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第一章 勅命

 二人の男女が、歩いていた。そこは、石畳で舗装され、石造りの建造物が立ち並んでいる。遠くを眺めれば、その町を守護する、石と鉄で出来た巨大な城壁に刻まれた、蒼く輝く紋章を見ることが出来た。

世界で最も発達した街並みの中で、周囲に目を向ければ、家、道に沿って開けた視界の先の巨大な城壁、再び別の家、そして、街の中央に向かう道を望めば、巨大な城であるかのような、聖王の控えるラグナ聖堂を見上げることになる。

ラグナ聖堂を中心に、まるでくもの巣のように放射状に整頓された街では、約五割がこの景観となる。

その中央の巨大な通りで開催される市の中を歩く二人の内、後ろにいる、深き海のような藍の目と髪を持った女は、法衣というより喪服といったほうが正しいであろう黒き法衣を身にまとっている。その胸に光る紋章から、銀翼十字に所属する修道士ということがわかる。おそらく前にいる男、騎士の従士であろう。

そしてその前にいる騎士は、鎧を着けていない軽装だったが、軽装姿に背の得物は異様だった。その剣は人の背以上はあり、くるまれた布の隙間からちらりと見えたその刃は、いかなる金属で作られたのか、紫紺の輝きを放っていた。さらに、ローブを羽織ることにより、幾分薄れてはいるが、彼自身も異様な雰囲気を放っていた、幾戦もの戦場を駆ける兵士よりも禍々しい、血生臭い戦場そのもののような、ひどく黒い雰囲気だった。

この特異な二人が目指しているのは、この王都の中心、聖王のいるラグナ聖堂。聖王はこの世界を治める立場にあり、世界の安定を保っている痕章の総管理者でもある。

王都は、世界の人口の約八分の一が住んでいるといわれる大都市で、周りは五つの城壁に囲まれている。さまざまな場所から商人がやってきており、戦争が各地で巻き起こる現在でも、この城壁の中は人々の生の活気に満ち溢れている。

その活気をかき分け、聖堂の中に入り、聖王や一部の人にしか入ることの許されない神殿部の門の前までたどり着いた。

二人の門衛が、その異様な姿にやや不審を抱きながら槍を門の前に掲げた。

男、剣を前に掲げ、

「戦魂騎士団所属、ヴォルトカルグ・スヴィエート。今回は、聖王の謁見に仕りたく、こちらに来た」

「は、はい。了解しました! それでは中の控えの間でお待ちになってください」

戦魂騎士団という名に驚きながら、その剣に敬礼をした。その騎士団に入っているものは、一人で万の軍勢にも匹敵するといわれ、聖王直属の身なのだ。

「そちらの女の方は?」

念のため、後ろについている女性のことを質問する。

「俺の従士だ、通してくれ」

「了解しました!」

待合の間でしばらく待った後、謁見の間に男だけが招かれた。

その大きな部屋に入ると、神秘的なほどその中は静かだった。奥のほうに、聖王が王座に座り、慄然と待ち構えていた。男は聖王の前、約一零歩の所に立つと跪き、剣を横に置いた。

「ヴォルトカルグ・スヴィエート、ただいま着きました。今回の任務は?」

顔を上げて、その戦場でのみいきる苛烈な眼差しを聖王に向ける。

年老いたいまでも、聖王の威厳は変わらず、見るものによっては総毛立つほどの覇気は、なぜか今はかげりがさしているように見えた。

「まあ、そうせくでない。今回の戦争の原因、我々教団に謀反したディート・イデアールについてお前はどう思う?」

その問いに対して、大衆は、悪だと、殺すべき人間だと答えるだろう。

だが、彼、ヴォルトカルグにだけは、それは特別な意味を持っていた。

王側は、その問いで、ヴォルトカルグを図っていた。男が、こちら側につけるかどうか、生きるに値するか否かを。

「私は…」

「まあ、そう硬くなるな、それでは思ったことも口に出せんじゃろうて。思うがままに話すがいい」

慎重に言葉を紡ぎだそうとする。だが、どうしても、胸は熱くなった。

体の中で焦燥感が募る。冷静を欠いていく。

「…。俺は、俺はあいつを止めたい。理想をともに目指したい」

思い余って、置いてあった剣を握り締めてヴォーグは立ち上がる。

「やめいヴォーグ、この間で武器を持つことは聖王への離反と捉えられるぞ!熱くなるな、らしくないぞ?」

「…すみません」

頭を垂れ、剣を置いた。王の側も踏みとどまったようで、周りに一時殺気があふれたが、それもすぐ消えていた。

「しかし、離反したほうがよいのかも知れんな、気兼ねなくディートの元へつけるのだから」

「それは違う! 今のあいつは間違っている!」

止めたい、とヴォーグは断言する。聖王は、それを聞き、次なる命令を下した。

「いや、わかっておる。そこでだ、今度の任務はお前を含む四人の小隊、彼女を含めれば五人となるな。その小隊でディートを独自に追跡しながら、各地を攻略、そしてディートを捕らえてほしい」

それは、再び二人が出会ったとき、倒すべき相手となることを意味していた。

人数の少なさは、動きやすさを追求するため、そして、真の精鋭だけを集めたため。

「…! わかりました」

決意を、深く、言葉に表す。

「戦魂騎士団もほとんどいなくなってしまった。彼に倒され、あるいは彼の側についてしまった。もう、おぬしらしかおらんのじゃ。…しかし、ヴォーグには辛い思いをさせるな。本当にすまない」

今の自分の責務に耐えかねたような、疲弊した面持ちでつぶやいた。

「…いえ」

「それでは、今から鉱都ロイコールに赴いてくれ、ここを合流地点としておる。おそらく、戦いも始まっているだろう、至急頼む。なお、これ以降は諜報員を通しての連絡を取る」

「わかりました。それでは」

剣を背負い、礼をするとその場を後にした。

「ヴォルトカルグ様、聖王様はなんと?」

待合の間で待っていたヴォーグの従士、レーナスクリオ・ラエーテルが出てきたばかりのヴォーグに聞いた。

「ディート・イデアールの追跡、討伐だ」

何の感慨も無く、ただ事実だけヴォーグが述べた。

「やはり…、ディートと戦うなんて…おやめください、辛すぎます。私も…見ていられません」

「気にするな、俺は止めてみせる」

拳を硬く握って、ヴォーグは決意を確かめる。

「危険すぎます、私はあなたに死んでほしくありません」

「構うな、お前は…ただの従士だ。付いて来るだけでいい」

突き放すように言い放たれる。

「……はい、すいません。では、いつ、ここを出ますか?」

「今夜出る、目的地は鉱都ロイコールだ。おそらく四日かかる」

「わかりました、それでは支度をしておきます、ヴォルトカルグ様は宿で休んでいてください」

にっこりと会釈をし、レーナスクリオは外へ向かっていった。

「レイナ!」

少し大きめの声で、呼び止める。

すぐにレーナスクリオ、レイナは振り向く。

先ほどと変わらない笑顔がヴォーグに向けられる。

「すまないな…ありがとう」

「いえ、私は、従士ですから」

そういってまた背を向け出て行った。

二人は、どこか悲しい顔をしていた。男は、女の背に向けて、女は、誰にも見られないように。


え〜っと、評価に書き込んでもらうと、すごいうれしいです、酷評とかでも、勉強になるんで、何かしら感想があったら書いてください。

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