突撃!噂の部活へ!
6月3日の放課後。
「なんか駄弁り部というのがあるらしい。ちょっと負けない」
そう言って部長は出ていった。
僕は香月先輩を見た。
「察してやれ」
香月先輩はそう言った。
察せなかった。
元々活動らしい活動をしていなかったこの文芸部。
香月先輩と高城部長は、毎日のように意味のわからない会話を楽しんでいるし、こうやって本を読んでいる僕が、逆に浮いているようにすら見えた。
嘘つき部長と中二病先輩。
わけわからない嘘をつく部長の言い回しに興奮する香月先輩。
中二病的な言い回しに無理矢理嘘を重ねようとする高城部長。
仲良すぎだろ。
そんな文芸部に変化が訪れたのが、今回の部長の意味不明発言だ。
僕的に解釈をすると『駄弁り部というのがあるから、ちょっとケンカ売ってくる』ということでいいのだろうか?
そのことを香月先輩に聞いてみた。
「ふっ。お前は何もわかっていない。アイツは…嘘八百~アンスピークブレイカー~は、口先で解決へと導く駄弁り部に勝負を挑みに行ったのだ」
は? アンスピ…なんだって?
まぁ突っ込んだところで、まともな返事が返ってくる訳もないので、スルーしよう。
「で、その駄弁り部ってなんですか?」
「はぁ? 同じ1年なのに知らないのか?」
おい。キャラ守れよ。
「同じ?」
「オホン。彼は一人だけの部活動でありながら、学園生活環境部という部で、色々な悩み相談を受けては解決しているらしい。しかもお前と同じ1年なのだっ!」
『な、なんだってー!』となるはずも無く、
「へぇー」
とだけ言っておいた。
とはいえ、ちょっと部長の動向が気になるので、部室を出ていった部長のあとを追いかけることにした。
目的地はわかってるんだ。あとは部長に気づかれないように追いかけるだけ。
「絶対に押すなよ」
「押しませんって」
「バレたらダメだからな」
「…うるさいんでもう戻っててもいいですよ?」
「ふんっ。我が相棒を裏切るような真似はできん」
誰が相棒だよ。
もう放ってこう。
二人で部長が学園生活環境部の扉を開くのを、廊下の影から覗き見た。
そして部長は扉を開けて一言叫ぶ。
「挑もぉおおおおおっ!!」
威勢よすぎ。
「うわぁっ! な、なんですか!」
ん?
「先輩?」
「なんだ? 手短に頼む」
「あの部活って、一人だけなんですよね?」
「うむ」
「さっき先輩、『彼』って言ってましたよね?」
「うむ。あの部活は天塚とか言う若造の部活だ」
若造って、あんたと1つしか変わらんでしょうが。
「今聞こえてきた声って、女子の声じゃなかったですか?」
「むっ? 言われてみれば…」
はて、と首をかしげる香月先輩。
なんにせよ、駄弁り部の人間でない人に迷惑をかけるのはまずい。たまたま居ただけの人かもしれないし。
僕は慌てて部長の後に続いて部室に入った。
中には、背中を向けて立っている部長と、部長に負けず劣らず小さい女子が居た。
「って、日向さん?」
「お前、この女と知り合いなのか?」
「知り合いっていうか、中学のとき同じクラスだったんです」
「あっ、綾瀬くん…こ、こんにちわ」
相変わらずオドオドとしている。
日向さんは、
その姿を見た部長は、ニヤッと意地の悪い笑みを見せた。これはマズイ。
「やぁこんにちわ。私は文芸部の部長の高城だ。よろしく頼む」
「あ、ど、どうも…日向蓮華です…」
「実は私もこの駄弁り部の部員なんだ」
「えっ!?」
「なにぃっ!?」
日向さんが驚いたのとほぼ同時に、後ろから香月先輩が飛び出してきた。
この人、絶対聞いてたんだろうな。どうせ嘘だろうに。
部長と話すときは、9割方嘘だと思って聞いていれば、別になんてことはない。右から入って左から抜いていく感じ。
「そうか。香月には言ってなかったな」
えっ、何今の呼び方。キモイ。
「さすがアンスピークブレイカー…嘘八百の名は伊達じゃないというわけか…」
「お前に遅れを取るようならば、部長として失格だからな」
「ふっ…」
「クク」
「「ハハハハハハハ!!」」
急に笑い出した二人に、日向さんはからだをビクッとさせた。
あの二人はもう放っておこう。
僕は日向さんに話しかけた。
「あの二人は気にしなくていいよ」
「えっと、はい…」
中学の頃から思ってたことだけど、オドオドしすぎだろ。
僕らは別に友達というわけでもなく、ただのクラスメイトで顔見知り程度。日向さんが、僕の名前を覚えていたのはちょっと意外だったけど。
「なんで日向さんはここにいたの?」
「えっと…一応部員なので…」
「駄弁り部の?」
「はい。あ…でもここが駄弁り部だって知らなくて…その、しゅ、柊人くんに誘われて……」
「柊人くん?」
「天塚柊人くんです。同じクラスなんです…」
その天塚くんとやらに、騙されて入ってしまったと。まぁこの調子だと、騙されたっていう認識は日向さんにはないんだろうな。
そしてその天塚くんとやらは今いないと。
「そっか。ありがとう。じゃあ今日は出直すよ」
「しゅ、柊人くんに、伝えておきますか?」
「いいよいいよ。部長と先輩はそーゆーの好きじゃないだろうし」
頭の上に『?』を浮かべている日向さんに別れを告げ、僕は依然アホな会話をしている二人に向かって言った。
「部長さんは留守ですって。帰りましょ」
「ふっ。俺の力に恐れて避難していたというわけか。なんという回避スキルの持ち主か…」
「まぁ居ないと言うのは知っていた」
「はいはい。帰りましょうねー」
僕がほぼ無視して部室を出た。
すると後ろから殺気を感じたので素早く横に避けると、僕が元いた位置に部長と先輩のドロップキックが素通りしていくのが見えた。
「貴様! 後ろに目があるのか!?」
「貴様! ニュータイプか!」
「ふっ。殺気が見え見えなんですよ」
僕は思わずそう言ってしまった。
そしてそんなちょっとアレ的な発言に、ニヤリとする部長と先輩。
…なんかこの部活に飲み込まれつつあるなぁ、と思いながらうるさい二人を無視しながら文芸部部室へと戻るのだった。
アッキさんの駄弁り部をお借りしましたー