異世界という場所
「とりあえずそこのソファに座ってもらえるかしら」
俺たちのことを案内したセヴァスは部屋にある二つのソファのうちのひとつをしめす。
「あいよ」
俺たちはその言葉にしたがって腰を下ろす。
それを確認したセヴァスとレイナも反対側のソファに腰を下ろす。
「さて、じゃあ無駄話はなしですぐに本題を話すわよ」
「ああ」
「お願いします」
俺たちはセヴァスの言葉に頭をさげた。
俺や由美はともかくこの現状をあまりにも理解しいていない凛と風華にとってはそちらのほうがよいだ
ろうから。
「そう、じゃあどこから話そうかしら。──そうねこの世界の簡単な歴史から教えてあげる」
それからセヴァスは短めに、しかしわかりやすくこの世界のことを説明してくれた。
この世界は三千年前に女神様によって作られたこと。
二千年前から百年に一度、魔族と呼ばれる種族が人間を脅かしに来ること。
そして同じように百年に一度、救世主となる異世界の者があらわれること。
そのなかでも男の救世主の魔力は強力で、男の救世主がいた時代は善戦していたこと。
しかし百年前の男の救世主がとある事件を起こしたことでそれから女性の男に対する目線と態度が変わり、百年たった今でも少数だがまだ引きずっている者がいること等々。
俺たちはその話を黙って聞いていた。
「──ということがあったのよ」
セヴァスは一息つくために紅茶──どこから取り出したんだ?──をカップに注ぎ口にする。
(しかしこれでレイナの態度の理由が判明した。しかし男が女に嫌われるきっかけというと……。あまりいいことは思いつかないな)
俺は事件の内容を想像し、渋い顔をする。
予想道理の事件があったのなら女性が男性を許すはずがない。──だって話を聞いているだけで女性である由美、凛姉、風華の三人が顔を青くし唇をかみしめていたのだから。
「ふん、理解できたか士郎。これが男が嫌われている理由だ」
「あ、ああ」
俺の反応を見たレイナがふんぞり返って口を開く。
「これ、いけませんよレイナ。そんな態度をとっては。──すいませんね。いまでは男の人も少しは女性に認められる時代になっていますから」
「いや、事件があったのなら仕方がないでしょう。これから信頼を得られるように努力します」
あんな話を聞いた後だからだろうか、自然と敬語になる。
「あら、そんな固い言葉遣いされなくてもいいのに」
「いえ、今の話で少し頭が冷えました。それに本来なら目上の方に敬語を使うのは当然ですから」
そこをセヴァスは指摘してくるが、どうやら簡単にはもとの言葉遣いには直せそうにない。
その後、少し間をおいてセヴァスがなにやらいいずらそうに言葉を紡ぐ。
「あと、言いづらいのだけど。その、例の事件が起きてから男は魔法を使うことができなくなったの」
「へ……?」
「原因はわかってないのだけれど救世主の行動に女神さまが怒られたっていうのがこの世界の見解よ」
「はあ」
俺はあまりのことに呆然としていた。
──だってさっき男の魔力は強いって……。
すこし目を泳がせている俺にセヴァスはあわてて言葉を付け足す。
「あ、でもね、信託では──今回、男の救世主があらわれたならば魔力とともに大いなる力が与えられる──といわれているの」
「そ、そうなんですか」
俺はそれを聞き少し安心する。
信託とは神のお告とかげだろうが、俺たちの世界と違ってここは異世界だ。信憑性がある。
──異世界まで来て魔法使えませんでした、じゃ格好付かねえからな。
それになんかおまけで能力も貰えるらしい。
「じゃあそろそろ俺たちが俺たちは元の世界に戻れるのか聞かせてほしい」
「そ、それもそうね」
こちらの世界のことは大体把握できたので、俺は一番聞きたかったことを尋ねる。
だが、なんだ? セヴァスがさっき以上にいいずらそうにしている。レイナも似たような様子だ。
まあ、だいたい言わんとするところは理解できるが
(問題はこの二人が許容できるるかどうかだな)
俺は隣に座る姉妹を見つめる。その表情は──不安に満ちている。
とくに凛姉はあまりメンタルが強くないからな。
そこに意を決したセヴァスの言葉が入り込んでくる。
「嘘をいっても仕方ないからはっきりと言うと──よくわからないの」
「そんなっ」
「う、そ……」
「「…………」」
まだ一筋の希望を持っていたのだろう。しかしそれを打ち壊された二人は顔をゆがませる。
そして、そんな二人とは対照的に俺と由美は黙って話を受け入れる。
「そんな絶望的な顔をしないでくれ。別に帰れないときまったわけではない」
「「「「え?」」」」
しかしレイナの予想外の言葉に凛姉や風華だけでなく俺や由美も疑問の声を上げる。
「魔族を滅ぼした後ほとんどの救世主が失踪するために元の世界に帰るところが確認できていないだけなんだ」
「じゃあ逆に帰ってきたやつはいるのか?」
「それは、少数だがいる」
「ならそいつらに話を聞けば──」
俺は単純な疑問投げかけていく。
これにはさすがレイナも嫌な態度をとらず答えてくれた。
多分彼女たちも重要な話だと考えているのだろう。
だが俺とレイナとの会話に急にセヴァスが入ってくる。
「もちろん聞いたのだけどね。残念だけどごまかして答えてくれなかったのよ。それにいつも戻ってくる救世主はほかにもいたはずの仲間をおいてたいてい一人か二人で帰ってくるみたいなの」
「なるほど。だからはっきりしないと?」
「ええ」
俺は由美とアイコンタクトをとる。
そこに含まれた意味はひとつ。
(これは何かややこしい問題がありそうだ)
これに限る。
そして、ひとつだけセヴァスから鍵をうけとる。
「ただね、戻ってきた救世主は口をそろえてこういうのよ──あいつらは間違えた。連れて行かれた。俺たちは救世主になりきれなかった。──って」
「それは……」
しかしその鍵には不穏な雰囲気しか感じることができなかった。
まるでもたらせられた鍵がパンドラの箱の鍵のようだ。
「──さて、お話はこれくらいにしましょうか。レイナ案内してあげて」
「はい」
セヴァスは俺たちの暗い雰囲気を打ち消すかのように話を変える。
自分のした話が不穏な話だと理解しているかのように。
(いや、しているのだろうな実際)
まあこの気づかいに乗らないわけにはいかないだろう。
それに一度冷静にになる時間が俺たちには必要だろう。
「じゃあ、お願いします」
「わかっている」
レイナが態度を最初と同じような感じに戻し俺に応対する
「さあ、ユミとリン、フウカも」
「そうね」
「はい。風華」
「……うん。お姉ちゃん」
うちの女性陣もレイナに手を差しのべられてたちあがる。
風華は呆然自失といった感じだが。
そのまま学園長室を抜けようとして──セヴァスが声をかける。
「あ、それとね。あなた達には魔法の使い方を学んでもらうために明日からここに通ってもらうから」
その声を頭にしまいながら俺は廊下に抜ける。
そして叫んだ。
「ここ女子高じゃねえかああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
後ろで笑い声が聞こえた──ような気がした。
フラグ満載の話でした。おそらく読んでる皆さんにとってもわかりやすい説明+フラグ立て回だったのではないのでしょううか。
みなさんの感想、評価待っています。
ではこのへんで。