言っても……」


 何をなんて言えばいいのかわからない。

 卒業してほしくないのか、引退してほしくないのか、受験に専念してほしいのか、早く文芸部としてまともな活動をしたいのか。言いたいことはたくさんあるんだろうけど、どれを言うのが良いのかわからない。

 それを決めかねているから何も言えなくなっている。


「フランは留学してからの浩二とかぶちょー達のことしか知らないケド、浩二とぶちょー達は仲良しに見えるヨ?」

「仲が良いからってなんでも言えるわけじゃないよ」

「仲良しなのに?」

「そう」


 そうだ。誰にでも秘密はあるし、言えないこともある。僕と部長と先輩の間にはそういう壁がある。


「フランは浩二と仲良し?」

「まぁ……悪くはないんじゃない?」

「フランは浩二と仲良しダト思うよ」

「そっか」

「ダカラぶちょー達も浩二と仲良しダト思ってるよ」

「……うん」

「浩二とぶちょーは仲良しじゃないの?」


 僕は言葉に詰まった。

 フランが何を言いたいのかわかる。わかってきたつもりだ。


「仲良しなら言うことも良いと思うヨ」

「ん? なんて?」

「んー……言いたいことがあるなら、言っても許されると思う、っていうこと。日本語あってる?」

「…………」

「浩二?」

「……あってる」

「よかった。だからフランも浩二が悩んでるなら言ってほしいな」


 そう言ってフランを見ると、フランも僕を見ていて、目が合ってしまった。フランは笑顔で僕を見た。僕はどんな顔をしているのだろうか。フランの瞳に映る僕は、どんな顔をしているのだろうか。

 僕は今のこのモヤモヤを上手くフランに伝えることができるのだろうか。いや、上手く伝えられなくてもいいのか。

 まっすぐなフランの目にそう問いかけても、まっすぐに僕を見ているだけで、何もわからなかった。人間がテレパシーを使えたらどれだけ楽なんだろうか。そんなことを思ったけど、一瞬で消え失せた。

 そしてそんな刹那、僕はフランに言ってみようと決めた。上手く伝えられなくても、うまく伝わらなくても、それでも言ってみようと思った。

 震えそうになる声を抑えて、僕は口を開いた。

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