開封式
「ブラックとカフェオレと微糖あるけどどれがいい?」
部室に入ってくるなり、三本の缶コーヒーを見せてきた香月先輩。
その先輩を見て、僕と高城部長は顔を見合わせた。互いに真顔で見合って、また先輩を見た。
「お前、誰だ?」
「いやいや。俺だって、オレオレ」
「あ、カフェオレと俺をかけたんですね。こんなうまいことを先輩が言えるはずないです。やり直し」
「いやいやいやいや。えっ? 演技でしょ? 俺だよ? 香月くんですよ?」
そんな先輩(仮)を見て、また部長と真顔で顔を見合わす。
そしてまた顔を戻す。
「…本当に香月か?」
「なんで嘘つかないといけないんだよ」
「香月が人に物を奢るなんて、天変地異の前触れじゃないか」
「俺だって気分がいい時ぐらいあるんだよ」
確かに言われてみれば、いつもよりもニヤけている気がする。
「…その心は?」
「さっきラブレターもらった!」
「はい解散ー」
「おつかれさまでしたー」
そう言って立ち上がった僕と部長を部室から出させないようにと、素早くテーブルにコーヒーを置いて扉の前で両手を広げて行く手を阻む先輩。ドア閉めればいいだけなのに。相変わらずバカだな。
「なんだよ」
「恐いって。なんでキレ気味なのさ」
「お前がくだらない嘘ばっかりつくからだろ」
「違うって。ほら……っしょっと。証拠だ!」
僕らの目の前に可愛らしい花柄の便箋を見せびらかす。
「自演乙」
「おい。ちげぇって言ってんだろ」
「先輩に手紙出すなんてとんだ強者ですね」
「人を異端児みたいに言うのやめてくんない? まぁでも異端児ってちょっとかっこいいな。特異点とかでもいいぞ」
「見たところまだ中身開けてないみたいだが、中身は見たのか?」
「まだだ。一人で開けるのが恥ずかしいから高城と綾瀬と一緒に見ようかと思って」
「羞恥プレイだろ」
「もしラブレターだったら自慢できるだろ。ちゃんと口止め料も持ってきたからな」
香月先輩の視線の先には、さっきのコーヒーがあった。
「……安く見られたもんですね」
「……まぁいい。暇だし付き合ってやるか」
「よし。じゃあどれ飲む?」
「私はブラック」
「僕は微糖もらいます」
「じゃあ俺はカフェオレゲットだぜ!」
各自コーヒーを取り、それぞれの席へと着席する。
そして先輩がテーブルの真ん中に置いた便箋へと注目する。
「…いいか。開けるぞ」
「焦らさなくていいですよ」
「早く開けろ」
「急かすなって」
便箋が破れないように、慎重にシールをはがしていく。思わずこっちまで緊張してきた。
そして中から一枚の紙を取り出す。ガサガサと広げて香月先輩が文面に目を通しながら読み上げる。
「えーと、『親愛なる香月様。急なお便り申し訳ありません。大変驚かれたとは思いますが、この手紙をもってこちらをラブレターとさせていただきます。秋の空も深まってまいりまして、わたくしの心にも冷たい風邪が吹き込んでまいりました。そこで、香月様にわたくしのこの心に吹きすさぶ風を防いでいただき、心を温めていただきたいのです。もし、温めていただけるようでしたら、明日の放課後、屋上にてお待ちしております。香月様を想う、望月帆稀』」
読み終わった。
沈黙が訪れた。
部長は先輩から手紙をひったくって自分の目でもう一度読んでいる。
しかし無言。
そして最初に口を開いたのは、いいだしっぺの先輩だった。
「ど、どうだった?」
僕と部長はなんて答えたらいいのかわからず、当たり障り無い返答を返した。
「えっと…とても個性的な文章だと思いました」
「これ、アレだろ? 縦読みとかななめ読みとかしたら読めるタイプの暗号文だろ? あっ、あぶり出しか?」
「……」
僕らの返答を聞いて、机に突っ伏してしまった先輩。
そしてそのまましゃべる。
「正直に言ってくれ」
「お歳暮とかについてきそうな文章だと思いました」
「ラブレターじゃなくて『らぶれたぁ』だろ。絶対に暗号文でもおかしくないだろ。それに名前が読めない」
「あー。同じクラスのやつだわ。望月帆稀で『もちづき ほまれ』」
部長と先輩は違うクラス。
「先輩と仲いいんですか?」
「いや、普通」
「ってゆーか、香月は友達いないもんな」
「えっ…俺とお前は友達だろ?」
「えっ…?」
「え……」
「……」
…………
えっ?
次回新キャラ登場。




