クリスマスリスク
というわけで、わざわざクリスマスパーティーを行うために、冬休みとなったクリスマス当日に学校の部室へとやってきた。
結局、昨日のイブにはパーティーは行われなかった。
理由としては、昨日の終業式のあとに行うよりも、今日の冬休みに入ってからの方が準備ができるから、ということだそうだ。準備って言われても特に準備はしないし。しいて言うならフライドチキンを買っていくという任務を与えられたぐらいだ。
最近は文芸部の本棚に入っている本ばかり読んでいるので、中学の頃から続いていた『本を買う』というお金の使い道が無くなったことで出来たお小遣いの余裕で、フライドチキンは僕からのクリスマスプレゼントとすることにした。これは部長も先輩も了承済みだ。
いくらパーティーとは言っても、しがない学生が部員のために、プレゼントを用意してプレゼント交換なんていくらなんでも寒すぎる。冬だけに。
だから今回のパーティーは、各自がお金を出し合ってちょっと豪華な食べ物を並べてみようという趣旨で動いている。
僕は肉担当のフライドチキン。高城部長が甘いもの担当のケーキ。香月先輩がお菓子担当のお菓子。
先輩に限っては、完全にお任せになっているため、僕には全く予想がつかない。もしかしたら練れば練るほどなんとやらのあれをたくさん買ってくるかもしれないし、うーんまいスティック菓子をたくさん買ってくるかもしれないし、もしくは無難にカントリーなマームをたくさん買ってくるかもしれない。個人的にはチョコのパイがいいな。変に凝ったものを買ってくるのが一番困る。無難が一番。でもちょっと変なものを期待しているのは内緒である。
そんなこんなでフライドチキンが入った袋をぶら下げて部室にやってくると、部長と先輩が飾りつけをしていた。折り紙で丸めたやつをつなげたやつ壁から壁へとぶら下げていたり、クリスマスのリースを何個か飾ったり、テーブルの上にはキャンドルが置かれていたり。でも部長が座っている席にあるカボチャの置物と、先輩のとこにあるドクロの置物はそれぞれ変ではなかろうか? 自前か?
「やぁ綾瀬君。匂いでわかってたよ」
「いい匂いしますもんね」
「やばいな。この匂い嗅いでると腹減ってくるな」
「さすがにこの匂いはキツイな。飾り付けもめんどくさくなってきたし、この辺でやめるか」
「だな」
いいのかよ。
香月先輩が、クリスマス色のモールの片側に画鋲をつけて天井に向かってノールックで投げつけると、見事に天井に突き刺さり、ぶらーんとしたモールが天井からぶら下がった。無駄にカッコイイな。部長がちょっと羨ましそうに見て、同じように投げつけたが見事に失敗していた。だせぇ。
全員が所定の位置に座ると、部長が立ち上がった。
「よし。はじめようか」
「おー」
パチパチ。
先輩が拍手をしたので僕もとりあえず拍手。
部長は、取り出したオレンジジュースを三つのコップに入れ、僕と先輩にそれぞれ渡してグラスを掲げて一言。
「ハッピーメリークリスマス!」
「メリクリ!」
とりあえず一気飲みした二人を横目に、僕は半分だけ飲み干した。
「チキンだチキン!」
「綾瀬! 早く開けろ!」
「な、なんてがめつい人たち……」
思わず飛び出た心の声を気にすることもなく、僕が開けたフライドチキンの中身に二つの手が伸びてきて、両手で一つずつ取って、それを交互に食べ始めた。漫画のように。
「ゲハハ! チキンがうめぇ!」
「フフフ。ちょっとこれやってみたかったんだ。綾瀬君、悪く思わないでくれ」
両手にチキン。
家でやると必ず怒られることの一つ。理由はお行儀が悪いからだ。
ここでは注意する人間は誰もいないので、こんな大胆なことが可能である。
もしかしてこれをやりたいがためにチキンを買わせたのだろうか。だとすると、なんだか複雑な気持ちである。なんとなく複雑なだけで、原因はわからない。もし原因があるとすればお行儀が悪い二人の食べ方が汚いからだろう。きっとそうだ。
骨付きとクリスピーをそれぞれ一つずつ食べ終わり、部長のケーキが現れた。
普通のいちごのホールケーキだ。
しかし……
「あれだな。脂っこいチキンのあとのケーキってなんかキツイな」
「……悔しいが、同感だ」
「…僕もです」
ちょっとサラダかご飯が欲しい。口の中が脂っこくて、甘いものを食べる口ではない。食べれないこともないのだが、甘いものを美味しいと思えない可能性が高い。
というわけで、ケーキはもう少ししてからということにして、先輩のお菓子を食べることにした。
そして並べられる先輩のお菓子たち。
「少し香月には期待していたのだが、意外と普通だな」
「普通っ!?」
「ですね。なんかゲテモノ揃いなラインナップかと思ってました」
「ゲテモノッ!?」
想像以上のものは出てこず、ポテチとかクッキーとかポッキーとかプリッツとかという無難なラインナップだった。
それにチョコのパイやらカントリーなマームはなかったので、これはこれで残念。
「普通が一番だろうが!」
「香月。普通が一番というが、普通よりも少し刺激があるほうが面白いだろ。お前が好きなのもそういう少し刺激があるような生活だと思っていたのだが、私の見込み違いだな」
「ハッ……そうだった。こんなクリスマスに無難なものを選ぶというしょーもないことをしてしまった……」
「まぁそんなに気を落とすな。今日はパーティーだ。次のバレンタインデーは期待してるぞ」
「おう! 任せておけ!」
自分から落としたくせに、さりげなくバレンタインデーという二ヶ月後のイベントでの予約をするあたり、部長は抜け目無い。というかバレンタインは部長があげる側なんじゃ…? 『もらってあげる』的な?
まぁそんなこともありつつ、僕らのクリスマスパーティーは無難かつ普通に楽しんだのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とかあれば書いていただけると嬉しいです。
無難すぎてオチがつかなかった事実。




