第四章 第五話
彼女は、助けようとしていた。
まだ、彼女が、戦場にたって間もない頃のことだった。
全ての人を救えると信じて、彼女は癒し続けていた。
その力は強く、兵からも慕われ、彼らが、戦地で死にさえしなければ、自分が必ず救うことが出来ると思っていた。
そのときも、戦で死に掛けた一人の重傷者を、救った。
そう思っていた、救ったはずだった。
だが、その兵は、自殺を、した。
治って、動けるようになった、その時、喉に刃をつきたてた。
彼女の懸命の治療により、戦地に復帰できるほどになったため、だった。
自ら戦地に行くことを拒否し、戦の恐怖が死の恐怖を凌駕し、自害をした。
彼女は、自分のせいとも思った。
死に掛けの兵を、自らが無理やり癒した。戦の恐怖を味あわせながらも、死の淵から無理やり引き戻した。
もしくは、自分が、癒しきれなければ、何か後遺症が残りさえしていて、戦場に赴くことの出来ない体だったならば、彼は死ななかったかもしれない。レイナの中に後悔ばかりが残った。
そして、戦地で兵が死ぬこと、癒したものが死ぬことは、後がたたなかった。
幾千もの人々を救おうとしたが、彼女は、全ての人々を救うことは出来なかった。
やがて彼女は自らを責め立てるように死を象徴する黒い服ばかりを着るようになった。
レイナは、願った。死に追いやることの無い様、この世から争いが潰えることを。
争いが無ければ、そのような人たちはいなくなると考えた。
願うことしか出来なかった。
その後、彼女は二人の男と出会う。その願いをかなえそうなほどに、強い輝きを持った二人に。
だが、その輝きは、二人が引き裂かれることによって、消えてしまった。
そして、それさえも、彼女は自分のせいだと、後悔した。
あのときの三人はとても心地よかった、みんなで、全てを実現しようとしていた。だけど、自分のせいで、理想が崩れ去った。もしあの二人に私が出会わなければ、理想は叶っていたかもしれなかった。三人である必要なんて、無かった、あの人たちだけだったなら、よかった。私は、要らない。
彼女は、助けようとしていた。
幾千もの人、戦場で戦う人々を。
だから彼女は、絶望した――