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本音

部室に入ってきた立花先輩は、僕のほうを見ながら昨日と同じ椅子にカバンを置いた。


「綾瀬君。文集どうする? 作るなら内容決めようか?」

「ちょっと待ってください」

「?」


僕は早速本題に入ろうとする立花先輩を制止して、とりあえず座るように言った。

一人いないけど、まぁいっか。


「部長」


目だけを僕によこしてくる。


「部長。僕は、この部活が好きです。文芸部っぽくないくせに文芸部を名乗ってるところとかも好きです」

「……」


相も変わらず聞いているのか聞いていないのかわからない部長。

それでも僕は続けた。


「最初はもうこんな部活すぐにでもやめてやろうかと思ってましたけど、まぁなんですか、結局居心地が良かったんですよね。住めば都じゃないですけど、慣れてくるとこーゆーのもアリかなって思えてきちゃって。だからなんていうんですか、その、うまく言えないですけど、文芸部はこの活動内容じゃないと文芸部じゃないんです」

「綾瀬君、ちょっといいかな」


ここで立花先輩が割って入ってくる。


「ってことはさ、綾瀬君は文集とかは作りたくないってこと?」

「いえ。そーゆーのは元々……というよりも、中学の頃からやりたかったことですし、むしろ毎月作っていってもいいと思ってました」

「だったら……」

「思って『ました』。会ってまだ二日目の先輩にこんな状態を見せるのは何とも言えないですけど、その文集作りよりも、部長と香月先輩と過ごした時間のほうが大事なんです。だからこれからもその時間は大切にしていきたいです。まぁ文集なんかは、実はやろうと思えば作れました。でもやらなかったのは、僕がそっちのほうが楽しかったから、だったんじゃないかなって思いました」


僕の言葉に、すこし不思議そうにしながらも、納得してくれたような立花先輩。話の分かる先輩でよかった。


「立花先輩にはもうしわけないですけど、僕は今までの文芸部の活動を支持していきます」

「……それでいいのかい?」

「それがいいんです。どっかの誰かさんみたいに嘘をつくのはうまくないので」

「そっか」


ハの字にした眉を少し上げて、困ったように笑う先輩。

そして部長へと目をやって、一言。


「だってさ、高城」


ん?

その言葉に反応した部長が僕に背中を向けたまま立ち上がる。

そして部長の手に握られていたスマートフォンに目が行ってしまった。

緑色のランプが点滅しているのも見えた。


「ご苦労様」


部長から発せられたその言葉の直後、部室のドアが大きな音を立てて開いて、香月先輩がそれはそれは素晴らしい笑顔でドカドカと入ってきた。

そして部長と香月先輩が立花先輩の元へと歩き、横一列になってこちらを見る。


「綾瀬君」


部長が言う。

僕は何が起きているのかわからず……いや、ちょっとはわかってるのかもしれないけど、頭がそれを考えるのを放棄していた。そのせいで完全に不意を突かれていた。

香月先輩が背中に隠していたものを僕に向かってバァーンと見せてきた。

ソレの文字を見た瞬間、僕は走馬灯が見えた。

楽しかったこと、悲しかったこと、小学校の時の思い出したくないこと、どうでもいい母親との会話、妹と遊んだこと、昨日の英語の宿題。

どうでもいいことも一気にフラッシュバックした。

そして目の前の三人のニヤニヤが最後に目に映った。


「ドッキリ大成功ー!!」

「ヒャッハー!!」


香月先輩が『ドッキリでした! ゴメンネゴメンネー!』と書かれた手作り感満載の看板を手に、僕のほうへと近づいてきた。

立花先輩も僕の横へとやってきて、モリヤステップを踏む始末。


「綾瀬君。悪かったな」


すごい謝罪の気持ちがこもっていない言葉で僕に話しかけてくる部長。さっきまでの不機嫌な部長はそこにはもういなかった。できることなら戻ってきてほしい。


「あの、これは一体……?」

「実は立花が綾瀬と仲良くなりたいといって、考えたドッキリなんだ」

「ドッキリ……」


だよね。

ドッキリって看板持ってるもんね。

でもまさか自分がドッキリにはめられるだなんて思わなかった。いや、正直驚いたっていうよりも、変な虚無感に襲われてる。


「どうだった綾瀬!? ドッキリにハメられた気分はどう!? ねぇ今どんな気持ち!?」

「綾瀬君! どんな気持ち? ねぇ今どんな気持ち? 驚いた? 驚いた? それとも悔しい? んー……悔しいでしょうねぇ」


……悔しい? 驚いた?

いや、そんなちゃちなもんじゃない。


「とはいえ、あの綾瀬君の言い方は傑作だったな」

「あれは文芸部の歴代に残る名セリフだった。総集編ではぜひ登場させたいセリフだったな!」

「僕もあんな台詞回しは初めてだった。今度使わせてもらうよ」

「……」


目の前と横で三人が話している。

僕はこの気持ちを抑えることができず、恥ずかしさと怒りとその他もろもろがぐちゃぐちゃになり、最終的に羞恥心が勝ってしまい、かぁっと頬が熱くなるのがわかった。


「おっ!? 綾瀬君!? その表情は!?」

「綾瀬が照れてるぞ! 撮れ! 撮るんだ!」

「撮るな! 撮るなこのクソ野郎!」

「なんやかんやで一年近くの付き合いになるわけだが、こんなに照れてる綾瀬君も初めて見るな」


こんなの年に何回も見せてたまるか!


「もういいです! 僕、もう文芸部辞めます! 職員室行って退部届もらってきます!」

「ちょちょちょちょちょっ!」

「待って待って!」


僕がカバンをつかんで走って部室を出ていこうとすると、香月先輩と立花先輩が片腕ずつ掴んで止めにきた。

しかし今の僕は止められない。

二人を引きずるようにして部室のドアまでたどり着く。

が、


「この私がそんなことをさせると思うのかい?」


部長が扉の前に立ちはだかった。


「最低です。部長がそんなことをする人だとは思いませんでしたよ。人の心を踏みにじって……」

「本当は、綾瀬君が心を開いてくれないから、ちょっといたずらをしただけなんだよ。謝る。すまなかった」


そう言って頭を下げる部長。


「ホントはそんなこと思ってないんでしょ」

「思ってるさ。私は香月よりも綾瀬君のほうが大事だ」

「おいっ! そこは同じくらいでいいだろ!」

「だから部長として、知っておきたかったんだよ。私は綾瀬君のことを大事に思ってるさ。これは本当だ」

「……」


こんなことを言われて何とも思わない僕じゃない。

……正直嬉しい。


「……まぁそれならそれでいいんですけど」

「フフフ。そうかそうか。悪いことをしたとは思っているが、綾瀬君のことを知りたいと思った故の行動だ。香月と立花を許してやってくれないか?」

「……わかりました。僕も大人げなかったです。すみません」

「おぉ……。綾瀬にもデレ期がやってきたイデッ」


変なことを言った香月先輩の足を蹴ってやった。


「今ので許してあげます。次はないですよ」

「高城が言ってた通り、綾瀬君はいい子だねぇ」

「なんて聞いてたんですか?」

「ん? 素直で信じやすい子って」


……ん?

僕は部長を見た。

部長はとっさに目をそらした。


「部長。こっちを見てください」

「いや、外がきれいだなって思って」

「もしかしてさっきのって、僕をなだめるための嘘ですか?」

「私がこんな状況で嘘をつくわけないだろ?」


ダメだ。もう誰も信じられない。


「やっぱり僕、辞めますね」

「な、なんでだよ! 俺たちやっと友情を確かめ合えたばっかりだろ!?」

「嘘の上に成り立つ友情なんてクソくらえですよ!」

「私と誓いあったあの契約を破棄するつもりか!?」

「いつあんたと契約したんだよ!」

「じゃあ僕は……」

「じゃあってなんだよ!」

「ダメだ。なんも思いつかないわ」

「もうちょっと頑張れよ!」


三人にツッコミを入れた僕は、部室の扉を開いて出ていこうとした。


「そうは問屋が卸さない!」

「負けるもんか!」

「綾瀬君を逃がすな!」


三人がかりで僕を抑え込んできやがった。

なんなんだ……なんなんだこの部活は!


「絶対にやめてやるーーー!!!」


廊下に響き渡ったその声は、誰かの耳に届いたのだろうが、助けは来ず、三人に言いくるめられる形で、ドッキリのお詫びということで、一週間分のお昼ご飯をおごってもらうという約束で和平を結んだのだった。

……はぁ。とんでもない部活だよ。

綾瀬君とほかのメンツのテンションの差を出したかったのに、よくわからなくなりましたw


とりあえずひと段落。

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