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レイナの心情

 今回も少し暗い雰囲気のお話になりました。

(まったく、なんなんだあの男は)


 私は救世主の男──士郎のことを考えながら自室のドアを開ける。

 

「おかえりー」

「ああ、ただいま」


 玄関に差し掛かったあたりでルームメイトであるシオンが挨拶をしてきたので返しておく。

 このシオン、私よりひとつ歳が下で後輩にあたるのだが類まれなる努力と才能で六あるEからSのギルドランクの中で二番目に強いとされるAランクに値し、学園内でもトップクラスの成績を誇っている。

 まだ学生の身分でここまでたどり着ける人物はそういない。

 まあ、かくいう私もAランクなのだがそれは置いておこう。


「うーん、何やら難しげな顔をしていますね会長。どうかしましたか?」

「いや、ちょっとした私情だ。それと生徒会意外では会長と呼ぶなと──」

「は~いはい。──レイちゃん」

「それでいい。ここでは私たちもただの幼馴染なんだからな」

「へんなところにこだわるよね~、レイちゃん」

「うるさい」


 シオンの口調が私の言葉で間延びした口調に変わる。

 何故かシオンは生徒会がかかわる仕事の時にだけ口調が固くなるのだ。本人は頭のスイッチを切り替えるためにやっているらしいが。

 そのあと少し私たちはいつもどおりの何げない会話を繰り返した。

 小さいころからの付き合いであるシオンは学園内でも特に気を許せる相手だ。もう一人気を許せる相手もいるがそいつはいま長期のクエストをギルドで受注して学園にはいない。

 ……しかし腹が減ったな。


「さて、今日の夕飯はなんだい? 作ってあるんだろう?」

「うん、作ってあるよ~。今日はレイちゃん大好物のハンバーグだよ」

「何? 中にチーズは」

「もちろん入ってる~」

「よしっ」


 シオンがいつも通りののんびりとした口調で答える。

 ──さすがはシオンだ。私の好みをよくわかっているな。

 我ながら子供っぽいとは思うがハンバーグやオムライスが何より好きなのだ。──まあシオンに子供っぽいなどと言われたらショックで立ち直れないような気がするが。


「そういえば前から少し思っていたんだけど~、レイちゃんの食事の好みって子供っぽいよねぇ~」

「なっ……!」

「あ、もしかして図星だったかな~?」

「ふん、おいしいのだから仕方がないだろぅ……」

「あはは、顔赤くなってる~。かわいい~」

「か、からかうな」


 あー、もうっ。顔から火が出るようだ。

 しかし、ばれていたのか……。私の好みが子供っぽいということが。──あ、子供っぽいのは食べ物関係だけだ、本当だぞ?

 くぅ、これで明日から食事がオムライスとかカレーばっかりだったら──天国ではあるが──羞恥で死にそうだ。


「じゃあいま~、温めてくるね~」

「そ、そうか。頼む……」


 私は食事の準備をしに行ってくれたシオンの顔を見ることができない。

 だってギルドや学園ではお姉様とまで呼ばれるこのある私がお子様趣味だと思われたら……。

 ああ、考えてきただけで泣けてきた。

 

「え~と、火の呪文で三十秒温めればいいから──」


 私が悲観している間にもキッチンでは(温めるだけだが)料理が進んでいるらしい。

 まあ、まだばれたのがシオンだけだというのが唯一の救いだろう。

 彼女が周りにばらさなければまだ私は立ち直れる。

 ──ん? なにやらいいにおいが……。

 

「レイちゃん、できたよ~」


 どやうやらいいにおいの原因はシオンのようだ。


「持ってきてくれるか?」

「は~い」


 返事からあまり間を開けずシオンがハンバーグを運んでくる。

 このソースの香りがたまらない。


「いただきます」

「いただき~」


 私たち二人は食事に対して合掌する。

 どうもこの作法は二百年前の救世主がもたらしたものらしい。なんでも食材に感謝するのだとか。

 ま、そんなことはどうでもいい。それよりも今はハンバーグだ。


「あむ。やはり美味いなシオンの料理は」

「こんなの~だれでもできるし~。おいしいのはハンバーグでしょ~」

「む、たしかにハンバーグはおいしいが、作ったのはシオンだ」

「だから~、これくらいだれでもできるって~」

「少なくとも私はできん」

「それは胸を張って言うことじゃないよ~」


 私は最近肩こりの原因になってきた胸を張って断言する。

 第一できないものは仕方がない。


「そんなことより~、救世主様たち──とりわけあの男はどうだったの~?」

「え……?」


 まさかこのタイミングでその話が来るか。

 私の頭には真っ先にあの男──シロウの顔が浮かぶ。


「そうだな、正直……よくわからないんだ」

「え~? 嫌いとかじゃなくて? もしかして~男に対する嫌悪感泣くなちゃった?」

「わからない、正直私も意外なんだ」


 しかしシロウにたいして不思議と嫌悪感は覚えない。

 だがシオンの言うように男に対する嫌悪感がなくなったわけでもないのだ。

 

「まあ、嫌悪感がなくなったということはないと思うぞ」

「そうだよね~。──ねえ、あのおじさんまだ生きてるの?」

「──ッ! あ、ああ。まだ生きてる」

「そうなんだ」


 シオンはいつもどおりの態度だが目が笑ってない。

 それもそうだろう。シオンが言ったおじさんとは私が男に対する嫌悪感の原因を作った父のことなのだ。

 元々私の家系は貴族といわれる立場で、基本的に一族の経理は叔父さんや叔母さんがやっていた。

 この一族に政略結婚という形で嫁いできたのが私の父である。

 父──いや、あの男は叔父叔母には立場が弱いくせに、優しいお母さんや町娘には酷くあたり、よく暴行を加えていた。

 それは性的なものにまでおよび、またなにかしら町で性的暴行をしても貴族という立場を使ってうやむやにしていた。

 時々私にまで魔の手が伸びそうになったことも数え切れないほどあった。本当に助けてくれた叔父叔母、お母さんには感謝している。

 しかし政略結婚で迎えた関係上追い出すわけにもいかず今も本家のほうに居座っている。──まあ今は監禁のような形で厳しく見張っているらしいが。


「うっぷ……」

「ごめん、嫌なことを思い出させちゃったね」

「いや、すまない。取り乱した」

「仕方ないよ。レイちゃんも何度か危ない目にあいかけたんでしょ」

「ああ……。思い出したくもないな」


 とくにあの醜い顔といやらしい手つきは。


「ご、ごめん。暗い雰囲気になっちゃたね。──ほら、救世主様のこと教えてよ」

「あ、ああそうだな」


 シオンが無理やり笑顔を作って話題を戻そうとする。

 

(気を、使わせてしまったな)


 せめてこいつにはシロウとやらの話をしてやろう。


「そうだな、シロウは何か不思議な雰囲気を持っていてな。言葉づかいこそあまりよいとはいえそうにないが物腰は案外やわらかそうで、付き合いやすそうな雰囲気だった」

「ふぇ~。まさかレイちゃんの口からそんな言葉が出てくるなんて~」

「意外か?」


 私はいたずらっぽくはにかんで見せる。

 だが私のそんな態度を見てさらにシオンが驚──いや、どん引きしている!?


「レ、レイちゃんが男の話をしているときにそんなお茶目なことをするなんて……! ど、どうしたのっ、熱でも出た?」

「おいおい、いつもの間延びした口調はどうした。それに熱などないぞ」

「え~、本格的にびっくりだよ~」


 でも今思えばいつも男の話をするときは殺伐とした雰囲気を持っていたかもしれない。

 ギルドに所属している男の仲間と話すときもそっけない態度だしな。

 そう考えたら驚くかもしれない。


「まあいいかな~。で、女子たちはどうだったの~?」

「うーん、全員こちらの人間と変わらない感じだったかな。まあ明日会えばわかるさ」

「そうだね~」


 特に話題もなくなった私たちはハンバーグを胃に納めてシャワーを浴びた。

 そしてベッドにもぐりこんだ頃。

 薄暗い部屋の中で私たちは向き合っていた。


「そういえば明日はシロウ達を迎えに行かねばならないんだ」

「……シロウって誰~?」

「ああ、救世主の男だ。それで、シオン着いて来るか?」

「私も~、着いて行っていいの~?」


 意外そうな顔をしてシオンが見つめてくる。

 しかしそんな目をキラキラさせなくても……。


「構わないだろう。どうせ学園長のとこに行くだけだからな」

「じゃあ私もいこっかな~」

「わかったよ。それと朝が早いからいつもより一時間早く起こしてくれ」

「う~、お弁当抜きでいい?」


 シオンが聞き捨てならないことを言う。


「それはだめだ」

「え~ん。レイちゃんのいじわる~。購買じゃだめ~?」

「ダメだ」


 これだけは譲れない。


「ふえぇぇ。レイちゃんが辛辣だよ~」

「すまないな。じゃあそろそろ寝るとしようか」

「そうだね~。おやすみ~」

「おやすみ」


 電気が消えて完全に暗くなった室内。

 その中で私は目を閉じた。

 どうでしたか? また長い話になりましたね。

 少し明らかになったレイナの過去と食べ物の趣味。

 さて、作者は暗い話は得意ではありません! なのでそろそろ明るい雰囲気に戻していきたい思います。

 というわけで次回からは学園に突入です。


 感想、評価お待ちしております。

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