デート
先日、卒業式があった。
特に三年生に知り合いのいない僕は、何とも思わずにただ長い式に参加し、拍手とかしていた。
その後の部活で先輩らにも感想を聞いてみたところ、『特になし』とのことだった。あ、立花先輩だけは『長かったからゲームしてた』って言ってた。あの人ダメだ。クズすぎる。
そんなわけで春休みまで待ち遠しくなったこの時期、三年生がいなくなった校舎での授業を終えた。
「おかえり」
「ただいま」
家に帰ると、妹の彩名が玄関まで出迎えに来てくれた。
彩名は、今年中学三年なので、高校への受験生となる。志望校はうろな高校らしく、完全に僕の後輩となること間違いなしだ。
「お兄ちゃん。今日は部活はないの?」
「今日は休み。いや、休みっていうか、先輩二人がゲームの発売日だって言って、学校終わってからすぐに買いに行くらしいから、人数不足もあって休みにしたんだって」
「そっかー。じゃあ何する? どっか行く?」
僕が部活の休みを告げると、とても嬉しそうな顔で僕にすり寄って来る彩名。
「んー、出かけてもいいけど、どこ行く?」
「彩名、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいい」
「いやいや。そこは彩名が決めてよ」
「じゃあショッピングモール行きたい」
「なんか買うものあるの?」
「ないけど行きたい」
「ないなら無理に行くことないんじゃない?」
「行きたいのぉ……お兄ちゃんが行く場所決めてって言ったのに……うぇええーん!」
「わかったから! わかったから泣くのをやめなさい!」
また泣き出した彩名をなだめると、僕は自分の部屋で制服から私服に着替えて準備を済ませた。
準備とは言っても、財布にスマホ、あと家の鍵くらいしか持ち物がないので、全部ポケットに入れた。
家を出た僕と妹は、近くの駅から電車に乗り、そこからショッピングモールへと向かった。
片田舎では、ショッピングモールでオシャレな服を買うと、都会でバカにされるらしいが、うろな町はどうなんだろうか? ……微妙なラインだな。でもここのショッピングモールなら、そこまでバカにされないか? わからん。
そして何事もなくショッピングモールに到着。
「こっちのほう久しぶりに来たなー」
「うん」
何かと嬉しそうな我が妹。腕にしがみついているように見えるのは気のせいだろうか?
「さて。どこから見ようか」
「とりあえずブラブラする」
「そうなの? じゃあ本屋さん行こうよ」
「ダメ」
目的地を決めたら、まさかの否定であった。
「……なんで?」
「お兄ちゃん、本屋さん行ったらなかなか帰ってこないから」
「彩名も、読めばいのに。僕のおすすめの本教えてあげるよ?」
「いい。今日はデートなんだから、本屋さんはダメなの」
「デート、ですか」
「だからまずはウインドウショッピングするの」
そう言って僕の腕を引っ張っていく彩名。
確かに男子と女子が一緒に歩いていたら、それだけで恋人っぽく見えるのだろうが、それなりには似てると思うんだよね。僕と妹。
そんなわけでブラブラとショッピングモール内を歩いていく。
歩いていくのだが、妹が全然お店の中に入ろうとしない。
それもそのはず。中学生の財力では特に何も買えないからである。
うちは別段裕福というわけでもなく、中学生からのお小遣い制度で、中学一年を千円とし、それから一年経過するたびに千円ずつ上がっていくという制度である。だから妹のお小遣いは、月二千円。ちなみに僕は四千円。
加えて妹は節約家である。というよりも使い道がないから貯めているそうだ。大人になった時に困らないようにするという心構えだそうだ。僕は本を買っちゃうから、学生のうちは貯金しないことに決めている。
前にもこういうことがあって、一度彩名に聞いたことがあったのだが、『お母さんと買い物に行ったら、買ってくれるから』とのこと。僕の時は全然買ってくれないのに、妹の時だけ買うとかズルいと思う。
「彩名」
「なに?」
「試着だけでもしてみたら?」
「いい」
「なんでさ。試着はタダだよ?」
「買わないのに着るのは、なんかイヤだから」
むむむ。意外と真面目なところがあるのか?
それからもしばらくショッピングモール内を探索し、雑貨屋さんや海外の食べ物が置いてあるお店や服屋さんなんかを、文字通り『見て』歩いた。
そして日も暮れたようで、窓の外に見える景色がだいぶ暗くなってきた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん」
と、その時。
ぐぅー……
「……」
「……」
妹の腹部あたりから聞こえた。
「……おなか減ったの?」
僕の問いかけにブンブンと首を横に振る彩名。
まったくもう。
「クレープでも食べて帰ろうか」
「でも」
「僕がおごってあげるよ。せっかくここまで来たんだし、なんか買って帰らないと思い出にもならないでしょ?」
僕がそう言うと、彩名は嬉しそうに顔を上げて笑った。
僕らはクレープが売っているお店へ向かい、そこで二個クレープを買った。
時々一口ずつ交換したりしてそれを食べ、空腹も落ち着いたところで家へ帰るために駅へと向かった。
その後、家へ帰ってからの夕食を食べきれなかったのは内緒だ。




