常識人の不在
僕が文芸部に入部してから、早1ヶ月半。
暦は6月に入り、梅雨入りしたとかで昨日はすごい雨が降っていた。
今日は雨が降りそうで降っていないけど今にも降り出しそうな、そんな天気。
授業が終わった放課後、僕はいつものように旧校舎へと足を運び、所属する文芸部へとやってきていた。
近くまで来て、廊下に声が漏れている。まぁいつものことだった。
僕はその声に耳を傾けた。部室に入ろうか入るのをやめようか。そんな確認をするためだ。
「君は本当に考えたのか? それともそのキャラ設定は崩れないのか?」
「ふっ。俺のことを設定とか言うなし。あの新入りに俺の素晴らしさを提供してやっているんだ。第一、部長が部長なんだ。微妙に被るのやめてくれ」
「私と君が被っているだと? たわけが」
なんの話かはわからないけど、何気にメタトークを廊下に漏らすのはやめてほしい。
新入りというのは僕のことで、高城部長と香月先輩は、時々あーやって謎の口論を繰り広げている。
なんていうか迷惑だ。
僕は会話の真っ最中の二人に苛立ちを覚えて、邪魔してやることを決めた。
先輩だとかそんなのは関係ない。
「いい加減に適当なことをいうのはやめろよ。時々意味がわかんなくなってくるんだよ」
「君こそキャラを作るならその指ぬきグローブはやめたまえ。なんか見てて恥ずかしい」
「はっ! そんなのはお前には関係ないだろ。役作りには」
ガラガラガラガラ
「ハハハハ! このグローブは俺の力を封印しているに過ぎない! 言わば拘束具のようなものよっ!!」
「君には感服するよ。ただし、私も見えない拘束具をつけているのには気がつくべきだったなっ」
「……」
この二人の変わりよう…こればかりは無駄に圧倒されるわ。尊敬に値する。
だらけて座っていたのに、僕がドアを開けた瞬間、立ち上がって背筋を伸ばしてキャラ作り。
「やぁ。やっと来たのか。今日は休みだよ。残念だったね」
「部長も来てるじゃないですか」
「おっと。よく見抜いたな。さすがだ」
「貴様…俺の姿が見えているのか?」
「ちょっと何言ってるのかわかんないです」
「会話が出来ている…だと…?」
「…帰ってもいいですか?」
「「ダメだ」」
「…はい」
文芸部とは名ばかりで、現在の部員はこの二人と僕だけの三人。
部長曰く、『文芸部というのは、高校生活において、名ばかりの部活である』とのこと。
なんでもマンガやラノベなどでは、『文芸部=主役が滞在する部活動』なのだとか。全国の文芸部に謝って欲しい。そして僕にも謝って欲しい。
こんな部長と先輩の相手をするのが僕の部活での仕事となっている。
つまるところ、ツッコミだ。
構ってあげないと、教室にまで押しかけてくるのでやめてほしい。
辞めようものなら何を言われることやら…
まぁいいや。とりあえず本を読もう。
そして僕は部室内の隅っこに椅子を置いて読書を始めた。
意味不明な部長と厨二先輩。