溺愛王子の血筋は健在です!
二作目を書いてみました。
ハッピーエンド確約です。
お楽しみいただけたら嬉しいです。
当主の執務室に続く廊下を、歳若い侍女を伴った少女が歩いていた。
白金の髪はツヤツヤとしてゆるく波打っているが、ただ梳っただけでなんの飾り気もない。白い肌に桃色の頬、そこに飴色に近い金の瞳が輝き、着ているドレスは非常に質素でありながら溢れるような気品がある。幼いながら将来美女になることは間違いないと思わせる容姿であった。多少つり目なのはご愛嬌である。
その少女、アリステア・ローレンツは五歳にして歴史、数学、地学、農学などの知識も順調に蓄え、淑女としてのマナー教育も順調。さらには筆頭公爵家の娘でもあるため、ゆくゆくは王太子妃に…と誰もが思う逸材であった。
……この日までは。
執務室の前に来ると、侍女が扉をノックした。
「入れ」の声を聞き扉を開ける。アリステアはありがとうと声をかけ、執務室の扉の前で待つように伝えた。
「お父さま、執務中失礼いたします」
まだ幼さの残る口調でアリステアが声を掛けると、ローレンツ公爵家当主レオンハルトは破顔して娘を迎え入れた。
「アリステア。会えて嬉しいよ! 今日はどうしたんだい? 新しいドレスでも?」
と、レオンハルトはニコニコして娘に近づく。
執務室には、レオンハルトの補佐官であるコンラッドがいる。アリステアは一度コンラッドに視線を向けたが、部屋を出ていく様子はない。少し考え込むようにした後ジッと父の顔を見るとこう切り出した。
「お父さま。わたくし、お願いがあるのです」
アリステアは幼い顔を精一杯キリリと引き締める。
「わたくし、どうしても結婚したくありませんの。というか、結婚はしたいのですが……今の立場では政略であれ、恋愛であれ、高位貴族にしか嫁げませんでしょ?
でも、それでは理想の方と結婚することは叶いませんし、嫌悪感で子供を作ることすら考えられませんわ。
とはいえ、わたくしは筆頭公爵家の娘ですから貴族の義務は果たさねばなりません。そこで、その義務はどのように発生するのか考えてみたのです。
貴族としての恩恵を受けずに責務だけを果たせとは言い難いではないかと……。
ですから、公爵家から籍を抜いていただき平民になったのち、これまで五年間にわたくしにかかった費用、つまり恩恵の分を換算してお支払いしていくことで公爵家に生まれた者の義務を免除していただきたいのです。
あ、もちろんその費用にはわたくしを政略の駒として利用するはずだった損失も加えていただいて構いませんわ」
アリステアは真剣に父に訴えたが、レオンハルトは呆然として青ざめた顔をひくつかせ一言も喋らない。
誰も言葉を発しないので、空気が重くなってゆく。
アリステアはさらに言い募った。
「貴族の娘がどうやって支払うのかとお疑いかもしれませんが、わたくし実は前世の記憶がありますの。前世では別の世界で暮らしておりまして、そこはこちらより文明が著しく発展していたのですわ。
魔法はありませんけれど、科学というものの力で非常に文明的な生活ができておりましたのよ。
こちらにはない知識が沢山ございますから、それを利用して事業を興し、財産を作って公爵家にお支払いいたしますわ」
そして渾身のドヤ顔でレオンハルトを見据えた。
主人の様子から直ぐに言葉が出ないだろうことを察したコンラッドは、控えめながら凛とした口調でレオンハルトに進言した。
「閣下、お嬢様のお話はここだけで済ませるようなものではないと思われます。ご家族全員で話し合われてはいかがでしょう?」
その声で我に返ったレオンハルトは慌てて「それがいい! 夫人を……妻を呼んでくれ! フィロスも今日は家に居たな? フィロスも呼んで家族会議だ!」と叫びながら立ち上がると、アリステアの前で跪きしっかりと目を合わせた。
「アリステア。どうやらとても大事な話のようだ。前世があるという人はこれまでにも聞いたことがあるし、婚姻のことも……私にはもちろん当主として一存で決定できる権限はあるが、可愛い娘の一生を左右する問題を家族抜きで決めたくはない。これからお母さまと兄も交えてじっくり話そう。それでいいか?」
レオンハルトの真剣な声音に少しだけ慄きながらアリステアは頷く。
それを見てレオンハルトは立ち上がり、コンラッドにいくつか指示をすると、アリステアを抱き上げ執務室を後にした。
談話室に入ると、お茶会の招待状を書いていて忙しかったであろう母と、アリステアの十歳上の兄であるフィロスは困惑した表情を浮かべ、ソファに座っている。
アリステアは順繰りに家族の顔を見つめた。
……ああ、やっぱり。
——ここは乙女ゲームの世界そっくりなんだわ。
母、エルシア・ローレンツ。
艶やかな銀髪と、紫水晶の瞳を持つ公爵夫人。
社交界では『白薔薇の貴婦人』などと呼ばれているらしいが、アリステアにとっては優しくて少々心配性な母親である。とにかく美人でいい匂いがする。異論は認めない。
兄、フィロス・ローレンツ。
十歳年上の公爵家嫡男。
父譲りの白金の髪と母譲りの紫の瞳を持ち、十五歳にしてすでに次期公爵として王宮にも出入りしていて、王太子の側近候補。父母の優しげな容姿をそのまま受け継ぎ、その腹黒い性格がまったく見えない美人である。やっぱり異論は認めない。
父、レオンハルト・ローレンツ。
白金の髪に金色の瞳。背中の真ん中くらいまでのロングヘアーをローポニーにし、妻の瞳の色である紫のリボンで結んでいる。童顔で線の細い美形だが、実は細マッチョで剣術も体術もそこらの騎士と変わらないくらいできる。背が高く、手も大きく、脚も長く、前世だったら許せないくらいの美人。異論は……うん、まあ認めたくない。実は元第二王子。国王陛下の弟にあたる。臣籍降下して公爵位を賜った。
そして自分。
アリステア・ローレンツ。
少し癖のある白金の髪に、飴色に近い金の瞳。
名前も、家族構成も、この容姿も。
全部、全部。前世で妹に勧められて遊んだ乙女ゲーム『宵闇の乙女と秘密の花園』に登場する、公爵令嬢アリステアとほとんど同じだ。
――いや、ひどくない?
ゲームに登場するアリステア・ローレンツは、王太子の婚約者候補として幼少期から王妃教育を受け、気位が高く、主人公を敵視し、最後には数々の嫌がらせが露見して公爵家が没落し娼館落ちする、いわゆるテンプレ悪役令嬢である。
いや、そりゃ二次元の作り物だからアレですけど、現実にそのエンドなくない? やばくない? 死なないからいいとかでもなくない?
……もっとも、この世界が本当にゲームそのものなのかは分からない。
似ているだけの別の世界かもしれない。
そもそもゲームでは描写されなかった出来事も山ほどあるし、父も母も兄も、画面越しに見ていた人物よりずっと人間らしい。
だからアリステアは、ゲームの筋書きを盲目的に信じるつもりなどなかった。
とは言え、ただ一つだけ絶対に避けたいことがある。
――王太子妃だけは、嫌。
この国の王には、子供が一人しかいない。それが乙女ゲームのメインヒーローで王太子フィルバートだ。
王女もいなければ、第二王子も第三王子もいない。
現在の王統において、次代へ王冠を繋ぐ直系の存在は彼ただ一人である。わたくしとお兄さまは従兄妹に当たるけど、王位継承権はない。もちろん、何かあれば担ぎ出される可能性はゼロじゃないけど、王位争いに巻き込まれることを恐れたお父さまが、臣籍降下の際に継承権を放棄していた。
ゆえに、その妻となる女性に求められるものは重い。
王妃として国を支える能力だの、諸侯をまとめる家格だの、ね。
そして何より――次代の王統を残すこと。
前世の感覚を持つアリステアにとって、それは到底受け入れられるものではなかった。
好きでもない相手と国家のために結婚して。
国家のために子供を産んで。
いや、子供が産まれたらいいけど、できなかったら側妃だの愛妾だのを持たなきゃいけないわけで……。
誰かと深い仲になったうえで、その人を共有するとか無理過ぎる。
相手がどれほど美男子であろうと、どれほど人格者であろうと関係ない。
嫌なものは嫌なのだ。だからこその、お父さまへの提案だったが、認めてもらえるだろうか。
「……アリステア?」
父の声で現実に引き戻された。母は困惑を隠せない顔で娘を見ている。
「あなたが……公爵家を出たいというのは、本当なの?」
「はい、お母さま」
「どうして?」
「ですから、結婚相手を自分で決めたいからですわ」
「……」
母が何かを考え込むように黙り込んだ。兄は絶句している。父に至っては、執務室からここまで来る間に多少持ち直したはずなのに、また顔色が悪くなっていた。
しばらく沈黙したあと、フィロスが恐る恐る口を開いた。
「アリステア」
「はい、お兄さま」
「ひとつ確認したい」
「なんでしょう?」
「お前が言っている『高位貴族との結婚が嫌だ』という話だが……」
フィロスは一度父を見る。父が露骨に目を逸らし、兄は眉間を押さえた。
「……王太子殿下との婚姻も含めて、嫌だという意味か?」
「もちろんですわ。むしろ、一夫多妻が許される王族なんて以ての外ですわね」
父が天を仰ぎ、母は「あー……」という顔をしてレオンハルトをチラ見する。レオンハルトはそれに気がつき「僕は一途だから!」と何やら言い訳し始めた。
そんなカオスな様子に、兄は苦いものでも飲み込んだような顔をしている。
「……そう、か」と、気を取り直した父が先ほどよりは落ち着いた口調で相槌を打った。
「……一応聞くが、殿下がお嫌いなのか?」
「お会いしたこともほとんどございませんもの。好きでも嫌いでもありませんわ」
「では何故」
「ですから、王族や高位貴族に嫁ぐのが嫌なのです」
アリステアは胸を張った。
「そのうえ、王太子殿下は陛下の唯一のお子でしょう? つまり殿下のお妃になるということは、ほぼ確実に将来の王妃ですわ」
「……そうだな」
「そして、お世継ぎを産むことを猛烈に期待されますわよね?」
十五歳の兄が盛大に咳き込んだ。
「ア、アリステア!」
「重要な問題ですわ、お兄さま」
「五歳児が口にする問題ではない!」
「しかし避けては通れませんでしょう?」
「……っ、それはそうだが!」
「フィロス」
父が低い声で止めた。レオンハルトは先ほどまでの狼狽を押し込み、当主らしい顔を取り戻している。
「アリステアの言う通りだ。年齢はともかく、話している内容そのものは間違っていない。だが、どこからそんな話を聞いた? ……その、子供が……とか……」
モニョモニョと話すお父さまに、キッパリハッキリと告げる。
「もちろん、前世の記憶があるからですわ。こう見えて、前世ではもっと大人でしたもの」
「……なるほどな。わかった。ならばきちんと説明しよう。いいか、王太子殿下は、陛下の唯一の御子だ。そして現状、王位を継ぐべき直系の方は殿下以外にいらっしゃらない」
そこでレオンハルトは深く息を吐いた。
「だからこそ問題なのだ」
アリステアは首を傾げた。
「何がですの?」
父はしばらく答えなかった。嫌な予感がする。ゲームの記憶にない話だ。もしかして、知らない裏事情がある? 前世では大人だったけど、この世界では五年分の知識しかない。何かあるの?
「……アリステア」
「はい」
「お前は、自分が筆頭公爵家の娘だから、将来王太子殿下の婚約者候補になるかもしれない。そう考えているのだな?」
「はい。その可能性が非常に高いと考えております」
「違う」
「……はい?」
「候補ではない」
アリステアは瞬きをした。
レオンハルトは、娘に死刑宣告でもするかのような声音で告げた。
「陛下と王妃陛下は、お前を将来の王太子妃として迎えたいと、すでに私へ非公式に打診なさっている」
「…………」
「正式な婚約ではない。年齢も幼いからな。だが両陛下のご意向は極めて強い。王家の血をあまり薄めたくないとのことだ。
十五代前までは当たり前に三親等以内の近親婚が行われていたが、それによって病弱な子が産まれやすくなったんだ。そのため、他国の血筋や、一度も王家の血が混じっていない貴族家との婚姻が推奨されていたんだ。
ところが、そのせいか王家の血筋と呼べるか怪しいって話になった。だから近年では三親等よりもう少し離れた縁戚などから相手を選んでいる。お前のように、高位の貴族家の令嬢で殿下の従妹という関係性はもってこいというわけだ」
「…………」
「そして私は――」
父が目を逸らした。
「――前向きに検討すると答えてしまった」
「…………は?」
「いや、だってな? アリステアは絵本の王子様好きだろう? 王太子殿下は兄上に似て、とても美形なんだよ。だから……嬉しいかと思って……」
その後に小さく「もちろん、正式になる前にアリステアの気持ちを確認するつもりだったよ?」と付け足した。
アリステアは無言で父を見つめた。
父も娘を見る。
「お父さま……」
「はい」
公爵が娘に敬語になり、背筋を正す。
「今すぐ、平民に、してくださいませ!!」
「待ってくれアリステア!」
「冗談じゃありませんわ! 絶対に嫌です! お金ならいくらでも払います! 公爵家に産まれた義務の分完全に補填します!」
すると、兄が不憫な子を見るような目を向けてきた。「アリステア、平民になっても君の血筋は変わらないぞ」
「っ! 分かっております! でも貴賤結婚はできませんもの!」
——だから、平民になる!
アリステアの剣幕に、ローレンツ公爵邸の談話室から、王都中に響きそうなほど悲痛な公爵の叫び声が上がった。
*****
——それから十年後、アリステアは海の上にいた。
「アリー。そろそろ船室に戻らないと、風邪をひくよ」
ドロドロに甘い声で囁く美少年が、アリステアをふわりと抱きしめる。
父であるレオンハルトに似た白金の髪に、わたくしと似た金の瞳。二歳しか違わないのに、しっかりとした体躯を紺色の騎士服で引き立てている。この騎士服もお忍びの名残りである。
母の言葉を思い出す。
「……残念だけど、王家の血はね……」
——狙ったものを逃がさない。だからお母さまも捕まってしまったの。
「もちろん、今は幸せよ……」
そこで言葉を区切り、ふわりと微笑んだ。
——どうしても逃げたくなったら言いなさい。
母の真剣な顔を見て、心を新たにしていた……はずだった……。
「アリー? どうしたの?」
きゅるん、と擬音のつきそうな上目遣いでわたくしの顔を覗き込む少年。彼こそ、くだんの王太子である。
「何でもありません……」
「かーわいいなぁ。なんで拗ねてるの?」
「拗ねてないです!」
「うんうん。ま、そういうことにしておくよ」
十年前のあの日から、顔合わせもぶっちぎり、避けに避け、なんやかんやとありながらも婚約だけは保留にして、公爵家を放逐してもらえない苛立ちを抱えながらわたくしに甘い家族を動かして十歳で商会を立ち上げ、自ら市井で数々の発明品を売り捌き大金を稼ぎ、商会に入ってきた護衛騎士見習いの平民の少年と恋に落ち、いよいよ公爵家を出る決意をしていたのだ。
ところが、その恋人が実は変装した王太子殿下で、外堀を埋めまくったうえで、突如現れた乙女ゲームのヒロイン(転移してきた日本の女子高生)は聖女認定されて殿下との婚姻の噂が流れるはずなのに、どんな手を使ったのかは不明だけど今は聖女は神殿に引きこもってる。さらに婚姻可能な十五歳になった途端、強引にもわたくしとの婚姻を宣言するなんて……思わないじゃないのよぅ……。
思わず澱んだ目で殿下を見ていると、何も言わないのをいいことにあちこちにキスしながらさりげなくボディタッチしてくる。
王都の大聖堂で豪華な婚姻式を挙げ、しっかり初夜を済ませ、外交のための隣国へ旅立っているところである。夫婦のスキンシップと言えなくもないが、ベタベタし過ぎじゃないだろうか。
ゲームの本編はすでに始まっている。宵闇の乙女は神殿の奥に閉じ籠ってるし、ゲームではヒロインとヒーロー、それに攻略対象との愛を育む場所だった秘密の花園は殿下がわたくしと過ごすために在るのでヒロインどころかわたくしと殿下以外は立入禁止。
——こんなはずじゃなかったのに……。
わたくしを溺愛する恋人……殿下は、わたくしの懸念を全て払拭してしまった。議会を通し王族も一夫一妻制に変更、世継ぎが生まれない場合には縁戚からの養子縁組を認めること、かと言って過度な世継ぎの期待を背負わせないこと、王妃の公務に支障が出ない程度には商会の仕事も続けて良いこと……数々の難題をクリアして、身分を明かしてプロポーズされた時には、驚きを通り越して死ぬかと思った。
でも、結局惚れた弱みというか……恋人と結ばれたかったし、愛する人と家族を作りたいという気持ちに応えてくれた。
それでも、長年の計画が徒労に終わった悲しみと、これからの未来に起こるであろうトラブルを、今日は噛み締めて海を眺めるのであった。
*****
「王太子殿下」
執務の合間に愛しの妻の様子を見に行こうと急ぎ足で移動していたら、叔父上に呼び止められた。
「叔父上、アリーのところに寄ってきたの?」
「ええ」
そう答えつつ礼を執ろうとする叔父上を制して歩きを促す。
アリーはいま、私の子を孕っている。さすがに四人目ともなると慣れたものだが、出産は命懸けだ。少しでも顔を出し、困ったことがないか確認し、子供たちの様子を見ることが日課になっていた。
「アリステアが今度は絶対に女の子だと言うものですから、可愛い産着を差し入れてくれ、と妻が言いましてね」
そう言って笑う叔父の顔は、私にも似ている。血縁者だから当然ではあるが、その中身の腹黒さまでは似なくて良かったと安心しているところだ。
「アリーは三人も息子が続いたから、娘も欲しがってるんだよね。まあ無事に産まれたらどちらでもいいんだけど……そういえば、フィロスのところも奥方が懐妊だってね。おめでとう」
「ありがとうございます。アリステアが早くに結婚して毎年のように子を産むので、すっかりおじいちゃん業が当たり前になりましたが、やはり息子にも子が産まれるのは嬉しいものですね」
叔父が目を細め、何かを思い出すように窓の外を見上げた。
私が七歳の時には、アリステアとの婚約が内々に決まっていたが、本人がとても嫌がっているとのことでその話は保留となっていた。
私も拒絶されたようで傷ついたし、若干苛立ちもした。だからどんな女か見てやろう、あわよくば意地悪してやろう、なんて馬鹿なことを考えていた。
とはいえ、公爵家に行ってもいつも不在。中々会うことがなかったが、私が十二の歳にアリステアが商会を立ち上げたとの情報を入手した。早速王家の宝物庫にあった【色変えのブレスレット】で茶髪、茶目に変装。父上には見聞を広げたいと名分を掲げ、母上にはアリステアとの交流を持ちたいと押し通し、アリステアの商会に護衛騎士見習いとして週に一度通うことにした。
彼女は一言でいうと、夜空に大きく咲く炎の花のようだった。暗闇の中で、月よりも明るく、遠くまで照らし、その美しさで魅了する光の花。
私は最初の思惑も忘れて、すっかり魅了されてしまった。そして絶対に手に入れると決めて外堀を埋めて行った。
平民という触れ込みだったにも関わらず、彼女が私を好きだと泣きながら訴えてきた日、私は天にも昇る心地で何度も何度も口付けて抱きしめた。
彼女を不幸にしたくなくて、徹底的に彼女が悲しむような制度と慣習を変更しまくった。
そのうえ、突如異世界から来たという不思議な女が騎士団に保護されたので仕方なく会いに行ったところ、「乙女ゲームのヒロインとか怖くてやってらんない! あたしの推しは神官候補のミシェルなのに〜!」などと気の触れたようなことばかり言うので、あの手この手で丸め込んだ大神官に聖女認定させて神殿へ送り込んだところ、ミシェルを部屋に引き込んで出てこなくなったという。本当にどうでもいいけど。
さらに、己の身分を明かしてアリステアにプロポーズ。平民を装い近づいたこともあり、嫌われたらどうしよう、なんてアレコレ考えていたけれど、彼女はキッパリと言った。
「あなたがどこの誰でも愛してることに変わりはないわ」
そして私だけを見つめ、一緒に歩いてくれると約束してくれたのだった。
きっと彼女は今でもこう思ってるだろう。
——どうしてこうなった!?




