侵略者と患者
学校も始まって、夏の暑さが落ち着き始めた今日この頃。
でも一応は夏なので、まだ暑い今日この頃。
いつもどおりめんどくさい先輩二人の相手をしている今日この頃。
いつもどおりかと思っていたら、そうでもなかった今日この頃。
というわけで、何やらヘンテコなやつと出会ってしまった。
「我を誰かと存じ上げようか。我はベテルギウス星系人の院部団蔵と申す」
「これは丁寧に。俺は地球人代表の香月です。どもども」
耳は地球人のものとは思えないような形で、目も顔も何もかも人間離れしていた。というよりは地球人ではなく、宇宙人っぽかった。
って、香月先輩、勝手に代表になんないでください。全地球人に謝れ。とりあえず僕から謝れ。
「香月」
「なんだ?」
まさかの部長からの注意か。言う時は言ってくれるんだよなー。
「部の代表は部長である私だ。だから地球人代表は私だ」
おい。
「むむむ。我と対話をするということか?」
目の前の宇宙人は、部長が地球人の代表であると信じたようで、なにやらパーカーのポケットの中身をゴソゴソとしながらそう言った。
そしてポケットから取り出したのは、コンビニで売られているようなおにぎり大の青い何かだった。
なぜ『何か』と表現したのか。
それは、本当に何かわからなかったからである。
なんかこー、丸くて、ツルツルしてて、でもやわらかそうで、ぶつけたらポヨンと音を立てそうなそんな類のものであった。
それを見ながら部長が聞いた。
「これは?」
「よくぞ聞いてくれた。これは死人を操ることができる、はいぱぁな代物である」
「はいぱぁな代物?」
「死人を操れる!?」
部長よりも食いついたのは、初代地球人代表だった。
「どういうことか、そこのところ詳しく!」
「これは元々動物型宇宙人を使役するために作られたものなのだが…それを我が手に入れたのだ!」
あ、今こいつ端折った。話をぶった切って二ぐらいからラストまで一気に飛ばした。
しかし香月先輩がそんなことを気にする訳もなく、すげーとかうぉーとか言って感心しまくっている。
「我と交渉するにあたっては、このぐらいのものを用意していただかないと困る」
「むぅ…」
そう唸った先輩は、カバンの中身をガサゴソと漁る。
そして一冊のノートを取り出した。
「それはなんぞ?」
「これはだな、俺の空想世界の全貌だ」
「ふぁんたじあどりぃむとな?」
うわぁ…すごい痛いの出してきちゃった。
厨二病患者だとは思っていたけど、まさかここまで本格的に中二病だったとは思わなかった。
あの部長ですら僕の隣まで下がってきて、ドン引きしている。事実上の地球人代表の交代である。地球人の恥さらしめっ。
ペラペラとめくりながら不思議そうに目を通す宇宙人に、先輩は熱くなった拳を握りしめては振りかざして語り始めた。
「空想世界では、全ての生きとし生ける物が能力を持ってるんだ。その能力も様々で、十人十色だ。その世界では能力の優劣が社会での地位になってるんだけどさ、底辺の高校生が反乱を起こすために仲間を集めようとするんだ」
「ふむ。よくわからんが、我もその能力を持っているのか?」
「もちろんだ。その世界では人間も宇宙人も関係ないからな」
「ほうほう。それは興味深い」
宇宙人は、先輩のクソ話を信じたようで、顎を触りながら頷いていた。
先輩があーだこーだといい、宇宙人がこーだそーだと言って盛り上がっている時、部長が僕の制服の袖を引っ張った。
ふと見ると、部長がとても気持ち悪いものを見るような顔で先輩を見ていた。これはドン引きしてる顔ですわ。
「綾瀬、帰ろう」
「そうですね」
部長が結構素になっている。いつものような捻りの効いた言葉も発さずに、ただ『帰ろう』とだけ言った。
僕と部長は先輩と宇宙人に背を向けて歩き出した。二人の話し声がドンドン遠くなり、ついには聞こえなくなるぐらいまで離れた時だった。
「綾瀬」
「はい?」
「香月、気持ち悪かったな」
「…はい」
「最初は宇宙人みたいなやつが出てきて、そっちのほうがキモいなって思ってたんだが、香月のほうがキモかった」
「部長。その話はやめましょう」
「…そうだな。今日のことは忘れよう。明日からは、いつも通りの私たちで香月に接してあげよう」
「そうですね」
僕らは明日の部活も通常通り行うことを決めてそれぞれに家路へと別れた。
なんか、疲れた。
香月きもいわー
出汁殻ニボシさんより、院部をお借りしました。




