第二章 第一話
聖都を出発して三日、ヴォーグ達が来たときには鉱都はすでに戦いの地となっていた。そこで、敵勢力のちょうど真後ろに位置する旅人用の小屋で、闘いの準備をしていた。
「日が沈む頃に敵は侵攻を始める。そこを後ろからたたく」
「はい、わかりました。私は何をすれば?」
「俺についてくればいい、レイナはあまり近づくな。隠れていろ」
手短に、指示だけをレイナに送る。
「…はい、わかりました。でも、あなたが傷つけば、私はあなたを癒します」
「戦いの最中は、俺に近づくな。終わってから、頼む」
話が終わると、レイナは台所へ行き、作ってあった薬湯を持って隣に座った。
「飲んでください。それと、魔力を宥めますから、左腕を」
ヴォーグはいわれたままに魔力を抑える効能のある薬湯を飲みながら、左腕だけレイナのほうへ差し出した。
するとレイナは慣れた手つきで篭手をはずし、巻いてあった包帯を変えると、更に幾重にも法力に浸され魔力を遮断する布を巻く。それを胸に抱くと、法力を発揮し始めた。
法力とは、天空より授かった聖なる力といわれ、魔力は、冥界より溢れ出した混沌の力とされていた。
一概に法力と魔力は、光と闇、善と悪という二分をされているわけではなかった。ただ、あまりにも強大な魔力は危険な存在とされていた。
「最近、あなたの魔力が昂ぶっています、体は大丈夫ですか?どこか痛い所は?」
心配した面持ちでレイナが問うが、ヴォーグはただ先をにらみ、視線を合わせない。
「大丈夫だ」
それだけ返事をすると、黙々と薬湯を飲みながら、ヴォーグは、これから行く戦場をみつめていた…。その先にディートを見据え。