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新入生の新入部員・前

 実はこの春、新入部員を二人ほど()がしました。主に部長のせいで。

 そのことをちょっとお話します。





 放課後。

 フランを交えた新生文芸部は、いつも以上にダラダラしていた。

 立花先輩も、最近のゲームの主食が携帯機のゲームらしく、部室に充電器を持ち込んでピコピコしているため、レアキャラとしての機能を停止させていた。

 部長は部長で、フランという新しいおもちゃを手に入れたので、あることないことを吹き込んではケラケラとフランと二人で笑っていた。

 香月先輩は、そんな部長とフランの話に参加したりしているのだが、どことない空気感だ漂っている。哀れなり香月。

 そして僕は、行き過ぎた部長の言動を注意したりしながら、主に読書をしていた。

 そんな時だった。

 部室の扉がノックと共にガラガラと開き、二人の女子生徒が顔をのぞかせた。一目でわかった。一年生だと。

 一番入口に近かった香月先輩が、二人に近づいて対応をする。


「あのぉ……ここは文芸部であってますか?」

「うん。あってるよ」

「あってるって。やったっ」

「良かったね。違ってたらどうしようかと思った」


 互いに手を取って、そう言い合う二人。


「ってことは……君たち、新入生?」

「はいっ!」

「そして……入部希望?」

「そうです。文芸部に入りたいんですけど……」

「入部希望だってさ。高城ー」


 自分の名前を呼ばれたことに反応した部長が、待ってましたとばかりにありもしない威厳を振りまきながら立ち上がった。そのまま二人に近づく。

 一緒に付いていこうとしていたフランを制止したのは言うまでもない。


「私が部長の高城だ。入部希望とな?」

「は、初めまして。一年の長内(おさない)です」

「同じく一年の鎌倉(かまくら)です」

「ふむ。長内に鎌倉だな。簡単に入部試験というのを行っているのだが、とりあえず中に入ってもらってもいいかな?」

「は、はい」


 緊張した面持ちの長内さんと、どこか緊張してなさげの鎌倉さん。もしかしたら鎌倉さんのほうは、長内さんの付き添い的な感じでそこにいるのかもしれないと思った。

 フランが僕の隣の椅子へとやってきて、新入生二人をさっきまで部長とフランが座っていた椅子へと座らせた。

 そして部内の人間全員が思ったことだろう。

 『入部試験とはなんぞや?』と。


「ではまずは簡単に質問をさせてもらう。二人は友達か?」

「そうです! 中学校の時から同じ学校で、高校に入ったら文芸部に入ろうって話してたんですっ」


 元気いっぱい笑顔いっぱいに答える長内さんを見て、僕の良心が傷んだ。


「ふむ。もしもだよ。もしもここが文芸部じゃなかったらどうする?」

「は? えっ、えっと、ここは文芸部じゃないんですか?」

「文芸部だよ」

「えっと……」

「部長さん。どういう意味ですか?」


 たまらず鎌倉さんが割って入った。

 部長はHAHAHAと謎の笑いを挟んでから返した。


「だからもしもの話だよ。そもそも、君たちが思う文芸部というのはどういうものかな?」

「文集作ったり、小説書いたり、時々壁新聞みたいなものを作ったり……文章書いたりするのが主な活動、だと思ってます」


 恐る恐る答える長内さん。そんなに怯えなくても、この質問に答えなんて無い。少なくとも部長は求めてもいないだろう。


「まぁそれが普通だろう。ということは、君は文章を書くのが好きだということかな?」

「そうなんですっ! 中学校のころも書いてて、小町(こまち)に読んでもらってたんですっ」

「小町?」

「私の名前です。それで羽澄(はすみ)……えっと、この子の名前ですね。羽澄が書くのを読まされてたんですけど、その程度なら私も書けるかなって思って書いてたら、いつの間にか互いに書いて交換するまでになりまして」

「それで文芸部に?」

「そうです」


 部長は腕を組んで何か考えている。新入生二人は机の下で手を繋いでいるようだ。

 立花先輩は手を止めてないけど、気になるのかチラチラと新入生二人を見ていた。香月先輩とフラン、そして僕は、黙ってその行方を見守っていた。


「ふむ。二人の入部動機はわかった。しかし我が文芸部は文芸部ではない」

「もしもの話ですか?」

「いや、ifの話ではなく、真実だ」

「と、いいますと?」

「あいつを見てくれると一番わかりやすいだろう」


 そう言って指さした先にいたのは、立花先輩。たしかに手っ取り早い。


「あいつは朝から晩までゲームをしているようなやつだ」

「はぁ……?」

「そして机の上を見てくれ。何も乗っていない。つまり文章を書くどころか、誰一人として書こうともしていない」

「えっと……」

「つまりだ。我が文芸部は形だけの文芸部だ」



 そこからは早かった。

 戸惑う長内さんを鎌倉さんが手を引いて立ち上がらせ、『ありがとうございました』とだけ言って部室を出ていった。

 そして、今現在に至る。

 さっきまで部長へ僕と香月先輩があーだこーだ言ってたのだが、部長の『これが現実だろう』の言葉に、何も言い返せなくなってしまった。悔しい。


「浩二ー。さっきの二人はナニ?」

「ん? 新入部員になるかもしれなかったんだよ」

「シンニュウブイン?」

「この部活に入るかもしれなかったの」

「オー! それはいいことデス!」

「でも部長が現実を叩きつけたせいで入らなくなっちゃったの」

「オー! 現実はいつも厳しいからナ!」

「……わかって言ってるのか?」


 部長はさっきまで新入生二人が座っていたところへと座っており、香月先輩からの言葉の雨を右から左へ受け流していた。そしてあまりにもうっとおしかったのか、香月先輩をギロリとにらむと、先輩は黙った。弱いなー。

 そんな部長がため息とともに話し出した。


「仕方ないだろう。私も少しからかうつもりで入部試験だなんて言ったが」

「からかうなよ」

「文芸部に夢を抱いて入ってきた二人にとって、この部活は荒地だ。現実を叩きつけてやった方が彼女たちのためだったと思わないか?」

「その入部試験、僕の時にもたたきつけてくれたら助かったんですけど」

「それはそれだ。だったら綾瀬君がフォローすれば良かったではないか」

「うっ……それを言われると……」

「だろう? 綾瀬君も心の奥ではそう思っていたんだよ。そして香月も同じだろ。私が代表してやったまでだ」


 そう言われると何も言い返せなかった。

 香月先輩も同じようで、唸っていた。

後半に続きます。

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