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目撃ドキュン

「香月。だからお前はバカなんだ」

「バカだと? バカはバカなりに考えてんだ。バカと天才は紙一重っていうだろ」

「ふむ。じゃあお前は紙一重でバカだな」

「紙一重のバカ……なんかカッコイイな」

「……たしかに」


 昼間っから人の家で何をしているんだ、とツッコみたくもなるが、春休みにうちに来るようになってから、休みの日はこうして八割の確率で遊びに来ている。妹も観念したのか、そこにある家具のような感覚で二人を見ていた。

 しかし、今日の二人はどうしても違う風に見えてしまう。主に先輩のほう。

 原因はこの間の金曜日のことだった。



 放課後。

 僕とフランは、部室に行く前に飲み物を買ってから行こうということになり、校内の自販機で飲み物を買うために少し遠回りをした。

 飲み物を買い、部室へと向かう時だった。


「私と付き合ってください!」


 ふと廊下の曲がり角の向こうからとんでもないセリフが聞こえてきた。

 僕は思わず足を止めた。


「浩二?」

「しっ」

「?」


 フランは足を止めた僕を不思議そうに見ていた。

 僕は背中を壁に付け、フランにも同じように指示を出し、何か面白いことをたくらんでいると思われたのか、めっちゃ楽しそうに壁に背中を付けた。

 そして廊下の角から慎重に顔をのぞかせてみた。

 すると、そこにいたのは香月先輩と女子生徒でした。

 頭を下げて片手を差し出している可愛い系の女子生徒。見たところ、香月先輩が告白されたということらしい。

 いつだかもラブレターを貰っていたとのことだし、ホントにモテるのか。部室での先輩しか知らないからあの先輩のどこがいいのかが全然わからん。

 そんな女子生徒を前にして、先輩が口を開いた。


「ごめん」


 いつになく真剣に答える先輩。そして続ける。


「俺、好きな人いるんだ」


 マジか。

 いつの間にか僕の下から顔をのぞかせていたフランが、小声で『オー……』と言った。

 

「そっか……期待しない方がいい系?」

「いい系、かな」

「だよ、ね。教室ではいつも通りにしてね。周りに告白して振られたって思われたくないし……」

「ん」

「……じゃあね」


 最後は絞り出すように声を出し、女子生徒がこちらへ走ってきた。

 僕とフランは慌てて顔をひっこめると、気づいていたのか、女子生徒はこちらをちらりと見て、何も言わずに走り去っていった。その目には涙が浮かんでいた。


「はぁ……」


 ため息をついて頭をポリポリとかく先輩。


「こーづき!」

「えっ? フラン?」


 いつの間にか横にいたはずのフランが、先輩の前に飛び出して腰に手を当てて仁王立ちをしていた。なぜ飛び出したし。


「女の子を泣かすトハ何事カ!」

「見てたのかよっ。ってことは、綾瀬もいるのか?」

「浩二! 浩二もなんとか言ッテやっておやり!」


 ばれた。主にフランのせいで。

 僕は渋々出ていくと、先輩がため息をついた。


「マジか……どこから見てた?」

「えっと……手を差し出した辺りから、ですかね」

「……俺の返答も?」

「……はい」


 妙な空気になってしまった。


「こーづき! 泣かすのはよくないデショ!」

「フラン。日本では好きじゃない人と付き合うのは良くないことなんだよ。ってゆーか、イギリスは違うのかよ」

「もうちょっと言い方があるってもんでむぎゅっ」


 僕はフランの口を後ろから押さえた。

 こんな空気の中、フランがいてくれて頼もしかった。この空気のをいい感じにクラッシャーしてくれた。というか、そもそもフランがいなければこんな空気にすらならなかったはず……。そう考えるとフランが悪いんじゃん。


「あー、なんだ。今のは内緒にしておいてくれな」

「……わかりました」


 その直後、僕はあることに気が付いてしまった。

 内緒にしておくというのは、誰にだ?

 そしてどれを内緒にしておくんだ?

 先輩がモテるっていうのは、同学年で付き合いの長い部長ならきっと知ってるはずだ。

 ということは、告白のことではなく、そのあとの『好きな人がいる』ということを黙っていてほしいと言うことだろう。

 そしてそのことを問い詰められたら困るから黙っていてほしいということだ。

 困るということは……。


「綾瀬!」


 先輩に名前を呼ばれ、僕はフラン越しに先輩を見る。

 どこか顔を赤くしているように見えた。


「……今考えた通りだと思うから、余計なことは言うなよ。フランにも言わせんなよ……」

「……先輩。もしかして部長のことが」


 僕は先輩に一応事実確認を取ろうと口を開いた。

 その瞬間だった。


「んーっ!」

「うわっ!」


 フランが口を押えていた僕の手を、内側からベロベロと舐めはじめ、僕はその何とも言えない奇妙な感じに飛び跳ねるようにフランから離れた。


「浩二! いつまでレディの口を押えてるネ!」

「ご、ごめん」


 フランに睨まれ、僕は謝った。

 そのフランの背後で、香月先輩が何とも言えない顔で笑っていた。

 その笑顔を見て、僕は何とも言えない気持ちになった。



それは恋だよ。綾瀬君。

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