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転校生

「おい! お前の隣のクラスに転校生が来たってよ!」

「……はぁ」

「……あれ?」


意気揚々と部室に入ってきた香月先輩が、いつもの席で本を読んでいた僕に向かってそう言った。

しかし、クラスが違う僕からしてみたら全然どうでもいいことで、転校生で、しかもクラスが違うともなれば、ほとんどの確率で出会うことはない。つまり興味が湧かない。


「反応薄くね?」

「そんなことないですよ。普通です」

「それが普通だったらお前、相当冷たくね?」

「そんなことないですよ。普通です」

「……」

「世の中って難しいですね」


大人しくなってしまった香月先輩が自分の席に着いた。

そしていつもは馬鹿な話に付き合ってくれる相棒がいないことに気がついたようだ。


「あれ? 高城は?」

「部長なら金髪美女を見に行くとか言って出て行きましたよ。今頃空港でチケットでもとってるんじゃないですか?」


僕が笑いながら言うと、先輩はものすごい顔をして僕のことを見てきた。

威圧感がキモイ。


「高城のやつめ…抜けがけは許さん!! 行くぞ、後輩!」

「……」

「って、おいっ!! そこは『はい、先輩っ!』って言って何も聞かずについてくるもんだろ!」

「そんなコントがしたかったんですか?」

「そうじゃねぇよ! もういいからついてこい!」


無理やり手を引かれた僕は、机の上に読んでいた本を置くと、仕方なしに香月先輩と部室を出た。

…しおり挟むの忘れた。


部室を飛び出した僕は、見慣れた自分の教室を通り過ぎて隣のクラスの入口へとやってきた。

たしかクラスの人が転校生がどうとか言ってはしゃいでたのは覚えてるけど、さして気になっていなかった。

改めて見るとすごいもので、隣の四組の教室のドアのところには、人だかりができているのだ。

その中に、我が部の部長・高城部長もいた。


「高城ォ!」


そんな部長の元へ、先輩が駆け寄っていった。

僕は途中で手を振り払った。先輩と手をつないでるところなんて見られたら嫌だし。


「む。遅かったな」

「お前なに抜けがけしてんだよ!」

「抜けがけではない。先行視察だ」

「なんだよその言葉…」


適当な造語を作り出して先輩をなだめると、馬鹿な先輩はすぐに『そうか!』と納得してしまった。

僕も人ごみの隙間から教室内を見てみると、なんとも言えないほどの美人な外人が注目を浴びているのが見えた。

あれが噂の転校生か。


「話を聞いてみると、クォーターらしい。そりゃ美人なわけだ」

「クォーター!? なんてカッコイイ響き…」


絶対に先輩はわかってないな。


「それにフランス語もドイツ語も日本語も中国語もイタリア語も話せるみたいだ」

「すげぇな!」

「嘘だけど」

「なんでそこで嘘ついたんだよ!」

「でも英語とフランス語は話せるみたいだ」

「それは…ホントか?」

「ホントだ。さっきそこの男子が喋ってた」

「ほほう」


若干疑心暗鬼になっている先輩が顎に手を当てて何かを考え始めた。


「季節外れの転校生」

「外国人のクォーター」


部長と先輩がそれぞれ呟くと、アイコンタクトを交わして小さく頷いた。


「戻るぞ」


部長がそう小さく言って歩き出すと、先輩が続いていく。

なんのことかわからずにとりあえず、僕も二人のあとに続いた。

そして歩いた末に、部室へと戻ってきた。部長がいつものところに座ると、両肘をついて組み合った両手の上に自分の顔を乗せた。


「さて。あの転校生についてだが…何者だと思う?」

「は?」

「綾瀬…お前、鈍いな。この変な時期に来た転校生と言えば、何かの問題児に決まってるだろう」

「それか何かの能力者だ」

「いやいや。単に親の都合とかじゃないですか?」

「バカヤロウ!」


若干カタコトで大声を出した先輩。なぜ、そこを影響されたのか。


「この世界には俺たちが知らない世界がはびこっているんだ。何も対策をしていない人間は、日々消されているんだ」

「先輩は何を言っているんですか?」

「香月の言うことは正論だ。だから我が文芸部もいろいろと考えておいて損はないと判断した」

「……」


部長も先輩も頭がおかしくなってしまったのだろうか? それとも夏休みボケの後遺症か?

僕はバカ二人に何も言えなくなってしまい、冷めた視線を向けながら黙ることにした。


「とはいえ、なんだと思う?」

「あれじゃないか。誰かの死期が近いから、その魂を取りに来た死神」

「金髪碧眼の死神って目立ちすぎだろ。それなら天使かなんかの生まれ変わりだと思う」

「その天使が何しに来たんだ?」

「死神から魂を取られるのを防ぎに、とか?」

「じゃあ死神来るんじゃん」

「香月。君は何も分かっていないな」


部長はやれやれと両手を上に向けて呆れたポーズをした。


「天使と死神はそれぞれ姿を隠して人間を救ったり魂を奪ったりするものだ。それをわざわざ姿を見せてまで人前に出てきているんだ。ということはどういうことだ?」

「…目立つ?」

「そうだ。目立ちすぎるんだよ。だからこそ意味があるんだ。死神達に『私はここにいるぞ!』とアピールしているんだ。そしてアピールするほどの実力があるってことだ。つまり強い天使だということだ」

「おぉっ」

「そしてこの推測から求められる答えは、あの転校生は天使ということだ」


ドヤァと頭の上に効果音が見えたのは言うまでもない。

完全論破した部長は、先輩に指の先を向けると、ふふんと鼻を鳴らした。

指を差された先輩は、目をキラキラさせて立ち上がって言った。


「もう一回見てくる!」

「ずるいぞ、私も行く!」


颯爽と部室を飛び出していった先輩を追いかけるかのように、部長も立ち上がって追いかけていった。

残された僕は、さっきまで読んでいた文庫本を手にとって、読んでいたところを思い出して、挟み忘れたしおりを挟んだ。それをカバンに入れて立ち上がる。


「帰ろう」


僕は部室を出て、家路へと着いたのだった。

神楽さんの仕立屋怪事件簿より、天波香をお借りしました。


部長とか先輩は『転校生』という言葉に心をときめかせます。

なんかかっこいいですよね。

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