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ポッキーの日

「うわぁ…」


なにやら廊下で叫び声が聞こえたと思って見に行ってみたら、やたらと演技臭い関西弁の人ともう一人の大人の男性たちがなにやら戯れていた。

さりげなく見ていたのだが、あれは見てはいけない類のものだと直感した僕は、絶対に関わらないように細心の注意を払いながら文芸部の部室へと向かった。

途中、香月先輩が当然聞こえたであろう叫び声に反応して廊下を駆け巡っているところを発見したので、ラリアットの要領で首を持って、力が抜けたところを文芸部の部室まで連れてきたことを除けば、何ら問題なく到着できた。


「…なんだそれ」

「危なかったんで連れてきました」

「お前のほうが危なく見えるがな」

「気のせいです」


部室に入るなり部長に聞かれたので適当に答えておいた。





そんなこともあったのだが、学校祭も終わり、本格的に暇になった部室内では、『ひまぁ~』という擬音が出ていそうな空気が流れていた。

部長は頬杖をついて暇そうに、先輩は外を見ながら黄昏ていて、僕はいつものように読書をしていたのだが、ふいに部長が呟いた。


「今日、ポッキーの日だよな」

「おー!」


その言葉に反応したのは、当然香月先輩だった。


「そうだった! ポッキーの日といえば、ポッキーゲームだ!」

「いいか香月。ポッキーゲームというのはな、元々は恋敵と決着をつけるために行われた決闘だったんだ」

決闘(デュエル)……」

「そうだ。バレンタインデー、ホワイトデー、はたまた韓国ではブラックデーなどとあるように、この手の食べ物系イベントは2月、3月、4月と上半期に偏っている。それを何とかするべく考え出されたのがポッキーの日だ。お菓子会社が適当に作られたと思われがちな語呂の日ではあるが、噂ではこう言われている」


部長が一呼吸置くのを先輩はゴクリとつばを飲み込んで見た。


「クリスマスはここから始まっている、と」

「……は?」

「香月。だからお前はバカだと言われるんだ。考えても見ろ。クリスマスといえばなんだ?」

「サンタ?」

「お前は子供か。純粋な子供か! クリスマスといえばカップルが合法的にイチャイチャしていても許される日だろうが!」

「ハッ!!」


ここで気づいたらしい先輩。


「しかしその意中の相手とお近づきになるにはどうするべきか。それはクリスマスまでにアプローチをかけておくしかない。そして動き始めるなら、この時期がベストだ」

「なんでだ? 別に11月じゃなくても、12月に入ってからでもいいだろ」

「だから彼女ができないんだよ」

「がびーん」


あんたが言うか。部長だって恋人いないでしょうに。


「この時期、寒くなりつつあるこの時期。必然的に人は暖かいところに集まる。それは教室だったり家だったり職場だったりだ。そこでただ駄弁っているだけだと場が持たないだろう。何かきっかけが欲しい。意中の相手に話しかけるきっかけが欲しい。そこで救いの手を差し伸べたのがポッキー先生だ。このポッキーの日というのを利用して、『今日って、ポッキーの日なんだってー。よかったら一本食べない?』と話しかけるきっかけにできる!」

「ポッキー先生かっけぇ!!」

「そしてあわよくば、その場のノリと勢いで、口にくわえたポッキーを端から食べ合うポッキーゲームというのを意中の相手とできるかもしれない! そしてこれをきっかけに意中の相手との距離を縮め、クリスマスに一緒に過ごせるかも、という計算式が成り立つのだ」

「ほほぅ。ポッキーもなかなかやりおるな」


腕を組んで、フムフムと頷く先輩。そしてふと気がつく。


「ん? んで、ポッキーゲームが決闘っていうのはなんでだ?」

「ニブチンめ。意中の相手を狙っているのは一人ではないだろうが。相手は一人だったり、はたまた多人数かもしれない。競争率が多い相手なら、それ相応の相手がいること間違いなしだ」

「たしかに。で、決闘方法とは?」

「ポッキーとポッキーの激しいぶつかり合いだ」

「ぶつかりあい?」


これには僕も本を読みながらハテナを浮かべた。ちなみにさっきから本の内容は頭に入ってきてないです。


「ポッキーにはなんでチョコの部分とチョコがついてない部分があると思う?」

「食べる時に持ちやすくするためだろ? チョコが溶け始めてもチョコが手につかないようにって」

「その通りだ。だがしかし、別に見方もできる。これは『剣』であると」

「……はっ!」

「そうだ。ポッキーを使っての決闘。すなわち、真『剣』勝負だ!」


『くわっ!』と目を見開く部長と、椅子から立ち上がるほどの衝撃を受けた先輩。

先輩が派手に倒した椅子の音がうるさかった。


「恋敵を倒すために、ポッキーという名の『剣』を持って立ち上がる。これが本来のポッキーゲームであり、ポッキーの日の裏側に隠された真実だ」

「ポッキーの日……こえぇ……」


なんで信じちゃうかなぁ。


「わかったならば、迂闊に『ポッキーゲームしようぜ』なんて言葉を軽々しくいうものじゃないぞ。死人が出る」

「わかった……教室ではそんなことが行われていたんだな」

「わかればいいんだ。おっと。もうこんな時間か。そろそろ帰るとするか」


部長がそう言って、各々が帰る準備を始めた。

そして僕はカバンの中に本をしまう時に思った。


(このポッキーどうしよう)


ポッキーの日ということもあって、わざわざ学校に来る前に買ってきたのだが、さっきの部長の話のせいで出しそびれてしまった。

すまないポッキー君。君に罪はないんだ。僕の実力不足だ。すまない。

僕はポッキーをカバンから出すことはせず、そのままカバンを閉じて、部長と先輩の後ろを歩いて帰路へと着いた。

部長「香月とポッキーゲームなんてごめんだ」



というわけで、ポッキーの日ネタでした。

えっ? 遅刻?

病に犯されていたのでノーカンだから! うちのシマじゃノーカンだから!

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