下準備
「さて、どうしたものか」
「また去年みたいに色々でっち上げるのか?」
「それで去年さんざん怒られたではないか。怒られたいなら別だけど」
「いやだ」
「……何の話です?」
部室に入ると、部長と先輩が頬杖をつきながらあーでもないこーでもないと話していた。
「ん。まぁ文化祭で何をやろうかと思ってな」
「一応文芸部だから、文芸部らしいことをしておかないと部活として認められないんだよ」
忘れてたけど、ここは一応曲がりなりにも『文芸部』なのだ。部室には一応本棚があって、文芸部が作ったと見られる冊子のバックナンバーなんかも置いてある。
前に読んでみたけど、毎年書かれていることは似たようなもので、校長先生へのインタビューや学校の歴史、近年の出来事、文芸部の活動報告などが載った、全10ページ程のものだった。
「文芸部らしいことなんてしたことないんですけど」
「文芸部ってのはな、自然と事件や問題が舞い込んでくるところなんだよ」
「綾瀬君にはまだちょっと早いんじゃないか?」
「それもそうかもな!」
「「HAHAHAHAHAHA!!」」
部長と先輩に高笑いは、僕を座った椅子から立ち上がらせるのには十分だった。
文芸部って、そういうところじゃないから。事件とか問題とか舞い込んでくるのは警察か探偵事務所の役目だから。高校の部活にそんなのが舞い込んできてたら職員会議ものだから。すぐに先生に相談しに行くっての。
と、立ち上がった僕を二人が止めるのは早かった。
「ちょ、ちょっと待った。冗談だから」
「綾瀬君だって、文芸部の一員だろ? 今年も文化祭での部の出し物として何かしなければならないんだが、何かいい案はあるかい?」
部長がなぜかふんぞり返って言う。
ちょっとイラっとしたけど、いつものことなので気を鎮めて席に座り直した。
「まぁそこの冊子みたいなのを作ればいいんじゃないですか?」
「フフフ。簡単に言ってくれるな」
「難しいんですか?」
「難しいもなにも、面白みがないじゃないか。まるで絵に書いたような文芸部の冊子なんか普通すぎてつまらないじゃないか!」
「いや、普通でいいじゃないですか。普通っていいですよ。普通にしてるだけで、怒られない・叱られない・迷惑がられないの三拍子を得る事ができるんですよ? それなら普通でいいじゃないですか」
「綾瀬。それはエゴだよ」
「あんたの頭の中の方はお花畑だけどな」
「バカ野郎! 俺の頭の中は広大な宇宙が広がっているんだ! そしていつでもビックバンを引き起こしてはサプライズを求めているんだ!」
「何言ってるんだ、この人は…」
香月先輩の意味不明発言を無視して、僕は部長の方に向き直った。
「で、文芸部らしくない文芸部の文芸部としての文芸部の発表はどうするんですか?」
「綾瀬君。君、たまに反抗的だよな。それをどうするか香月と決めていたところだ。喫茶店なんかは、人数の都合上不可能」
「あ、うちのクラス喫茶店です」
「メイド喫茶だとぉ!?」
「あ、いえ。普通の喫茶店です」
「なんだ。つまんね」
おい。
「じゃあなおさら喫茶店は却下だな。まぁ人数的に考えると、掲示物が一番かな。だから文芸部で壁新聞を作ろうかと思ってな。今考えた」
「おー。意外とまともな案でビックリしました」
「まぁ問題は内容なんだがな」
「内容?」
「内容は考えてないよう。なんつって」
「……」
「……」
「……なんつって」
「「…………」」
「……ごめんなさい」
香月先輩が場の空気をクールダウンしてくれたので、僕と部長で壁新聞の内容を考えることにした。
「内容って言っても、去年とか何書いたんですか?」
「おー。去年も壁新聞だったなんてよく知ってるな」
「そこの冊子に書いてました」
すごい空白だらけの年間行事表に書いてたからよく覚えてる。
「去年はな、UFOについて書いたんだ」
「UFO? 全く文芸部関係ないじゃないですか」
「文芸部に関係なくても、『壁新聞』というワードが文芸部っぽいだろ」
「そんなのでよく怒られませんでしたね」
「いや、それが怒られたんだ。ちゃんと壁新聞を書いたのに、文芸部として活動をしたのに怒られたんだ。理不尽極まりない」
部長が去年のことを思い出したのか、プンスカしながら自分の後ろの棚をガサゴソとあさり、ポスターのように丸められた紙を取り出した。
それを受け取った僕は、中身を見るために伸ばした。
それは紛れもなく去年の壁新聞だった。
読んでみた。
『UFOとは、未確認飛行物体のことであり、宇宙人が乗っていると思われている飛行物体のことである。未確認生物が乗っているから未確認飛行物体。しかし、それは誰が定義づけたのか。もしもそのUFOに私が乗っていたならば高城飛行物体と命名されることだろう。よってUFOとは、宇宙人飛行物体であり、宇宙人とは未確認生物ではなく宇宙人なのだ。未確認飛行物体という呼称をやめるべきである。そしてここでもう一つの問題が浮かび上がってくる。そう、宇宙人とは、なぜ宇宙人と呼ばれているのか。単に宇宙から来たから宇宙人なのだろうか? 今現在、世界では宇宙での生物は確認されていない。(月に見えるのはクレーターであり、うさぎが餅つきをしているわけではないので、月にうさぎはいない)。ただ地球の生物ではないから宇宙から来たと推測されているだけで、宇宙人と呼ばれているのだ。では宇宙で生物は確認されていないのに、宇宙から来たと推測されたのか……』
…これは怒られても仕方がない。
新聞から目を離し部長の方を見ると、感想を聞きたがっているかのような顔に見えた。
僕は小さくため息をついて部長に告げた。
「文芸部の恥さらしめ」
「!?」
恥さらしめ!




