表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

2日目B 事情聴取(前編)

 仕方ないから、本を読もうと思う。

 ダニエル・キイス著『アルジャーノンに花束を』だ。僕は読書をあまり好まないが、エヴァンからこれを勧められてそのままに読んでいった。とても面白いし、興味深い。

 精神遅滞者であるチャーリイは、仕事の傍らに通っていた精神遅滞者専用のクラスで博士に脳手術をうけないかと勧められる……そこまで読んだところだった。


「ふうん。アルジャーノンに花束を、ね。君みたいな人間がそういうものを読むとは」

「そういうもの、とはどういう意味ですかね」

「だって、君みたいに頭が良くない風に見える人間が読書とは到底思えない」


 戸塚さん、って言ったかな。

 彼女はもう少し裏表ってもんを学ぶべきだと思う。


「読書だっていいものだよ。ココロと身体を落ち着かせるもんだ。ツマラナイ時はそれを読んでいれば大抵は暇を潰せるし」

「……ふーん、読書って面白いかね? 私は全然本なんて読まないからさー」

「それは人それぞれだと思えるよ」


 そんなもんかね、と首を傾げて戸塚さんは自分の席へと戻っていった。まったく、人の趣味くらい手を出せないものかな。別に趣味なんだからいいじゃないかって思うけど。


「――すいません、皆さん」


 一二三さんが戻ってきたのは僕らの会話からすぐのことだった。息を切らして――恐らく走ったのだろう――彼女一人で戻ってきた。


「……あれ? 一二三様、土生様は……?」


 執事さんが訊ねる。それに一二三さんは無言で首を横に振った。

 そして、言う。


「……月日が死んだ」

「は、土生さんが……?」


 はじめに言ったのは僕だった。

 しかし、一二三さんは何も答えない。


「……とりあえず、皆来てくれ」


 一二三さんの意見にしたがって、僕たちは土生さんの部屋へ向かった。

 土生さんの部屋に向かうには、そう時間はかからなかった。

 とりあえず、中を見たほうがいいだろう。

 そのために身体を強引にそちらの方へと向ける。


「あんまり見ないほうがいい」


 そう言って一二三さんは唇を舐めて言った。部屋が乾燥しているからかな。


「――とりあえず、アリバイ調査と洒落込もうか」

「ケイリー、何を言い出すんだ?」

「エヴァン、だって考えてみなよ。今、人が死んだ。つまり、この中に犯人が居るってことなんだよ」


 ケイリーの言うことは至極正しいものだった。しかし、今いる人間がそれを言ってくれるか? と考えると答えはきっとノーだろう。一般人ならば、言うに違いないが、今は鬼才や天才と呼ばれる人間ばかりが集っている。

 現に今いるメンバーは表情だけで嫌悪感が見られるくらいだ。


「……まあ、仕方ないだろう。これは殺人事件だ」


 はじめに言ったのは司さんだった。


「分かってくれて、助かる」

「……にしても、まず私にアリバイは存在しませんね。だってあのあと食事が終わり執事の小河内さんと一緒に片付けをしたあと給仕の(あがた)さんと次の日の食事について会議をしていましたから」

「一夜中ですか?」

「いえ、その日の会議で今晩はビーフシチューにしようとしまして。一日中煮込んでいたわけです。証拠は……そうですね、今火を止めて厨房にある鍋くらいでしょうか」


 となると司さんにアリバイはあるだろう。

 後で縣さんと小河内さんにも聞いておく必要があるけど。


「とりあえず、みんないろいろあるだろうけれど、食事の部屋へ。アリバイとか聞きたいこともあるし」


 ケイリーの言葉に、僕は従うこととした。

 ほかの人間もおおかたそれに従うようだった。

 大広間に戻っても誰も話すことはなかった。なんというか、皆自分の世界に入って逃げ込んでいる。そこに関しては人間らしいんだけどね。


「――私のアリバイについて話そうか」


 スーツを着た、壮年の男性が言った。

 誰だったっけか。僕はじっとその人間を見つめる。


「……ああ、一応自己紹介をしておこうか。私は鈴生九地(すずなりきゅうち)という。一応警視庁の警視正だ」


 鈴生さんはそう言って鼻を鳴らす。顔からして三十代だろう。ノンキャリアの警察官は五十代になればなんとか警視正に行けるレベルというのを聞いたことがあるから、つまりこの人も何処かの大学を卒業したに違いない。それも、日本ではなく世界で言うところの有名大学に。


「私はスタンフォード大学で遺伝子工学を専攻しておりました。……まぁ、それは今関係ないでしょう。ひとまず、私のアリバイだが、私は昨日ずっとこちらの古川さんと飲んでましたよ。同じお酒が好きということでお酒の話で盛り上がりましてね。持ち込んだお酒とつまみを司さんに作っていただいて、それでね」

「……司さん、それは?」

「ええ、本当です。確かに適当にチーズの盛り合わせなどを作ったと思います。えーと……たしか午前二時くらいに」

「その時間に起きていたと?」

「だから言ったでしょう。私は今日の夜御飯の準備をしていたと」


 確かにそのとおりだ。即ち、それにより鈴生さんのアリバイも完璧だ。

 さて、次は……。


「次は私になりそうですね。――私は古川エレンと言います。一応、情報工学に秀でてはいます。ITストラテジストの資格を所持しています」

「ITストラテジスト?」

「高度IT人材として確立した専門分野をもち、企業の経営戦略に基づいて、ビジネスモデルや企業活動における特定のプロセスについて情報技術を活用して改革・高度化・最適化するための基本戦略を策定・提案・推進する者。また、組込みシステムの企画及び開発を統括し新たな価値を実現するための基本戦略を策定・提案・推進する者ってやつだね」


 さらさらとケイリーが言ってしまった。よく解らないんだけどつまりどういうことかな。


「……つまりは、本当に必要なシステムを分析するっていうの」

「簡単に言いすぎだろ」

「エヴァン、きみが簡単に言えって」

「僕は心の中で思っただけなんだけどね」


 ひとまずこのままじゃ、進まない。

 まだ、半分も終わってないんだから。


次回更新:2013/01/25 17時

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ