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あけましたおめでとうございました

「あけましておめでとうございます」

「今年もよろしくな」


新年一発目の部活動として、部員三人で初詣に行くことになった。

西の山のほうに神社があるので、そこで現地集合することになり、新年初顔合わせを香月先輩と済ませたところだ。

香月先輩、私服が意外と普通なんだよな。グレーのピーコート着て黒のマフラー巻いてジーパン。これで金髪とかだったら目立つんだろうけど、遠くから見たら真っ暗。背丈もそこそこあるし、喋んなければ普通にイケメンの部類に入るんだろうけど、喋ったり動いたりするとクソウザイ男になってしまう。銅像にすると映えるタイプ。


「部長はまだなんですか?」

「あいつ意外と時間にルーズなところあるからな。それかタイムパラドクスの影響を受けている可能性が微レ存」

「タイムパラドクスの使い方間違えてますから。それ、言いたいだけでしょう」

「そういう日もあるな」


あんたの場合、そういう日しかないでしょ。

そんなくだらない雑談をしていると、遠くの方から見たことある人が近づいてきた。部長だ。


「む? 私が最後か? これはすまん」

「誰ですか。キャラ変わってますよ」

「ちょっと時代劇を見ていてな。口調が移ってしまったのでござる」

「新年初ボケがそれってどうなんですか」

「そんなことよりあけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「おう。あけおめ」


僕がペコリと首だけでお辞儀し、香月先輩が片手を上げて略式の新年の挨拶を交わした。

ちなみに部長の私服は、赤いポンチョみたいな上着にジーンズ生地のショートパンツに黒タイツ。足は茶色のブーツで包まれている。まぁ僕が言うのもなんだけど、そこそこ可愛い。だが胸はない。それを隠すためのポンチョなのか? 女子のファッションは手が込んでいると毎回思う。


「さぁ行こうか」


そう言っていつものように先導して歩く部長。その隣に先輩が並び、僕は一歩下がった二人の後ろがいつものフォーメーション。

そもそもうろな町の神社はそこまで大きなものではなく、山の裾にあるこじんまりとしたものであった。

今くぐった鳥居だって、巨人がくぐれそうな大きなものではなく、せいぜい大人が肩車をすれば手が届きそうなくらいの高さしかない。巨人もつまづく程度の高さ。逆にトラップとして使う方が有用的かもしれない。

そんな鳥居をくぐり、対して並んでいない列にサササッと並び、最前列で三人で横並びになる。そして財布から五円を取り出してお賽銭に投げ入れて金をカランカランと鳴らす。手をたたいて目を瞑ってお願いを……

あ、なんにも考えてなかった。えーと……今年も平和に過ごせますように、っと。でも今年は平和に過ごせてなかった気がする。あ、ちょっと待てよ。新入生が入ってきますように、と。

目を開けて隣の二人を見てみると、めっちゃ真剣に眉間に皺を寄せて祈っている先輩と、すでに目を開いて同じく先輩を見ている部長がいた。その視線に気がついたのか、部長がこちらを見て、肩をすくめて苦笑した。

香月先輩も目を開いたので後ろの人たちにその場を譲り、僕らは申し訳程度に作られているおみくじ売り場へと移動し、おみくじを引いた。

めくると『末吉』の文字がまず目に入った。なんだ末吉か。末吉の扱いなんてこんなもんである。


「綾瀬君は末吉か」

「後ろから覗かなくたって見せてあげますよ。末吉ですし」

「末吉を馬鹿にすると末吉に泣くって言うだろう。だから馬鹿にするのは良くないぞ」

「どこかの言い伝えですか?」

「『末永くお幸せに』という言葉があるだろう。あれと一緒で、『末永く吉が続きますように』と言う思いが込められているのだ」

「本当ですか?」

「あぁ。私が考えたんだから間違いはない」


その考えが間違いだ。


「そういう部長はどうだったんですか?」

「私は中吉だ。正直微妙だった」

「真ん中っていいじゃないですか。平凡、普通、穏やか。僕のと交換して欲しいくらいです」

「綾瀬君。こんなことで意地を張るんじゃない。所詮おみくじだ。気にするようなことでもない」


維持なんて張ってないですけどね。

そもそも聞いてきたのは部長からでしょうに。


「香月はなんだった?」

「俺はか? 俺は神様に好かれているようだからな」


そう言って見せられたのは『大吉』と書かれた紙だった。


「今年も幸運は俺に味方してくれてるようだ!」

「耕運機?」

「機械じゃねぇよ」

「降水量?」

「全然違うじゃねぇか! せめて似せる努力をしろ!」

「香月?」

「あ?」

「いや、もうやめよう。キリがない」

「お前からやってきたんだろうが! いきなりおみくじから大喜利をはじめるやつがどこにいる!」

「ここにいるっ!」


この二人は新年早々相変わらずだった。


「そういえば何をお願いしたんだ? すごい悩んでいたように見えたが」

「俺か? 俺は世界平和とかマッドサイエンティストになりたいとか右腕に力が宿りますようにとかその他もろもろ」

「はぁ……」


部長の深い溜息。


「あのな、初詣というのは、今年の抱負を神様だったり仏様に宣言しに行くんだ。だからお願い事じゃなくて『今年はあれこれ頑張りますんで見ていてください』ということを伝える場所なんだ。だから神頼みをする場所ではないんだぞ。貴様はそんなことも知らないでか」


そうなの? 僕も普通に神頼みしちゃった。


「マジかよ! 俺、めっちゃお願い事してたわ! やり直してきてもいいか!?」

「ダメだ。めんどくさい」

「しかし神に見守られている大吉パワーの効果ががががが」

「大丈夫だ。まだもう一度チャンスは残っている」


香月先輩と共に頭の上に『?』を浮かべる。


「このうろな町には、神社と寺が比較的近い位置にあるんだ。一説によると、神と仏が混合して眠っているのがこのうろなの山だと言われている」

「へー」

「つまり、どういうことかわかるか?」

「縁起がいいってことだな!」

「君は馬鹿か。線路から脱線したぞ。大事故だ。寺の方でもうワンチャンあるということだ」

「おぉ! じゃあ早速行こう! 行くぞ! いざ行かん!」


元気に走っていく先輩。そのテンションの高さに乗って走ってついていく部長。

……僕? 僕は疲れるから徒歩でついていった。

今年もよろしくお願いします。

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