お手伝い
「綾瀬君。一生の頼みを聞いてくれはしないかね?」
「へ?」
そんなわけで立花先輩から昼休みに誘われて、放課後に香月先輩と共に立花家へとやってきた。いつもほぼ行動を共にしているフランは、家で留守番しているようにと言っておいたのだが、どうだか……。
フランのことはさておき、立花先輩に呼ばれたのは他でもない。ゲームの手伝いをしてほしいんだそうだ。
一人でもできることなのだが、多人数のほうが効率が良く、しかもこれから来るゲームの発売日ラッシュ前に消化したいらしい。
「さぁどうぞ。そこで靴脱いでね」
「僕の家でも靴は脱ぎますよ」
「一応ね。フランと暮らしてるから欧米スタイルになってたら困るじゃん」
「我が家は日本人の割合の方が多いです」
立花先輩の家はマンションで、上から数えたほうが早そうな階数だな。
「それだと五階建ての四階だと思われちゃうだろ」
「先輩は人の心を読まないでください」
「綾瀬。口に出てたぞ」
「まじすか」
香月先輩に突っ込まれたので訂正する。口に出さないように。
十階建てのマンションの八階。
きっとうろな町では一番高いんじゃないかと思われるマンションの八階に立花先輩の家があった。
「こっちこっち」
僕が廊下を抜けたリビングでキョロキョロとしていると、香月先輩が手招きをする。その先の部屋に案内された僕が見たのは、薄暗い部屋の中に存在している壁一面のゲームソフトのパッケージと、ラックに置かれたゲーム機本体、そして三十インチほどの大きさのテレビとその横にもう一回り大きいテレビの計二台。僕の部屋よりは大きいものの、物量でかなりの圧迫感があった。
「さてと。やりますか」
「今日はどれやるん?」
「んー、せっかく綾瀬君も手伝ってくれるってことだし、まずは簡単なやつから消化していこう」
「おけ」
半ば強引だったけどね。僕本体はあまり乗り気ではなかったのだが、ゲーマーの部屋というのが少し興味あったから、今こうしてここにいるわけであって、本当ならもう用は済んだので帰りたいところだ。が、さすがにそれは失礼だろう。
たまにゲームするのも悪くない。
「じゃあこれかな」
そう言って手に取ったのは、そのへんにあるゲーム機本体のゲームではなく、携帯ゲーム機。香月先輩は自分のカバンの中から取り出したけど、僕は本体なんて持ってない。
「僕はどうしたら?」
「俺の貸してあげるよ。俺は一個前のやつ使うから」
「一個前?」
「ん? 先代の旧型」
すでに電源が入れられており、僕が受け取るとすでにロード画面になっていた。
これ、アレだ。CMでおなじみだった狩りするゲームだ。
「とりあえず俺のデータ使っていいからさ、戦うのは俺と香月に任せて、マップ探索して時間つぶしてて」
「あ、はい」
「俺は太刀でいくぜ!」
「じゃあ俺ガンナーな。遠距離最強ー」
「僕は何で行ったら……」
「とりあえず片手剣とかでいいんじゃないかな?」
そんなこんなで手とり足とり教えてもらいながら、簡単な操作方法を確認。
危なくなったらR。危なくなったらR。
Rを押せばガードできるらしい。武器を持っていない状態なら走れるから、走りながら他のマップに移動すればいいそうだ。
そんなわけでゲームが始まった。
と、思ったら、目の前にでかい敵がいた。
「「あっ」」
僕はとりあえずマップを探索しようと思って、その敵へと視点を合わせると、僕の名前の横のところに赤いマークがついた。その瞬間に、先輩二人が声を出した。
「やばっ」
「初期リスから初心者狙いとかひでぇな。FPSでもここまではないぞ」
「訓練所からやるべきだったか?」
僕は二人の会話から、目の前でウオーと吠えているでかいやつがターゲットだということがわかった。そして僕が逃げなければならない相手。
僕はとりあえず危なくなった時のRを押すと、キャラクターがモンスターめがけて走って行った。これでいいのか? 逃げるって言ってたんだけど、安置でもあるのだろうか?
「またせたなっ! って綾瀬ぇ!」
視界の端に重装備の大きな剣を持ったキャラクターが現れた。きっと香月先輩だろう。
しかしそれも一瞬で、次の瞬間には目の前のモンスターにバッコオオンとタックルで飛ばされていた。Rは回避じゃなかったのだろうか?
「マズいマズい。回復回復」
隣に座る香月先輩がぶつぶつ言っているが、飛ばされた僕のキャラは立ち上がって敵に背中を向けて走り出していた。あ、これ、アナログスティックを行きたい方向に倒さないとダメなのか。
やっとのことで操作方法を理解した僕は、全速力でキャラクターを敵から遠ざけるように走った。しかしこのエリアの出口がわからない。
そうこうしているうちに敵の半回転と共にしっぽアタックが飛んできて、またズサーしてしまった。
「綾瀬が死ぬ!」
「ちょっと待ってて。今、秘境だから」
「立花ぁ!」
と、二人の会話に気を取られているうちに、僕のキャラは連続攻撃のせいでピヨってしまい、頭の上に星が回っていた。
そんな僕に追い打ちをかけるように、モンスターは顔を少し上げ、火の玉をこちらに向かって吐き出した。
「綾瀬乙」
僕のキャラは死んでしまった。
僕、このゲームできるのだろうか?
というか、手伝えているのだろうか?
僕はそんなことを考えながら、生き返ったキャラクターが猫によって地面に転がされているのを確認した。
※安置=安全な位置




