表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

凛の不安

春風至上最大の文字数となりました。

「ここがお前たちの部屋になる」


 あれから俺たちは少し離れたマンションのような建物の一角に来ていた。

 しかし予想はしていたけどバカでかいなこの学園。結構歩いたけど全く端が見えん。


「ああ、案内センキュー」

「ふん、仕事だ」

「そうか。──しかしひとつ聞きたいんだが?」

「なんだ?」


 今、俺に前にはレイナに案内された部屋がある。

 しかしどうも問題があるように見受けられる。


「ここってよくわからんが多分二人部屋なんだろ?」

「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」

「どうかしたかじゃねえぇぇぇぇ! それじゃあ必然的に俺はこの中のだれか一人と住まなきゃならねえじゃねえか」


 隣にいる青ざめた顔をの八卦姉妹と由美を指をさしながら叫ぶ。

 だって、おかしいというかまずいだろ、男と女が同じ部屋で過ごすというのは。


「何を叫んでいる……。──いや、そうか」


 俺の言葉の意味を理解したレイナがあごに手を当てる。

 が、すぐに顔を持ち上げた。


「ふむ、お前たちは仲がよさそうだから問題ないだろう」

「なっ──」


 予想外の言葉に俺は息を詰まらせる。

 男嫌いなレイナなら何か解決策を提示してくれると思ったのに。

 しかしこうして悩んでいる間にも時間は過ぎていく。


「だいたい下衆な男からしたら女子と住めるというのはうれしい状況じゃないのか?  私からすればお前の反応ほうが不自然なのだが」

「私たちがいた世界じゃ士郎の反応のほうが普通なんだけどね」

「む、そうなのか?」

「うん。私たちの世界でも女の子にひどいことをした男は嫌われてるからね」


 ああ、話が嫌な方向に進んでいく……。


「なるほど。しかしそういうことならなおさら大丈夫だろう。──たしかフウカとリンは姉妹だったな」

「え……うん。そうだよ」


 よわよわしい声でリ凛姉が答える。

 まだ学園長室で言われたことを気にしているようだ。

 しかしレイナの今の言葉は……。


「よし、ならリンとフウカは右の部屋。シロウとユミは左の部屋だ」

「──やっぱり」


 俺はぽつりとつぶやく。

 やはり部屋決定へのフラグだったようだ。

 あーあ、おれもうどうなってもシラネ。なるようになれってんだ。


「じゃあ、部屋に入って休んでくれ。明日の朝に迎えに来るからな」

「あれ、もう行くのか?」

「ああ、ルームメイトもいいかげん帰らないと心配しているだろうから」

「そうか気をつけてな」

「ふん、私の部屋はここのひとつ上だから心配など無用だ。……しかしこの男はなんでこんな風に優しく接してくるんだ? 男のくせに……」

「どうかしたか?」

「ふん、なんでもない」


 なにかボソボソつぶやいていた気がするのだが。

 まあ本人がそういうなら気にする必要もないか。

 レイナはこの場を去ろうとして一言のこしていく。


「ああそうだ。もう十時だからあまり食べすぎるなよ。主に女子」


 残して言った言葉は訳が分らなかった。

 周りを見ればどうやら理解してないのは俺だけみたいだが。

 そのうち歩いて行くレイナの背中が見えなくなった。


「……ま、ここで突っ立ていてもしょうがねえし部屋に入ろうぜ」

「そ、そうね」

「凛姉と風華も見てこいよ、自分たちの部屋」

「そうしましょうか。風華」

「うん、お姉ちゃん」


 凛姉は自分もつらいのを我慢して気丈に返事する。

 ──まるで落ち込んでる妹に対して弱い姿を隠すように。


(ま、そのおかげで風華がまだ正気を保ってるのかもしれないと、思うと凛姉さまさまだな)


「それじゃあ俺と由美はこっちにいくから」

「あ、、……うん」


 俺は左側の部屋に入っていく。

 風華が引き留める声を上げていたが、凛姉がいるから大丈夫だ。


 ──ガチャリ


 俺は部屋の扉を開けて中に入った。


「おお……!」

「ふえぇ」


 そして同時に驚きの声を上げる。

 なんと、そこにはホテル並み──いや、キッチンのこととか考えたらそれ以上か──の部屋が待っていたのだ。


「ひゃっほーい!」


 ──ボフン。


 俺は感動のあまり大きなベッドにダイブを決める。

 これは……。予想道理のモフ感!

 由美は咎めるような視線を向けながらテーブルに向うがそんなこっちゃかんけえねえ。


「なにこれ? 鍵……と、料理?」

「これは俺のもの──なに?」

「鍵と料理」

「なん……だと!」


 俺はいささかべたな反応をしながらテーブルに顔を向ける。

 するとたしかに鍵──この部屋のルームキーだろう──と一緒に料理が置いてあった。

 が、しかし


「なんだ、これ」


 そこにある料理が見たこともないものばかりだったのだ。

 まあ、肉とかはあまり変わらないんだが黄色のリンゴや赤色のキュウリがあるのだ。

 しかし辛そうだなこのキュウリ。


「いただきまーす。はむり」

「あ、士郎!」


 好奇心が顔を出した俺は真っ先にキュウリに手を伸ばし口に含む。

 ふむ、これは──。

 俺は意外な感想を持ったこのキュウリの味を由美に発表する。


「ほのかに甘みがある!」

「え、うそっ」


 俺の感想を聞いた由美もキュウリもどきを口に含む。


「あ、甘い……」


 俺と同じ感想をポツリと吐き出した。

 そう甘いのだ、赤いくせに。このキュウリめ。

 さらにはみずみずしい、つまりうまい。

 この新感覚にはまってしまった俺たちは部屋に備え付けてあるチャイムが鳴るまで食事をとり続けた。


 ◇◆◇◆


 ──ピーンポーン。


「これほんとにりんごか──って、うん、誰だ? あいてますよー」

「あたし見てくる」


 突然の来客に俺たちは一度食事を中止する。

 このタイミングで来るとしたら凛姉と風華だろうか。

 そんな俺の予想は半分あっていた。


「あ、凛姉」


 やってきたのは凛姉だけだった。


「ごめんね、食事中だったのかな」

「凛姉、いいよ別に。それと風華は」

「あの子は、多分疲れたんだろうね。少しごはん食べるとベッドで寝ちゃった」

「そっか……。で、どうしてここに?」

「あのね、二人のほうが状況把握できてそうだったからお話し、しに来たんだ」

「わかった」


 やはり凛姉も不安だったんだろうな。

 なら少しでも不安を取り除くのが俺と由美の仕事だな。

 まず俺は話のしやすい環境を作るために食べ散らかしたそれを片づけ、代わりにリンゴのようなものを一口サイズに切って皿に盛ってきた。

 テーブルを挟んで向かい合う俺と凛姉。

 由美は席をはずしてシャワーを浴びている。

 気まずかったから去ったのだろうが、正直シャワーの音が聞こえてきているので少し困る。


「あはは、由美はガードがあまいから気にしちゃダメだよ。それより、今この状況のことを分かっているだけでいいから教えてくれないかな」

「え? あ、ああ、そうだな」


 凛姉の言葉でシャワー音から現実に戻ってくる。

 俺は凛姉のことをじっと見つめた。

 しかし凛姉はたじろぎもしない。いつもなら顔を赤くしてあたふたするのに。

 ──本気ってことかな。

 あまり暗くなるような話はしたくなかったんだが。


「まず始めに、俺たちはこの世界に救世主として召喚──いや、身体能力とか変わっていそうだから転生のほうが正しいか──をされた。ここまではいいか?」

「うん、信じたくはないけれど。それと……っ!」


 凛姉は何かを聞こうとして唇をかむ。

 それを見て俺は聞きたいことを理解する。

 

「それは──」


 俺は一瞬、逡巡する。

 この一言を言っていいのかと迷う。

 だが向こうが決心しているんだ返事をしないわけにはいかない。


「──それは俺たちが向こうに帰れるかどうかって話か?」

「う、うん。そう、だよ」

「そうだな、俺は帰れないと思っている。もし帰れたとしても道は困難で、嫌な話になるけど俺たちが傷ついたり、その逆や、誰かが死ぬこともあるだろう」

「そ、そうなんだ」


 凛姉は絶望した顔になる。

 やはり「人を殺すことにもなる」──とは言わないほうがいいだろう。

 

「ね、ねえ士郎君。その根拠は何かな?」


 凛姉は涙目で、何かにすがっているような視線で問いかける。

 まるで「ウソって言って。認めたくないよ」──そう言ってるようにすら見える。

 だが俺はあまさを許さない。決断したのは俺であり凛姉だから。


「根拠は俺がよく読む本にそういった話が多かったからとしか言いようがない」

「じゃあ──」

「だがこの世界に来て話を聞いて、それは確信に変わりつつある。いや、もしかしたらそういった本のほうが現実よりは優しいかもしれない」

「そん、な」


 ──フラリ。


「凛姉っ」


 俺は崩れ落ちそうになった凛姉を抱きとめる。

 腕の中にあるその体はいつもの凛姉から想像できないほど細く、そして震えていた。

 ──そりゃそうだよな、女の子だし、俺たちみたいに異世界に来れて舞い上がってるわけでもねえ。

 視線の先にある小さな女の子が涙をこぼす。


「士郎君、私、こわいよぉ。帰れるかなぁ。お母さんたち心配してないかなあ……ぐすっ」

「大丈夫だ俺がなんとかしてみせるから。だから泣きたいときは泣いていいんだぜ。風華がいるから、無理をさ……してたんだろ?」

「しろ、っ君は優しいね……。──ぐす、うわああああぁぁぁぁんっ!」


 凛姉が泣き始めたその時だった。


 ──ガチャリ。


「何してるの? ──いや、そうだよね」


 風呂から上がってきた由美が咎めるような視線で俺を見てくるが、状況を理解したらしく納得する。

 しかし、また制服着てんだな。しかもYシャツと短いスカートが湿った体に少しくっついていて何とも艶めかしい──っていかんいかん。


「なあ、由美。今日は向こうの部屋で凛姉といっしょにいてやってくれないか? 多分いろいろ悩んで一人で抱え込んでるから」

「今なんか変なこと考えなかった? ──いや、まあいっか。凛先輩、向こうに行きましょ」

「ぐす、ゆ、み?」


 由美が凛姉の腕を引っ張る。

 しかし何故か凛姉が立とうとしない。


「ん、どうしたの凛先輩?」

「今日だけでいいから士郎君も一緒に……ダメ、かな?」

「へっ……いや、その」


 凛姉が涙のたまった目で見てくる。

 う、正直行きたいのはやまやまだけど由美がうるさそうだし俺男だし。


「きなさいよ士郎。この状況はあんたの責任でもあるんだから」

「あ、いや。そうだな、わかったぜ」

「ありがと、士郎君」

「きにすんなって」

「じゃ、行きましょっか」


 そのあと俺は八卦姉妹の部屋で寝た。

 まあ、俺はソファで寝たんだけどな。……あまり寝れなかったけど。

 ま、こいつらのためにも頑張んないとな。














 はい、春風桜花です。

 どうでしたか。多分、長いと感じられた方も多いと思います。士郎も主人公してくれましたしね。

 みなさまこれからも応援よろしくお願いします。

 次回はレイナに視点を置いてみようと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ