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第五章 第二話

「みなさん! 道を空けて! こんなんじゃここ通るまでに日が暮れちゃいますよ!」

絶え間なくやってくる人の波に、呆れた様子でヴィレンが声を上げる。

「そういや、これからどこへ行くんだ?」

「これからバレイル、我等が領主様の所へ出向いてもらいます、今回の戦いの英雄を、この目で見たい、と申しておられましたが?」

周りの雑音に負けぬよう、大声で、ヴィレンとクーゲルが受け答えをする。

「んなもんとっとと終わらせて、俺は会いたいやつがいるんだ、こいつ等さっさとどけるぞ」

「手荒なことはよしてくださいよ!」

「大丈夫だよ」

にっと歯を見せる、意地の悪そうな笑顔をして、クーゲルが手を上げる。

上空から、耳を劈くような爆音が轟く。

大衆を退けるためだけに、力の行使をしたのだ。もちろん、ほとんど音のみに爆発のエネルギーを集中し、念のためにはるか上空で爆発させ安全を図ってはいたが。

唐突に起きた巨大な爆音に、民衆が体をすくませていた。

「あなたは何でそういつも粗雑で乱暴なんですか!! みんなすくんじゃってますよ!?」

「あぁ? なんだ、聞こえねえ。とにかく今の内に抜けちまうぞ」

クーゲルの破天荒な行いに唖然とし、爆音に耳を押さえながらヴィレンが怒鳴るが、その言葉を自分も爆発の音のせいで聞こえないとでも言うように無視し、クーゲルが走り出した。

一瞬、唖然となったが、ヴォーグらも、仕方なく後を追いかける。

そして、凱旋した兵士が民を尻目に街を駆け抜けるという例を見ない暴挙が行なわれた。

しばらくの後、領主の控える城の門が視界に入る。街の規模の割には、その城は質素な規模だった。

城は必要最低限で十分、それ以上では民の生活が狭くなってしまうという、領主の考えが基にされた城だった。

その城門に、人の姿が見える。

最初は、門衛だと考えていたが、近づくにつれ、服装が門衛にそぐわない物だとわかった。

「イウバルト様!」

質素だが、気品あふれる衣装を身につけ、初老の男性が立っていた。領主としての威厳と、その胸に、領主の証である紋章をぶら下げていた。目の前にいる男が、砦都バレイルの領主その人であった。

ヴィレンらバレイルの兵が、その姿に近づき跪き、頭を深々と下げる、その姿には領主への敬慕の念がこもっていた。

「よく、かえって来てくれた、そなたらの命が、今ここにあることを私は誇りに思う、さあ、立ち上がりなさい」

「ありがとう……ございます」

ヴィレンは感極まったようで、少し、体が震えだしていた。ゆっくりと立ち上がると、領主イウバルトは、その体を深く抱擁した。

「こ……困ります! お体が汚れてしまいます!」

戦場からそのままでこの場に来ていたため、いくら鎧を脱ぎ、多少なりとも拭いてあっても、その体は人の血と泥に汚れていた。

あわてて体を退けようとするが、領主の体を押しのけるわけにも行かず、ヴィレンは四苦八苦していた。

ようやくヴィレンを開放すると、イウバルトは大きく息を吸った。

「民が、泥に汚れ、この地を生かし、血を流し、この地を守るというのに、この私が汚れずして何が領主といえようか! 私も、この地に生きるものだ、この地を守るために、ともに戦いたいものだ。……とはいったものの、所詮は口だけにしかならんがな。」

領主としての意思と、生きるものとしての誇りを、イウバルトは語った。

「それも困ります。あなたが戦場に出て、私たちは命を賭けて守りますが、もしあなたが命を落としてしまったら、誰がバレイルを導くというのですか!」

「まあ、そうだから、口だけに、なるのだがな」

そういうとイウバルトは、首を掻きながら快活な笑い声を上げた。クーゲルもつられて笑っていた。

「いや、これは失礼。騎士殿、よく、我が街を勝利に導いてくれた。私は、ここの領主、イウバルト・ヴァーライル、この地を代表して、あなた方を歓迎しましょう」

イウバルトがクーゲルに手を差し出すと、それに答えて握手をした。

「さぁ、まずはあなた方の話を聞きたい、この地に駆けつけそのまま戦闘を行なったのならさぞかしお疲れになったでしょう。食事でもしながら、ゆっくり聞かせてもらえますかな?」

「メシ! メシだよ!! 腹減った!」

急にクーガがはしゃぎだし、今まで俯き加減だったのが嘘だったかのように飛び跳ねる、しかし、しばらくしてお腹を押さえてうずくまり始めた。どうやら相当腹を空かしていたようだ。

「はっはっはっ、元気でいいな。なんでも君はよくがんばってくれたそうじゃないか。こちらも張り切って食事を振舞おう」

「よっしゃ! いい人だ!?」

目を輝かせながら、イウバルトに抱きつかんばかりにまたはしゃぎだしながら、城の中へ入ることをクーガが促していた。

「それじゃあ、早速我が城内へ案内しましょう」

「えぇっと、俺は勘弁させてもらうわ、話ならほかのやつにも聞けるだろうし、いきたいところがあるんでな。それじゃ、後はよろしく」

クーゲルは街に向かってどんどん歩き出していた。

「ここは、いい領主を持ったな」

ヴォーグが横を通り過ぎるクーゲルにそう告げる。

「当たり前だろ」

片手を上げながら、振り返らないでそのまま行ってしまった。


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