嘘っぱち
『うちの部長は嘘つきだ』
と、思われているが、実はそうでもない。
ただ人をからかって遊ぶのが好きなだけで、あれは一種のボケだと言えよう。
でも周りから見てると、負けず嫌いな性格が仇となっているせいか、どうにもこうにも口論となってしまうケースが少なくはない。
だから僕がツッコミを入れると、素直に『はい、そうです』と嘘を認めるし、嘘をついた後には『まぁ嘘だけど』と訂正したりもする。言い方を変えれば『適当なことを正しそうにしゃべる』っていう感じ。
そんな部長にも天敵はいるもので、会うたびに口論となっている例の教授さんや、この町の陰陽師の子など、あーいった人種にはめっぽう弱い。正論で逆に論破されたり、冗談を冗談と信じてくれない相手にはめっぽう弱い。勝ち目がないと言っても過言ではない。
そんな腹の内で何を考えているのかわからない部長の天敵として、身近なところにももう一人いたらしい。
それが立花先輩だった。
嘘を嘘と見抜いた上で、それに乗せられたふりをして会話を進め、部長のテンションがマックスになったところをめがけて爆雷を投下する。
例えば、昨日みたいな日もそうだった。
「カルシウムをとると身長が伸びるというのがあるが、あれは骨を強くして、身長が伸びるための手助けをしてるんだ。何事もまずは土台からというだろ?」
「確かに言われてみればそうかも」
部長が部室内にいた男性陣に話しかけてきた。
僕は小説を読んでいて、先輩二人は携帯ゲーム機で、前に買ったゲームを二人でピコピコとやっていた。
僕はゲームはジャンル外。
部長は何もせずに黙って僕らを見ていたのだが、やっぱり暇だったのだろう。
それを無視するのもなんだったのか、立花先輩がゲーム画面を見たまま答えた。
「だから身長を伸ばしたければ、まずはカルシウムなりなんなりをとって骨を強化してから、スポーツなんかで膝を刺激して身長を伸ばすのが最も効果的と言われている。でもあのぶら下がり棒とかはダメだ」
「なんで?」
「普通に考えてみろ。ぶら下がり棒によって伸ばされる部分はどこだ?」
「腕と……背中?」
「そうだ。腕と背中を伸ばしたところで、短足胴長にはなりたくないだろう?」
「うん」
「つまり身長を伸ばすのには、スポーツなどで膝を刺激するのが良いと言われている。膝を刺激しつつ伸び運動も含まれている、バスケとかバレーが身長を伸ばすのには相応しいスポーツだということが証明されている」
ここまでが部長の言い分。
ここで『へー』と終わるのが僕と香月先輩。しかしここから立花先輩のターン。
「ふーん。それで高城は試したの?」
「……試してない」
「なんで?」
「なんでって……私は別にそこまで身長を伸ばしたくはないし、スポーツも得意じゃないし」
「なんで? 身長高いほうが良いって言うのが女性の世間一般の理想でしょ?」
「そんな世間一般の理想を私に求められても困るな」
「なんで?」
「なんでと言われても……」
困る部長。
ゲーム画面を見たまま全然表情を変えずに言葉を発しているだけの立花先輩。
「あとさ、カルシウムをとると骨が丈夫になるっていうのは正論だけど、カルシウムをとりすぎると、骨と骨の間の軟骨が固まっちゃって、身長が伸びるのを妨げちゃうんだって。だからカルシウムをたくさんとるのはのはいいけど、とりすぎるのはダメだって言うのは有名じゃない?」
「ぐぬぬ……」
勝者・立花先輩。
これは圧倒的だった。
学年首席の名は伊達じゃないなと思う。
そして完全敗北した先輩は、会話を無言で強制終了させると、スタスタと僕の横に座る。
「綾瀬君。君は身長を伸ばすことに興味はないか?」
「ありません」
そんなわけで、部長は立花先輩に弱い。
天敵は意外と身近にいたようだった。
でもその流れ弾が僕の所へと来るのだけはどうにかしてほしいものだ。




