真夜中のラジオ ~こんな怪人イヤだ!~
あるラジオの、あるコーナーに寄せられたお便り、そしてそのお便りを読んだパーソナリティさんたちの会話がもととなっています。
法的なものにふれてるんじゃね?(汗)とひやひやしながら書いてます。
なので、前触れもなしに突然消える可能性があります。
時刻は深夜。
草木も眠るといわれる丑三つ時。
雄太はやることもなしにラジオをいじっていた。
勿論、こんな時間帯にやっている番組などはない。
ザザッという耳障りな音が流れているだけである。
それでも雄太はラジオのチャンネルをいじっていた。
『・・・・・ザザッ・・・・ガー・・・ぉ・・・ィム』
一瞬、雑音が途切れかすかに人の声のようなものがラジオから流れた。
雄太は眠そうにしていた目を開き、ラジオのチャンネルを戻す。
激しい雑音の後、周波数が合ったらしくラジオはクリアな音を流し始めた。
『・・・・・ぉ・ガガッ・・・で、今日も電波ジャックしてお送りしま~す。
つうかさー、もうマジなんなのあの全身タイツの奴ら。
なんでオレらの邪魔とかするわけ?
いーじゃん別にー。
プライバシーの侵害とかで訴えれるかな?
オレらの組織ってさ、馬鹿なやつが多いからそういうのわっかんねぇんだよなー。
あいつらさーオレらのアジトとかにも来るんだぜ?
アジトぶっ壊しにくんの。
それって、住居不法侵入とかになんじゃねーの?器物損害とかー?
慰謝料ふんだくれっかな?
そういうのに詳しいやつメールくれ。
今資金不足で困ってんだよ。』
いきなり流れ出した“愚痴”に雄太は唖然とした。
使用しているチャンネルは普段使うことのない、地方局のもの。
番組表を確認してもこの時間帯に放送しているものはない。
そして、初めのほうで聞こえた“電波ジャック”という言葉。
どうやら、このラジオは誰かが電波ジャックしておこなっている非公式のもののようだ。
雄太が分析している間にも番組は続く。
『んじゃ、今週のお便り行ってみよー!
まずは、怪人名【ヒーローカッコいい!】から……。
ヒーロー応援してんならここにメール送るな!ハイ次!
んーっと……怪人名【ゴキブリ怪人っていんの?】より……おーいるぜ。
オレの後輩だ。
えーっと…〔毎回毎回ヒーローたちを倒そうとがんばっていますが、飽きないんですか?〕だと。
バッカお前。飽きる飽きないの問題じゃないの。オレたちは地球を手に入れるためにがんばってんの。
むしろオレはあのヒーローどものほうが飽きないのかって思うぜ。
毎度毎度作戦の邪魔しやがって……おかげで最近上司からいやみ言われまくりだよ。
「キミの作戦、いつも失敗しているようだが大丈夫かね?頭を使うのが苦手であれば平戦闘員になってくれてもかまわないのだよ。」
とか言いやがる。
っつーわけで、お便り募集。お題は【ヒーローの倒し方】な。
ヒーローを倒す作戦とかじゃんじゃん送ってくれ。
あて先は……郵便の場合は近くの廃工場・採石場まで。メールの場合はhttp:/*************までな。
もーそろそろ時間か。じゃーまた来週なー』
ラジオを聴き始めてから30分もたった頃。
「また来週」という言葉を最後にまたラジオはノイズを流すだけとなった。
先ほどまで、人の声が流れていたとは思えないほどの変わりように雄太は口を薄く開けて笑った。
「いい暇つぶしが出来た。」
次の週。
雄太はまたラジオのスイッチを入れた。
勿論チャンネルは地方局のもの。
『は~い今週も始まったキャンサラーのバブリータ~イム。
いまだにヒーローは倒せてねぇけどまだ倒されてもいないこのオレ、キャンサラーが今日も電波ジャックしてお送りするぜ!
って始めたはいいものの……今回は時間短めな。
最近上司からの風当たりがやばくってさ、そろそろ平戦闘員落ちしそうでやべぇんだよ。
最近ヒーローに邪魔されて作戦失敗するわ、ヒーローに戦いを挑んで負けるわで・・・もーほんっとにやんなるよ。
だってさ。
あいつらにオレの泡効かないんだよ……。
普通なら人間溶かしちゃうんだぜ?
なのにアイツらときたら……ちょっと目が見えなくなるだけですむとかマジふざけんなっての。
オレのアイディンティティつぶすんじゃねぇよ!
アイディンティティってなんなのかよくわかってねぇけどさ!
っつーわけで早速お便り!
先週募集した【ヒーローの倒し方】について結構来たからさっそく作戦に利用させてもらうぜ!
まずは、怪人名【キャンサラーって蟹なの?】から。
そうだな。オレは蟹怪人ってやつだ。
えーっと…〔ヒーローを倒すなら一番隙があるときを狙えばいい!というわけで、暗黙の了解で反則・やってはいけないこととなっている【変身中に狙う】がいいんじゃないですか?
あとは、キメ台詞言ってるときとか仲間との感動的な掛け合いのシーンのときとかに攻撃するとか。
卑怯なのが怪人なんだから文句は言われないと思いますよ……多分〕
ふ~ん……いいな、それ。
べつに卑怯とか言われてもいいしな。
確かに、コレまで律儀に待ってたおれらのほうが変じゃね?
絶好の攻撃チャンスじゃん。よし、次はそれやってみる。
…っとやっべぇ。そろそろ上司が見回りに来る時間だから今週はコレで終わり。
まだまだ【ヒーローの倒し方】は募集中な。
ま、今週中に倒しちまうかもしんねーけどな!
とりあえず、あて先は近くの採石場・廃工場まで。メールの場合はhttp:/*************までな。
じゃーまた来週』
今回は短く、15分ほどで番組は終了した。
焦ったように話していたパーソナリティはキャンサラーというらしい。
そして、キャンサラーは蟹怪人。ヒーローたちと戦っているということがわかった。
そして、どうやら上司に内緒でこっそりと電波ジャックしラジオをしているようだ。
なぜそこまでラジオにこだわるのかはわからないが、楽しみながらラジオをしているようだ。
もしかしたら、これはラジオ局の企画で本当は怪人などではなく人間がやっているのかもしれない。
もしかしたら、本当に怪人がやっていて日ごろの愚痴を語っているのかもしれない。
だが、どちらにせよこのラジオがいい暇つぶしになることは確かだ。
雄太の口端がつりあがる。
彼はラジオのコーナーに手紙を送るため、紙と鉛筆を取り出した。
次の週。
雄太はまたラジオのスイッチを入れた。
勿論、チャンネルは地方局のもの。
『はい、キャンサラーのバブリータイムの始まりな。』
先週とは違い、不機嫌そうな声で番組がスタートする。
『ったくよぉ。
せっかく先週のえっと……ナントカからもらった作戦を実行してみようと思ったのにさぁ。
あいつら変身してから戦いに来たんだぜ?ふざけんなっって感じだろ?!
しかも名乗りもしないし。
なんか無言でひたすらこっちに殴りかかってくるとかひどくね?
せっかくこっちが会話しようと気遣って「な、何者だキサマ!」とかいってやったのに何にも言わずにただ殴りかかってくるとか……マジありえねぇ。
つぅかそろそろ本格的にやべぇんだよな。
明日かあさってあたりに総攻撃しかけに行かなきゃなんねえんだよ。
負けても帰ってくるな。玉砕覚悟で行けとか上司に言われちまってさぁ……
てなわけでお前らの作戦に俺の命運がかかってる。
失敗したら来週のラジオはねぇからな。
じゃー作戦紹介。
まずは、怪人名【まぁがんばれ(笑)】から。
かっこわらいかっことじってなんだよ。
オレの事応援したいのかしたくねぇのかはっきりしろよ。
……ったく。〔毎回あわラジ楽しみに聞いてます。ヒーローを倒す作戦ですが、彼らの仲間を人質に取るのはどうですか?一応彼らはヒーローなので仲間を攻撃できないと思います。
だからそこを狙って攻撃するのはどうですか?〕
ふーん……なるほどね。
奴らの仲間を人質に、か。
でもあいつら強いしな……
戦ったりしない仲間を捕まえてみるか?
でもあいつらの住みか結構セキュリティがいいんだよな。
たぶんオレらのアジトよりも。
うーん……次行こ、次。
ハーイ次、怪人名【バカもほどほどにしとけ】から……って!んだよこの名前!
さっきからてめぇら……オレのことなめてんのか?!
お前らの住んでる街襲いに行くかんな!住所書いて送れよ!
えっと〔人質使うのはどうだ?あいつらヒーローだからな。一般人とか人質にされたら手も足も出なくなると思うぜ。〕
……また人質ネタきた。
でもヒーローたちに通用しそうだな。
よし、明日の総攻撃のときに適当にガキでも攫って人質にすっか。
じゃー明日の作戦も決まったことだし、オレは寝る。
寝不足だと力が出ねぇしな。
明日は必ずヒーローたちをボッコボコにして来週のラジオで盛大に祝ってやるぜ!
そしてオレは昇進だ!』
次の週。
雄太はラジオのスイッチを入れた。
勿論、チャンネルは地方局のもので。
しかし、ラジオは雑音を流すだけで人の声は流れてこなかった。
雄太は薄い笑みを浮かべてラジオを消した。
おまけ
「「「かんぱ~い!」」」」
ここはとある科学施設の一室。
今日も地球を守ったヒーローたちが宴会をしていた。
「いやぁ~それにしてもブルーのおかげで助かったよ!」
「そんなことありませんよ、レッド。たまたまです。」
「たまたまでもすごいわよぉ~。ブルーがあの怪人のラジオを聴いててくれたおかげでこっちは奴らの作戦がわかったんだからぁ」
「ありがとうございます、ピンク。」
「にしてもバッカだよな。ラジオで作戦しゃべるから全部こっちに筒抜け。ま、おかげでこっちは対策も立てられたし、罠にもかけられたんだけどな」
「ほんとだよな。総攻撃に出る日にちも場所も教えてくれるなんて親切な怪人サマだよ」
「まあまあ。レッドもグリーンもその辺にしておきましょう。
倒してしまった敵のことを言ってもしょうがないでしょう。」
「そーだな。俺、今回のことでブルーのこと見直したよ!
これまでは何考えてんのかわかんない胡散臭いやつだって思ってたけど意外と熱いところもあったんだな。」
「そうよぉ。人質にされそうだった女の子助けるために飛び出していくなんてぇ」
「ははは。自然と体が動いてしまっただけですよ。
それより皆さん、少し飲みすぎでは?」
「んなことないぜぇ!どんどん飲むぞぉ!」
「そうよぉ!」
「そうですか。すみませんが私は少し夜風に当たってきますね。少々酔ってしまったようです」
「おーいってこぉい」
ブルーは酔っ払ったレッドの手を軽く払いのけ、グラスを片手にテラスへとでる。
すると、それまで浮かべていた微笑みは消えうせ、冷たい瞳でつぶやいた。
「はぁ。馬鹿の相手は疲れる。
それにしても、こうもあっけなく終わるなんてな。
だから、【バカもほどほどにしとけ】って言ったのに。
ま、おかげさまであいつらの中での俺の評価は上がったからな。
ほんっとあわラジさまさまだよ。」
ブルーは薄く笑みを浮かべ、月にグラスをかざす。
「それじゃおろかな怪人サマに、乾杯。」