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脇道と砂利道

次の日の放課後、いつも通りに部室に向かうと、つまんなさそうに部室の指定ポジションに座っている部長がいた。いつもと違うのは、いつものあのキャラを保っているでもなく、ただ椅子を窓際まで寄せて、窓枠に肘をついて頬杖をついていることだった。香月先輩はまだ来ていないらしい。

僕は、部長の相手をするでもなく、いつも通りに椅子に座って読みかけの小説へと視線を落とした。

そんな時間が結構長く続いたと思う。いや、もしかしたらそんなに続いていないかもしれない。

いつもなら執拗にかまってくる部長が、今日はとても静かだった。

そのせいもあってか、部室内がとても静かだった。

……僕だってバカじゃない。約一年も部長と先輩に振り回されてきたんだ。どうしてこうなったかぐらいは自分でもわかってるつもりだ。もしそれが違ったとしても、それはそれでいいかもしれない。答えはたくさんあるのが人生だ。部長ならそう屁理屈を言うだろう。

きっとこの一年で僕の文芸部に対する見方というか考え方というかなんというかが、結構変わってしまったんだと思う。

もちろん本とか文集とかを作って、後輩とかに残してみたいという気持ちはあった。

本は一生残るものだし、未来で僕が作った本を誰かが見るかもしれない。

過去と未来を繋ぐことができる物だと僕は思っている。だからこその文芸部への入部に思いを馳せていた。

でも実際に入ったのは、嘘つきと中二病の先輩がいる部活で、理想とはかけ離れたものだった。

毎日のようにわけのわらない話を聞いて、脈絡もない会話を楽しんで、突拍子もない行動を共にしていくうちに、こんな文芸部も悪くないかなと思い始めていた自分がいた。

理想とは違っても、夢は叶わなくても、『住めば都』という言葉がピッタリ当てはまってしまっても、もうどうしようもなくこの部活が好きになっている自分がいることは、もはや否定できない確定事項となっていた。

別に素直になって部長と先輩にこの気持ちを伝えたいとまでは思わない。きっと二人も気づいてるだろうし。


それでも。それでもだ。


前からの夢にも近かった、文芸部らしいことをしようと言ってくれる人間が出てきたことは、僕にとってはとても大きなことである。

きっと、長い人生でいくつかあるという『分かれ道』に、僕は今立っているんだと思った。

一つは、差しのべられた手を握って、元々やりたかったことをするために歩む道。

もう一つは言うまでもない。間違ったほうへと進んだまま、戻らない道。

分かれ道というよりも、直線の道に見つけた細い路地、かな。きっとその路地の先は大通りに通じていて、街頭なんかもしっかりと設備された道だろう。それに比べて今歩いている道は、どうしようもなく砂利道で、街頭どころか舗装すらされていない道だろう。

でも、ずっとその道を歩いてこれたのは、部長だったり先輩だったりが、街頭の役目をしてくれていたからだろう。

二人はそんなつもりはないのだろうが、僕にとっては立派な道しるべになっていたのかと思う。

成り行きで入ってしまったこんな文芸部ではあるが、それなりに楽しいし、考えもしてなかった高校生活を送れることを、もしかしたら二人に感謝しなければならないのかもしれない。


僕は笑いがこみあげてきたのか、クスッと笑ってしまった。

そんな僕にも全く気にしないで、窓の外ばかり見ているセンチメンタル部長に声をかけるために、全く読めていなかった小説を閉じて机の上に置いた。

しおりを閉じ忘れたけど、もうこの際気にしない。また最初から読めばいい。

そして僕は立ち上がった。


「おっ。綾瀬君。もう来てたんだ。早いねー」


その瞬間、タイミングを見計らったかのようなタイミングで、立花さんが部室のドアを開けて入ってきた。

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