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高校生と染五郎

 放課後。

 僕ら文芸部は、立花先輩を除いて全員が集まっていた。立花先輩は、主食であった携帯ゲームのほうを完クリしてしまったらしく、またレアキャラとしての立場を取り戻しそうだった。

 部長とフランと香月先輩がワイワイと話し、鎌倉さんと長内さんがあーだこーだと話しながら何かを書いていた。

 一年生コンビに関して言えば、まだ部長や立花先輩が言っていたような『ややこしい関係』というのは見受けられないが、多分僕には見えていない何かが部長には見えているのだろう。時々呆れた様子で二人を見ていることがある。

 読書をしながら周りを観察していると、少し離れた横に座っていた長内さんに声をかけられた。


「綾瀬先輩は、本とか読みます?」


 『先輩』と呼ばれることに慣れていないからか、まだ少しむず痒い。


「読むよ。部屋も本だらけ」

「じゃあ、私が書いた小説、読んでみてもらってもいいですか?」

「あ、そっか」


 そういえば小説書いてるって言ってたもんな。さっきから何か書いていたのはそれか。よくこんなところで書けるなぁ。


「小説書けるんだね。すごいね」

「全然ですよー。小町のに比べたら全然小説だなんて言えないですもん」

「鎌倉さんも書くの?」

「まぁ。嗜む(たしなむ)程度に」


 小説って嗜むものなの? 僕、嗜んだことないや。


「で、読んでもらえます?」

「あ、ごめんごめん。読ませていただきます」

「じゃあお願いいたします」


 文庫にしおりを挟んで机に置き、丁寧に両手で渡された三枚のルーズリーフを、卒業証書授与のように丁寧に受け取った。

 さっそく読み始める。

 タイトルは無いようだった。


~~三分後~~


 読み終わった。

 意外と真面目に書かれていて、高校生の恋愛ものだった。

 一人の女の子が男の子と放課後限定で会話をするようになり、次第に仲良くなっていく、というとこまで読んだ。その続きはあるのかと聞いてみたら、どうやら書けているのはここまでらしい。

 とりあえず目の前で感想を聞きたがっている長内さんへルーズリーフを返した。


「ど、どうでした?」

「面白かったよ。特に誤字とかは見られなかったし、お話としても良い掴みだったと思うよ。まぁ続きが無いからストーリーとかは何とも言えないけど、会話のテンポが良かったと思います」


 どうやって言えばいいのかわからなかったから、思ったことを言ってみた。ただ、丸文字すぎて読みにくかったことは言わなかった。


「ホントですか? ありがとうございます!」

「これ、どこかに応募するの?」

「えっ!? しませんよぉ。もっとうまく書けるようになったら考えてみます」

「そっか」


 そう話していると、長内さんよりも『書ける』と言われた鎌倉さんはどれだけのものを書くのだろうかと気になってしまった。


「鎌倉さんはどんなの書いてるの?」

「私は……読みますか?」


 説明するよりも読んでもらった方が良いと判断したのか、僕が頷くとカバンからクリアファイルを取り出して、そこから五枚のルーズリーフを取り出した。

 パッと見、こっちは字が教科書体のように綺麗な文字で読みやすいことだけはわかった。


~~五分後~~


「……これ、続きは?」

「まだ書いてません」


 読み終わった僕は、感想よりも先に続きの有無を確認してしまった。そのくらい続きが読みたかった。

 内容は、探偵の染五郎(そめごろう)が事件を解決するというお話だったのだが、文量にして約文庫十ページ分。この短い文量だけで張り巡らされていたであろう伏線に少しずつじれったく触れていくあたりが、とても面白かった。

 言っちゃ悪いが、これは本当にレベルが違った。長内さんのがただの仲良しごっこをしていた高校生にしか見えなくなってしまうほどだった。


「どうでしたか?」

「小町のすごくないですか?」


 二人からの質問。

 正直に答えよう。


「すごかった。普通の小説として『これプロが書いたやつですよ』って言われても信じるレベルだった」

「ですよね! さすが小町!」

「これだけ書けるなら賞とか取れそうなものだけど……」

「趣味で書いてるだけなので、あんまり興味ないですね。私は羽澄に読んでもらえればそれで満足ですし」

「うひゃー。専属作家のレベルが高いよー」


 なんという才能の持ち腐れ。でもまぁ個人のことだし、変に口出しをするのは筋違いってものだろう。

 なんにせよ、文芸部の新入部員は、とんでもない大物だということが分かった。

 僕も二人に倣って(ならって)小説を書いてみようか。……いや、恥ずかしいからやめよう。僕は読専でいいや。


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