嘘つき部長
うろな高校へと入学することができた僕は、念願の文芸部へ入部した。
中学の時は興味があったけど、勇気がなくて入れなかった文芸部に、高校生になった今年から入ることにした。
入部届はすでに提出済みで、部室として使っているという旧校舎の2階の元資料室へと足を運んだ。
なんでもここの高校の文芸部には、入部試験があるらしい。
元資料室の前まで来た僕は、落ち着いてその試験に挑むために一つ深呼吸をしてから扉を開いた。
その中には、椅子を二つ並べて、その上に仁王立ちをしている一人の女子生徒が見えた。その分だけ高いところからまっすぐに僕を見下ろしている。
ここ、文芸部だよな?
出直して入口の『資料室』の文字を見ようとしたとき、その女子生徒が口を開いた。
「ようこそ我が文芸部へ。私が部長の2年の高城だ。よろしく頼む」
「あっ、僕は一年の綾瀬浩二です」
すごい上からの自己紹介で驚いたが、僕はなんとか自分の名前を言うことができた。一安心。
「君が入部希望者ということか。我が文芸部の活動内容は知っているかね?」
「か、活動内容?」
本読んだりする部活じゃないの?
違ったとしたら、文芸部に来た意味がないんだけど…
「この文芸部の活動内容は、ペットボトルでロケットを作ることだ」
「…はい?」
文芸関係無いじゃん。ただの工作部じゃん。
「君は今、『文芸関係無いじゃん』と思わなかったかい?」
「思いましたけど…」
誰だって思うだろ。
「じゃあ別の内容を教えよう。この文芸部では、様々な本を読みあさり、その事実を元に別の本を作り出すのが活動内容だ」
「な、なんかすごいですね」
「これも嘘だ」
えっ、嘘なの?
「つまり本当っぽいことを言っても、全く違うこと言っても、嘘には変わりない。だったら嘘をつく側はよりリアリティがある嘘をついたほうが、良い気がしないか?」
嘘に質なんて求めていないだろう。詐欺師になるわけでもあるまいし。
「じゃあ君も何か嘘を言ってみたまえ。そうだなぁ…この文芸部を選んだのはなぜかな?」
「いきなり嘘を言えと言われても…」
もしかしてこれが試験なのか?
嘘をつけってことは、つまり適当に答えたらいいんだよな…
「部長が可愛いから入部しようと思いました」
「そうか。それはそれでいい回答だ。では私のどこが可愛かったのかね?」
「えっと…」
胸なし、低身長、生意気、見下しすぎ、意味不明な発言。
褒めるところがない。
でも適当でいいのだろう。
「その目ですかね。部長のつぶらな瞳に惚れました」
「目、か。なかなかいいところに気がついたな。実は私も自分の目には自信があってな、今まで目薬をしなくても目は疲れないし、視力も3.0から衰えたことがない。いつも裸眼だ。裸同然の目だ。そんな私の生まれたままの姿を象徴しているという目に惚れるとはなかなかの強者だな。よし気に入った。君は入部させない」
「やっ…えぇっ!?」
「冗談だよ。君は合格だ。嘘だけど」
「…どっちですか」
部長は椅子から飛び降りて、床にスタッと着地すると、テーブルのそばにある椅子に座ってその向かいを『座りたまえ』と指さす。
僕は指示されたとおりに着席した。
「どっちだろうね。まぁとりあえず入部を祝って歓迎会をしようではないか。これも冗談。歓迎しようにもジュースもお菓子もない。おっと。君は酒豪だったか?」
「未成年です」
「そんな気はしていたよ。じゃあ…」
「もういいです。合格なんですか? 合格じゃないんですか?」
「ん? うちの部活に入部試験なんてものはないよ。私が気に入ったら歓迎するだけ。気に入らなければ気に入らなかったで終わるだけ。入部届けを出したなら、君は文芸部の一員だ。私に拒否する権限などない。決めるのはいつも先生だけだ」
そう言ってケラケラと笑う部長。
…なんか変な部活に入っちゃったなぁ。
イッツ・ラノベチック!




