2日目C 考察一(中編)
「次に、パルクール・テンシュヴェッドだ。彼女はテンシュヴェッド財閥を一代で築き上げた若き天才と言われている」
「テンシュヴェッド財閥? ……ああ、あの一年前に一世を風靡したという新型OS『アマテラス』の開発グループか。あれはちっと使いづらいんだよなあ……。一般人にならあれでいいのかもしれないけれど、私はいろいろと使うだろ? だから使いづらいったらありゃしなくてね。そうか、彼女だったのか……」
僕はパソコンにはそこまで詳しくもないから、ケイリーが言っていることがよく解らなかった。けれども、ケイリーがそれに不満を抱いていた、ってことは容易に想像できる。
ケイリーはそういう天才みたいなものだから、パソコンは人以上に用いる。すごいときなんか一時間に五千七百文字の文章をインプットさせることが出来るらしい。とてもじゃないけれど、できない。僕なんて僅か一時間に千文字打てればいい方だ。
「……んで、エヴァン、続きは?」
「あ、ああ。ごめん。話を続けるね。それで……パルクールさんだけれど、その時間電話をかけていたらしい」
「電話?」
その一単語にケイリーは眉を潜めた。そうだろうね、僕だって同じ行動を起こしたから。
そんなケイリーの予想できた表情に少しだけほくそ笑みながら、話を続ける。
「うん、衛星電話を持ち込んでいたらしい。それで、副社長と会話をしていたらしいし、その記録が残っていたよ。時刻は午前零時二十七分から、零時五十七分まで。殺されたのは四時くらいとして、殺害は不可能ではない。だけれどね、一つ疑問があるんだ」
「きみの方から疑問を持ち込むなんて珍しいね。話してよ」
「うん。あのね、土生さんの部屋は一階にあるんだよ。そこで、この屋敷の見取り図を考えると、一階の部屋は全て食堂を通らないといけないんだ。食堂の傍のホールには階段があるから、二階にあるパルクールさんの部屋から一階にある土生さんの部屋へ行くことは不可能だよ」
僕が推論を言うと、ケイリーはうんうんと頷いた。その顔はずっとパソコンの画面にクギ付けになっているわけなんだけれど、僕の内容はそこまでツマラナイものだったのだろうか? 僕には解らない。
「一二三さんは、同じく部屋で寝ていたらしいってさっき言ったんだけれど、それについての補足を。……一二三さんは参加者の中で唯一部屋を指定した人間らしいね」
「……というと?」
「一二三さんは土生さんの部屋の位置を見て、変更を求めたらしい。土生さんの部屋の隣にしてくれ、ってね」
「それでよく、その要望が通ったね?」
「そこが僕にも解らないけれどね、なんでも縣さんはそのまま許可を取ったと聞いているよ」
ふむふむ、とケイリーは呟いてパソコンに何かを打ち込む。もしかして、情報を整理しているのだろうか?
「……それで、まだあるんでしょ?」
「ああ。わかったよ。とりあえず言っていくな」
ひとまず、全員のプロフィール及びその当時のアリバイについて全てケイリーに話した。
縣紀之は経営コンサルタントとして様々な会社との契約をしているらしい。縣といえば、給仕である縣さんと同じ名字だが特に関係はないらしい。そう言うとケイリーは見るからに落ち込んでいたけれどね。残念だったね。
遠野善央は大西さんの付き添いである。その日は大西さんとともにお経を読んでいたらしいとのことなので、これも可能性は低い。
田町千穂は古川さんの付き添いである。古くから古川さんの友達らしく、そのため今回の付き添いと相成ったらしい。土生さんの死亡推定時刻では古川さんとは別行動をとっていたため、どこに行っていたのか不明だったし、今現在に至っても行方を晦ましている。古川さん曰く、部屋で寝ているというのだが、その真意は定かではない。
「……と、実はここまでなんだ」
唐突に終わりを告げると、ケイリーはこちらに振り向いた。やっと、向いてくれたよ。
「どういうことなんだい、私はちゃんと調べてくれって」
「そうだけれど、あんなことがあったあとだぞ。普通なら話を聞かせてくれやしない。聞かせてくれるだけでも有難いと思ってくれよ」
「そうか、そいつは仕方ない。それで? その残り人数は三人だけれど、『主役』側は皆聴き終わっている。で、いいんだよね?」
「そうだね、そうなる」
ケイリーは小さく微笑んだ。
まったく……気持ちはわかるけど、どうしようもない。
「……一先ず、考えをまとめようか」
そう言ってケイリーは自らのパソコンに僕を呼び寄せた。ここで、ようやくケイリーのパソコンの出番がやってきたというわけか。




