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正解と不正解

「あ」

「ん?」


何もせずにダラダラとしていた部活帰りだった。

三人で駅へと向かう道の途中で、あの人と偶然の再会をしてしまった。


「貴様……」

「君は…どちら様かな?」

「私は私だ! 前は……いや、初対面だ」


おっと。部長ってば前回の敗戦をなかったことにしたいようで、嘘ついて初対面にしおった。

そう。この人は、前にスーパーで部長とカフェオレかなんかで言い合いをしていた人だ。完全に部長が論破されてたからよく覚えている。

そして今日は、あの保護者みたいな人が一緒にいる。そして外だからということなのか、タバコを吸っている。歩きタバコは感心しませんな。


「おい。歩きタバコはダメだろう。どこで教わったんだ? んん? それとも先生に歩きタバコをするように教わったのかなぁ?」


下から覗き込むようなドヤ顔で、部長が早速難癖をつけ始めた。完全にチンピラだ。


「いーけないんだーいけないんだー。警察に言っちゃうぞー?」


一緒にいた先輩も混ざり始めた。きっと部長が攻め始めたのを見て『こいつはそういう対象なのか!』と脳内変換してしまったのだろう。これだからバカは……。

僕は目が合った保護者の、たしか六条寺(ろくじょうじ)さん、と軽く会釈をする。

部長と先輩に絡まれている女性なのだが、無言で二人を見ると、ポケットに手を突っ込んだ。その動作にビクッとした二人だったが、取り出した携帯灰皿にくわえていたタバコを入れてもみ消すと、携帯灰皿をポケットへと戻した。


「正解です。歩きタバコは不謹慎でした。謝罪します」

「お、おぅ。わかればいいんだよ」


なぜか香坂先輩が胸を張る。まぁ部長は張る胸がないからな。

そんな無い胸部長が、ここぞとばかりに反撃に出る。


「あんたはどういう教育を受けてきたんだ。前もスーパーでタバコを吸おうとしてたし」

「不正解です」

「何がだ」

「私は教育を受ける側ではなく、教える側の人間です」

「は?」

「えっと、この人は大学の教授なんだよ」


六条寺さんが横から割って入ってきた。


「和倉葉教授って言うんだ。前はごめんね。教授が迷惑かけちゃったみたいで」

「いえいえ。こちらこそうちの部長が迷惑をかけてしまったみたいで」


さらに僕が割って入り、六条寺さんとペコペコとし合う。こういう一般人の人と触れ合うのは、僕の日常生活の中で希少価値と言えなくもない事象になりつつあるので、丁寧に対応してみた。


「綾瀬君。君、こんなやつと仲良くする必要はない。むしろ私を助けろ」

「そんなチンピラみたいな部長を援護したくはないですよ」


あーだこーだと言っている横で、先輩が完全に蚊帳の外になっているのが見えた。

そして六条寺さんが教授さんに部長の説明をしていたのも見えた。


「あの時の」

「フンッ。思い出したなら仕方がない」

「あれはとても良い考察だったと思います」

「ん?」

「ですが、少しツメが甘かったです。ですから私にいい負けたといっても過言ではありません」


教授らしい言葉。僕はそう思った。


「ど、どうして敵に助言するようなことをする?」

「不正解です。敵ではありません。助言をしているだけです。有望な人間には、将来があり、未来があります」


めっちゃ褒められてる! 部長がめっちゃ褒められてる!

少し遠まわし気味だけど、驚くレベルでの褒められ方だ!


「そ」


そ?


「そんなことを言われたって嬉しくはない」

「そうでしたか。失礼しました。ではまたどこかで」


教授さんは部長の返し方に何とも思っていないのか、特に気にしたような様子もなくクルリと背中を向けて歩き始めてしまった。

六条寺さんが僕らにペコリとお辞儀をして、教授さんを追いかけていった。


「あっ! 今歩きタバコはダメだって自分で言ってたじゃないですか!」

「……正解です」


……ホントに教授なのか?


「高城ー。めっちゃ褒められてたのに、なんであんなこと言ったんだよ。もったいねぇな」

「ふんっ。あんなやつになんと言われても嬉しくない」

「どんな関係なんだよ……」

「犬と猿のような関係だ」

「猿と蟹みたいな関係に見えたぞ?」

「屁理屈を言うんじゃないぃ」

「ん?」


ん?

香坂先輩が気づいたように、僕も部長の変化に気がついた。

なんか今、語尾がふにゃってしてた気がした。

先輩が部長の顔を覗き込んでみると、思いっきりニヤけた。

先輩が僕を見てまたニヤけるので、僕も部長の顔を覗き込んでみると、そこには思いっきり頬緩めた部長の顔があった。


「高城。もっと自分に素直になれよ」

「そうですよ部長。強がりは友達を無くしますよ」


僕と先輩がニヤニヤしながら真面目なトーンで言うと、部長は思い切りニヤけた顔を上げて僕らの方を向いた。


「実はめっちゃ嬉しか……ハッ!」


そして僕らの顔を見て、ハッとした。


「やっぱり嬉しかったんだなぁ!」

「部長のそんな顔初めて見ました。眼福眼福」

「貴様らっ! 待て! ぶっ殺してやるー!」


同時に走り始めた僕と先輩を、部長が穏やかじゃないことを口にしながら追いかけてきた。

嬉しいなら素直に喜べばいいのに。


枯竹さんより、教授と六条寺さんをお借りしました。二度目。


綾瀬「僕のマイブームは部長をいじる事です」


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