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連休明けの素朴な質問

「どうして連休が終わった後の学校はこんなにもだるいのか」


 いつものようにダラダラしていると、部長がそんなことを言い出した。

 また部長のわけのわからん話が始まるのかと思ったが、皆急に真剣な目をして各自作業を止め、会議でも始まるかのような雰囲気が作り出された。フランだけはニコニコしている。


「そもそも休日というのは、休む日だ。日々の疲れを癒し、日々の勉強で疲れた頭と身体を休めるための日だ」

「異議あり!」


 あ、そういう方式なのね。


「む。長内」

「休日は趣味に没頭する日でもあると思います!」

「ほう」

「私なら、小説書いたり、小町と遊んだりしますし」

「だがそれは放課後でもできるのではないか? 社会人にもアフターファイブという言葉があるみたいにな」

「えーっ。でも休日のほうがゆっくりできるじゃないですかー」

「そんなことを言うなら、学校へ来るのは怠くならないはずだ。休息日に遊んだ代償なのだから、文句は言えないだろう」


 『むむむ』と言いくるめられた長内さん。その長内さんの相方の鎌倉さんが手を上げる。


「はい、鎌倉」

「はい。休日には、いろいろな意味が込められていて、仕事や勉学が休みの日ということを、身体を休める日と称すのは、少し見当違いかと思います」

「ほう」

「もしも身体を休めるための休息日にするのであれば、教育機関は『休日に娯楽等を行うことを禁ずる』という法律を制定しなければならないと思います」

「ふむ。確かにそういう見方もできるな」


 腕を組んで背もたれに寄りかかりながら頷く部長。


「しかしだ。労働基準法やそんな感じの法律では、『仕事をしないで休まなければならない』という法律はあるんだよ。もしも休まずに働き過ぎた場合は、もちろん罪になる。よって、『休日が仕事や勉学が休み』と言うことで、学生の本分は『仕事=勉強』だとすると、学生は勉強をし過ぎると罪になるということになる。そこから導き出すと、休日には日ごろ勉強しすぎだから休みの日は休まなければならない、とうことになる。それが休日だろう」

「むっ……」


 鎌倉さんと部長の戦いは、部長の勝利だったようだ。

 鎌倉さんはうつむいた。

 そして次の挑戦者はいないかと周りを見渡すと、フランが立ち上がって手を上げた。


「ハイ!」

「おー。次はフランか」

「フランは、学校楽しいカラいいと思います!」


 純粋無邪気な攻撃。


「そうか。それはよかったな。学校のどんなところが楽しい?」

「ンー。みんないて、毎日楽しいです!」

「そうかそうか。それはよかったな。これからも楽しめよ」

「ハイ!」


 そう満足したフランは、座って僕を見てニコッっと笑い、また大人しくニコニコと笑みを浮かべていた。

 ……まさか部長がフランの攻撃を受け止めずに受け流すとは思わなかった。ハンマースルーだ。


「でもよー。休日っていっても、その日にどうやって休むかは人それぞれじゃね?」


 香月先輩の攻撃。今までの挙手制を続けなくなったことで、部長は怪訝な表情を見せたが、まぁどうでもよかったらしく、会話を楽しむようだった。


「じゃあ学校に来るのがだるく感じるのはなぜだ? 好きに休んだのに学校はだるいというのは変ではないか。休みの日に休んだのだから、体力満タンで学校へ来れるはずだ」

「高城。お前は一つ勘違いをしている」

「ん? 勘違い?」

「そうだ」


 先輩は一度深呼吸し、どこかの司令官のように両肘をついて組んだ指を口元に持ってきて言った。


「学生は勉強が嫌いなんだよ。だから根本的に学校が嫌いなんだ。毎日家にいたいと思うのが普通だろう」


 部長は少し驚いた顔をした。きっとまさか先輩に論破されようという日が来るとは思っていなかったのだろう。


「社会人だって仕事が嫌なんだ。月曜日が嫌いだというのが何よりの証拠だ」

「ふむ……」


 顎に手を当てて考え込む部長。

 ふと見ると、長内さんと鎌倉さんも顔を上げて二人のやりとりを見ていた。


「では大型連休のあとの学校はだるいんだ?」

「あれだけ休めば誰だって休みのほうが好きになるだろ。自由気ままに起きたい時間に起きて、寝たい時間に寝て、したいことをしたい時間にして、やりたくないことはやらずに後回し。こんな生活が何日も続けば、時間に縛られて行動して、しかも嫌いなことをする場所になんて行きたくなくなるのが道理ってもんだろ」


 おー。

 先輩の長台詞、久しぶりに聞いたかも。真面目モードの先輩が頼もしく見えた。


「よし。では今回の部活の発表は、香月のそれで行こう」

「「「えっ?」」」

「よっしゃ!」


 部長の言葉に、僕と長内さんと鎌倉さんは目を丸くした。


「ん? 綾瀬君。どうかしたか?」

「いや、こっちのセリフなんですけど、どういうことですか?」

「どうもこうも、そろそろ文芸部としての活動をしないといけないと思ってな。また壁新聞的なものをやろうと話していたのだよ。それで、何かいい案は無いかと思ってさっきまで考えていたのだけれど、休日の神秘について書くことが今決まったよ」


 おいおいおいおい。そんな話聞いてないぞ。

 僕はこのままじゃまずいと思った。そして横を見ると、長内さんたちが僕を見ていた。

 僕はこの状況を打破すべく、長内さんたちにも協力をしてもらうことにした。

 長内さんたちを見たまま、首をゆっくりと縦に振ると、向こうからも頷きのお返事があった。

 そして声をそろえるタイミングがずれないようにして言う。


「「「異議ありっ!」」」

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