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ホームステイ

『綾瀬君。ゲーム部を作らないか?』

「いやです」


ピッ。

いつの間にか知られていた僕の携帯に、立花先輩から電話がかかってきて、何事かと思ってとってみると、開口一番そんなことを言われたので、丁重にお断りをして切った。

一体何なんだ。あの人、一応曲がりなりにも文芸部員じゃなかったのか? 今の立花先輩なら、最初のドッキリの時のほうが良かったなぁ。壁新聞とか文集とか作ってみたいかも。まぁ時すでに遅しだけど。

春休みに入った今日この頃。

相変わらずうちに入り浸っている部長と先輩を除けば、平和な日々だ。除けばね。

どうせ今日も来るんだろうと思い、最悪なモーニングコールで目が覚めてしまった眠たい目をこすりながらリビングへと降りていくと、妹と誰かわからない女の子の声が聞こえた。最初は母さんかとも思ったんだ。でも僕の目が捕らえたものは全然違ったんだ。何を言ってるかわからないかもしれないけど、僕自身も何を言っていいのかわからない。

ただ一つわかっているのは、すでに始まっていたということだ。


「お兄ちゃん。おはよう」

「あ、あぁ。ところで、そちらは……?」

「ん?」


ソファに座って首をかしげている妹の横で、ニコニコと笑みを浮かべてこちらを見ている金髪の女の子。どう見ても外人だ。目が青い。金髪碧眼とはこのことを言うのか、と見当違いなことも思った。


「お兄ちゃん、聞いてないの?」

「え、何を?」

「今年からホームステイするフランチェスカ・フィリップスさん」

「んん?」

「ハジメマシテ! 今日カラよろしく願がうます!」

「は? えっと、よろしくお願いします」


目の前で土下座をされてしまったので、僕も土下座で返してしまった。

とはいえ、誰?


「なんでこの……なんだっけ?」

「フランチェスカデース! 気安く呼べヨ!」

「なんで命令口調……。このフランチェスカさんがうちにいるわけ?」

「だからホームステイなの。お母さんから聞いてないの?」

「いや、何も」

「昨日の夜に言ってたよ」

「それで、母さんは?」

「さっき出かけて行った」

「マムと一緒ニ出掛けやがりました!」

「日本語が達者なんだかどうなんだか……」


突然のことで何も理解できていないのだが、とりあえず妹はなんでも知っているらしい。


「って、なんで彩名はそんなに何でも知ってるんだ?」

「知ってることしか知りまセーン!」

「あ、ちょっとフランチェスカさんはおとなしくしててください」

「おとなしくシテマス!」


ニコニコとこちらを見ながらソファに正座待機するフランチェスカさん。


「さっき聞いただけだから、私もよくわかんない」

「わかんないって……」

「名前と今日からうちに住むっていうのしかわかんない」

「他は?」

「ううっ……わかんないんだもん……」

「あーわかったわかった」

「オー! 彩名ー、泣かないでー。ヨーシヨーシ」


妹を抱きしめて頭を撫でるフランチェスカさん。

とりあえず母さんに連絡してみるとするか。

そう思って自分の部屋に戻り、携帯を手にした時だった。


「オー。これが男の子ノお部屋デスカー!」

「ファッ!?」


声に驚いて振り向くと、そこにはさっきまでリビングで彩名をあやしていたはずのフランチェスカさんが立っていた。

見ていたのに気が付いて、フランチェスカさんが胸を張って言う。部長よりは大きい。


「フフフ。ジャパニーズニンジャは、忍び足が得意なのデース!」

「いや、あなた日本人じゃないでしょ」

「細かいコトは気にするナ! それでもイギリスの家とはチガイマスネー! これがニッポン男児というやつデスかー!」


去年のお年玉で買った壁一面の自慢の本棚を見てふむふむと頷いている。これが日本男児なのだろうか?

というかここはツッコんだら負けだと思う。

とりあえず最優先事項はこの状況の理解よりも、この子の理解が最優先だ。

携帯で母さんに電話をかける。


「電話デスカー?」


ダメだ。無視だ無視。


『もしもーし』


つながった。


「あ、母さん!? 今家に外人がいるんだけど」

「フランチェスカデース!」

「……フランチェスカさんがいるんだけど、この人ってホントにホームステイなの? 家間違ってるんじゃない?」

『まぁ落ち着いてジュースでも飲んでリラックスしなさいよ』

「飲んどる場合か!! 真面目に答えてよ!」

『本当よ』


急に真面目なトーンで話す母親。


『あなたには隠していたのだけれど……実は今日からホームステイすることになったの』

「なんでそんな隠し子だったの的なテンションなのさ。ってゆーか隠さないでよ」

『ビックリするでしょ?』

「ビックリするでしょって……」


なんで驚かす必要があるんだよ。


『まぁそういうことだから、仲良くしなさいよ』

「ちょっと!」

『これからお父さんと新婚記念のデートなのよ。邪魔するならお兄ちゃんでも許さないわよ』

「はいはい。わかったよ。じゃあ楽しんできてくださいっ」

『じゃぁねぇー』


僕は皮肉たっぷりの了解をして電話を切った。

ホント、自分の親かと疑う。しかも新婚ってなんだよ。もし新婚なんだとしたら、何回目の新婚だ。新婚二百か月目とかって言いたいのか?それとも山ほど離婚してるのか?

と、ふと電話を持っている側の背中に柔らかいものが当たっているのに気が付いて、何かと思って見てみると、目の前にフランチェスカさんの顔があった。


「うわっ!」

「電話、終わりデスか?」

「お、お終わりました……」


とりあえず、あいさつか。一応同じ家に住むことになるわけだし。


「えっと、よくわかってないんですけど、これからよろしくお願いします。綾瀬浩二です」

「オー! こちらこそよろしくデスー! フランチェスカ・フィリップスデス! 以後お見知りおきをな!」

「ははは……とりあえず、リビングに戻りましょうか」

「おうよ!」


こうして我が家に新しい家族(?)が一人増えました。

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