第二章 第三話
ヴォーグが剣を振ろうかと思った瞬間、さらに金髪の男が加速して、一撃。剣が届くよりも速く、懐に潜り込みわき腹を抉るように拳が放たれる。
武器を持たず無手のようだが、危険を感じ、防ぐのではなく大きく後ろに飛びのく。退きつつ、力が乗らない体勢から、隙を狙ってヴォーグが剣を振り上げる。力が入らなくても、剣が敵に触れさえすれば、たとえ防ごうとも、それは絶対の一撃となる。
だが、男は振り切った腕の力を利用し、すばやく回転、そこからコンパクトに裏拳を放ち、受け止めるのではなく、剣を横から弾き飛ばした。
判断力の高さと、単なる力押しではない技術の高さにヴォーグは感嘆する。
いったん距離を置き、再び両者は構える。今のところの二人の力量は、互角。
すると不意に横から、一人の女が中央に割って入ってきた。その瞳は閉じられている。
だがまるで、攻撃の止むその一瞬がわかっていたかのように、仲裁に入る。
「んだてめーは!」
一目見た瞬間に男の全て、女でもほとんどが確実に息をのむほどの、この世のものとは思えないほどの美女だった。
そんな女性に対しぶっきらぼうなことを言っている金髪の男は人間かどうか疑わしいと思うほどだ。
「だめ…。味方同士は…無益」
女は右手で左腕を抱きながら、感情の灯らない声でつぶやいた。
「み、味方〜?」
言葉少なげに語られた事実に、思わず上ずった変な声で金髪の男が聞き返している。
「理由…ちゃんと聞いて。集った、仲間よ」
「んだと!? だってあいつ敵のほうから来てたじゃねえか!」
「俺はやつらの注意を引くためにしただけだ。お前こそなぜ民を?」
自分がつけた敵の陣地の炎を指差して、ヴォ−グが返した。
「はぁ? あれてめえがやったのか。つかこいつらは成りすましてるだけだ。ちゃんとした敵だよ。内と外から挟み撃ちでもしようとしてたんじゃねえか?」
すでに屍となっているそれのひとつを蹴飛ばして仰向けにした。確かに、武器を持っている。
「死者を辱めるな」
蹴飛ばしたことへの怒りだった。
「んあ? ちっ、とにかくやめだ止め。やる気うせちまった」
あくびをひとつして、金髪の男は街のほうへ戻っていった。
「だから…それは無駄」
捨て台詞に対して、目は閉じたまま去っていったほうに顔を向け、女は理解できないかのように返事を返していた。
「ところで、ほかの敵は?」
「終わった、あなたたちがほとんど…後は私が」
「…お前は誰だ?」
「アーリア…ロザリア。聖王が、よんだ」
抑揚の無い声で簡潔に自己紹介する。
「…! 四人のうちの一人か。さっきの男のことは知っているか?」
「……」
本人に聞けというところだろうか、もしくは知らないのだろうか、うつむいたまま、右手で左腕を抱いて、何の反応も示さなくなった。