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手品師

学校が始まって、早一週間が過ぎた。

部活とは言えない部活に今日も今日とて参加をし、香月(こうづき)先輩の仕業でわざと薄暗くしている部室内の窓際で文庫を読み、一人文芸部らしいことをして下校した。


「だから、あそこの場面ではクルッとマントを翻して(ひるがえして)だなぁ」

「マントなんてものは飾りだと言っているだろう。たしかにかっこよくは見えるかもしれないが、物理的に考えて戦闘の時に邪魔になるし、どっかの誰かさんみたいなちゃんちゃんこ並の性能がない限りは邪魔だ」

「もし、マントに乗って飛べるとしたら?」

「…それは邪魔じゃない……で、でも翻して格好良く見せるだけなら、裾の長いコートでもいいではないか」

「長いコート着てるやつがおもむろに前をバッ!って開いたら、目を背けるだろ? 職質されそうで怖いんだよ」

「なら中に何か着てればいいじゃないですか。っていうか、なんでついてきてるんですか?」


変質者になろうと頑張っている香月先輩にツッコミを入れた。もちろん高城(たかしろ)部長も一緒だ。セット販売がデフォなのかもしれない。


「それは文芸部だからだよ。綾瀬君」

「部長。最もらしいこと言ってますけど、全然筋は通ってないですからね」

「それは文芸部だからだよ。綾瀬」

「先輩もマネしないでください。もっとひねってください」


ツッコミとダメだしをいっぺにする苦労は、疲れるというよりもめんどくさい。我ながらよく続いているものだと思う。


「だって綾瀬ん家って、あの天狗の家の近くなんだろ? だったら会うかもしれないじゃんか」

「どこかは知りませんよ? そんなに会いたいなら、中央公園あたりのほうが出没率は高いですよ。小学生と遊んでるとこ見ましたし」

「天狗と小学生が遊んでる?」

「なんか審判みたいなことしたり、師匠みたいなポジションにいました。まぁチラッと見て聞いた程度なので何してたかは知りませんけど」

「どうして俺の師匠になってくれないんだ!」

「素質がないからじゃないですか?」

「がびーん」

「ふっ。ざまぁ」


ムンクの香月となっているところを、部長があざ笑うかのように指をさしていた。部長も似たようなもんなんだけどな。


「わかったらついてくるのやめて、優等生らしくおうちに帰ってください」

「綾瀬君と離れたくないの!」

「別に付き合ってないんで、そーゆーセリフやめてもらってもいいですか? 先輩と付き合ってください」

「香月は嫌だ。なんか嫌だ」

「うわっ。なんか嫌だ、ってなんかすげー傷つく。心に響く」

「良かったな」「良かったですね」

「俺って、そんなにめんどくさい?」


僕が歩き出したところで、結局後ろについてくる二人。

これはどうしたものか…。

そう考えていると、部長の足がピタリと止まり、それに気づいた先輩が何事かと声をかけていた。


「高城?」

「あの人、どっかで見たことある。どこだっけなぁ…」

「どの人?」

「ほら、あそこにいる男の人」


そう指差した先には、商店街の肉屋さんのおじさんと話している男性がいた。

スーツのジャケットを脱いでいて、ワイシャツにネクタイをしている。


「誰だっけなぁ…すごい見たことあるんだけどなぁ…なんか悔しい…」


そう言われると見たことある気がしてきた。

でも見たことある顔なんだけど、どこで見たかは思い出せない。


「あー。あれ、ここの町長じゃん」

「「!?」」

「うおっ。そんなに驚くことじゃねぇだろ…」


あっさりと答えた先輩に、僕と部長が目を丸くして驚いた。


「香月…お前、なんで知ってるんだ?」

「いや、前のお祭りん時、マジックしてたじゃん」

「あーそっか! そこで見たんだ! あのしょぼいマジックな」


部長が僕の気持ちを代弁してくれたので、僕は心の中で頷いた。


「でも、よく覚えてたな」

「ふっ。こう見えても、趣味は人間観察だからな」


得意の決めポーズで言うが、僕と部長はあえてリアクションはしなかった。


「よし。マジックを見せてもらおう」

「は?」


そう言うと、部長は町長さんのところへとスタスタと歩いていった。

それを見た僕と先輩は、慌てて部長を追いかけた。


「すみません」

「はい?」

「町長さんですよね?」

「そうだけど…」

「マジック見せてください。汚名返上のチャンスをあげます」


部長はそう言うと、口の端をニヤリとつり上げた。

最低だこの人。人前をマジックさせて、恥をかかせてやろうというのが目に見える。というか顔に出ちゃってる!


「マジックかぁ…でもトランプとかないしなぁ…」

「おっとこんなところにトランプが!」


肉屋のおじさんが町長さんに向かってトランプを放り投げた。それを町長さんがナイスキャッチ。って、どこから出した。


「じゃあちょっと頑張っちゃおうかな」


町長さんが腕まくりをすると、周りで見ていた人達が何人か集まってくる。


「なんだなんだ?」

「マジックするんだってよ」

「町長さん?」

「夏祭りのリベンジ?」


周りの声につられるようにわらわらと集まってくる。この町の謎の一体感。それが今、目の前で起こっているこれだ。古い商店街の人たちっていうのは、どこもこうなのだろうか?


「な、なんか人だかりみたいになっちゃいましたね…」

「いいではないか。これぐらいじゃないと町長もやる気が出ないだろう」


部長の耳元で小さく言うと、部長は町長さんのほうを見ながらそう言った。香月先輩は、楽しそうに部長の隣の最前列で見る準備万端だった。


「それでは始めさせていただきます」


ペコリと軽くお辞儀をした町長さんが、肉屋のおじさんが出してきたテーブルを使ってトランプを手際よくシャッフルしながら言う。


「えーと、お嬢さん、お名前は?」

「高城だ」

「高城さんね。高城さんは、なんの数字が好きですか?」

「13だ」

「じゃあキングですね」


そう言って数あるトランプの中から、Kと書かれたキングを4枚取り出す町長さん。

それをテーブルの上に四角形の角に置くように並べて置いた。


「ではこのキングを並べて……」






「すごかったですね」

「あぁ」

「やべぇよな。俺、マジックとか目の前で見たけど、マジシャンってみんな能力者なんだな」

「私も思った」


うんうん、と頷く部長と先輩。

道端の段差に腰掛けた部長と先輩は、マジックの感想をあーだこーだと言い合っている。


「どうやったらトランプが瞬間移動するんだ?」

「きっと手のひらに隠しながらやっているんだろうけど、あんなデコピンしてから移動するまでの間に何をしていたのか全然わからん」


香月先輩は単純に『すげー』と声に出している。高城部長は冷静に分析しようとしてマジックを思い出しながらブツブツ言っている。

結果、町長さんのマジックは大成功で、ちょっとしたマジックショーとなっていた。

ステージの上からでは見えにくかったマジックも、目の前で見るとちゃんとしたマジックで、もうわけがわからなかった。きっと先輩の言うとおり能力者なんだと僕も思ったぐらいだ。

部長の思惑通りとはいかず、町長さんのリベンジは成功となった。

その時の部長はとても悔しそうな顔をしていたが、予想以上のマジックに驚いていた時の部長を見れたので、僕は何も言わずに心の中で馬鹿にするだけにとどめた。

シュウさんより、町長さんをお借りしました。


ということで、自作品でのコラボでした。

セルフコラボとはこれいかに。

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