8.再会
その日、シオン様は会議に出ていた。
私は午前中に書類処理を片付けてしまったので、午後は資料室に向かうことにした。
来月の陳情に備えて、過去の類似案件を洗い出しておきたかったのだ。
資料室は王城の西棟にある。執務室からは少し距離があった。
廊下を歩いていると、前方に人影が見えた。
見知らぬ役人と、二人の人物。
私の足が止まった。
「……」
体が言うことを聞かなかった。
役人に案内されていたのは、見覚えのある顔だった。
アルベルト。元婚約者。
そして隣には、エリー。私の義妹。
二人は笑いながら何か話していた。
仲睦まじく、当然のように並んで。
アルベルトがこちらに気づいた。
一瞬、表情が固まった。それからすぐに、何でもない顔になった。
「……セレス」
「……お久しぶりです」
エリーがこちらを見た。そして、口元に笑みを浮かべた。
「まあ、お義姉様。王城にいらっしゃるんですね」
「ええ」
「働いていらっしゃるの?すごいですわ」
すごい、という言葉の中に棘があった。言い方でわかる。
アルベルトが周囲を見回した。
「王城勤務とは聞いていたが……どういう部署だ?」
答える前に義妹がくすりと笑った。
「どうせ書類を運んだりするお仕事ですわ。目立たないお仕事」
何も言わなかった。
言い返す気力がなかった。
アルベルトが続けた。
「まあ、お前には合っているんじゃないか。」
「……そうですね」
「相変わらずだな」
アルベルトは少し呆れたように息をついた。
「昔から思っていたんだが、お前と話していても楽しくなかった。手紙もそうだ。読んでいて少しも面白くなかった」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で、何かがひやりとした。
「勉強の話ばかりで、愛想というものがない。その点、彼女は違う」
隣のエリーがアルベルトの腕に寄り添った。
「手紙は面白い。話していて楽しい。お前とは比べ物にならない」
私は無言でいた。
愛想がない。楽しくなかった。
わかっていた。わかっていたはずだった。
それでも。
報われると思っていた。
手紙を書いた。読んでもらえていると思っていた。
交流した。積み重なっていると思っていた。
努力した。いつかきっと、と思っていた。
全部、ただの独りよがりだったのだ。
「……ご期待に沿えず、申し訳ありませんでした」
頭を下げた。
「そういうところだ」
アルベルトが吐き捨てるように言った。
「可愛げというものがない。泣いたりすれば多少可愛げがあるものを」
可愛げ。
その言葉が、静かに刺さった。
エリーがアルベルトに寄り添ったまま、こちらを見ていた。笑っていた。声には出さず、ただ笑っていた。
私は顔を上げた。
「失礼します」
それだけ言って、踵を返した。
資料室へ行く用事はどこかへ消えていた。
気づいたら執務室の前に立っていた。
扉を開ける。シオン様はまだ戻っていなかった。
静かな部屋だった。
椅子に座って、書類を広げた。
文字を目で追う。内容が頭に入ってこない。
もう一度、最初から読む。
私は一体、何をしていたのだろう。
あの手紙も、交流も、全部、何も届いていなかったのだ。
書類を持つ手に、少しだけ力が入った。




