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6.デート

「ねえセレス。社交パーティーに出ない?」

「お断りします」


これは持ち帰って考えなくていい問いだとすぐ理解した。

社交パーティー?出るわけがない。

しかしシオン様は続ける


「父親の友人主催でね、僕も出ろと父から命じられてしまったんだよ。

1人で行くのは寂しいし、セレスをエスコートさせて欲しいと思って」

「お断りします」

「どうしてもダメ?」

「お断りします」


シオン様は困ったなぁ、と笑った。

相変わらずどんな表情でも絵になる顔だ。


「シオン様ならエスコートをお願いできる方はいくらでもいらっしゃるでしょう。わざわざ私でなくても」

そう。私でなくてもいいはずだ。

もうずっと社交界に顔を出していない私よりもふさわしい令嬢はそこら中にいる。

そもそもシオン様であれば令嬢から寄ってくるだろう。


「セレスがいいんだけどなぁ」

シオン様は再び困ったように笑った。


「社交界は嫌いです」

私はキッパリと言い切った。


社交界などもう御免だ。

思い出すのは義妹ことエリーと元婚約者ことアルベルトが仲睦まじく会場を歩いていた姿。

エリーは流行りのドレスを身に纏っていた。

後に知ったが、アルベルトからのプレゼントだったらしい。

いつまで経ってもアルベルトが迎えにこないと思ったらこれだ。


目が合ったら速攻で逸らされ、当然話しかけにも来ず。

煌めくシャンデリアの元で1人何もできず佇む自分。


そしてその数日後に婚約解消。

ああ、忌々しい。


流石に顔に出てたのか、シオン様は仕方ないか、と諦めたようだった。

私は再び書類に向き直る。

ようやくまともに仕事ができる。


と思いきや、シオン様は再び顔を上げた。

「社交界じゃなければ付き合ってくれるってこと?」

「は?」

「だって、社交界が嫌いだから断ったんでしょ?

じゃあ社交界以外ならエスコートさせてくれるってことだよね」


シオン様はニコニコとしている。

「セレス、デートしよう。」

「でっ……!?」

思わず素っ頓狂な声が出た。


自分でも驚いた。こんな声が自分から出るとは思っていなかった。

シオン様はいっそう嬉しそうに笑う。

私はぐっと表情を引き締めた。つい気が緩んだ。社交界の話を思い出していたせいだ。

「お断りします」

「どうして?社交界じゃないよ?」

「そもそも何故私と出かけたがるのですか」


シオン様は穏やかに続ける。

「セレスが何を好きで何を楽しいと思うのか、知りたいなと思って」

「……知ってどうするんですか」

「どうもしないよ。ただ知りたいだけ」


ただ知りたいだけ。

なんと答えれば正解なのかわからなかった。


シオン様の言葉にはいつもそういうところがある。損得も、下心も、どこにあるのかわからない。

だから信用できない。


「……お気持ちはわかりました」

私は慎重に言葉を選ぶ。

「ですが私はシオン様のことが」

「あ、嫌いとか言わないでね。傷つくから」

「……っ、信用できません」


シオン様は目を瞬いた。

「信用できない?」

「ええ。飄々としていて、何を考えているかわからない方です」


我ながら冷たい言い方だとは思う。

しかしシオン様は傷ついた様子もなく、ふむ、と顎に手を当てた。

「じゃあ信用してもらえるように努力するから、その機会をください」

「……は?」

「だからデートしよう。セレスが僕を信用できるかどうか確かめる場だと思ってくれていい」


なぜそういう理屈になるのか。

「お断りし」

「一回だけ。一回だめだったらもう誘わない」

「…………」

「一回だけ」


シオン様は真顔で繰り返した。

珍しい。あの飄々とした笑みが消えている。

私は書類に目を落とした。


思考を整理する。

一回だけ。それで諦めてもらえるならば。


正直このところシオン様のアタックに割かれる思考の容量が馬鹿にならない。

仕事に集中したい。

一回だけのデートで、それ以降は何もしてこなくなるならメリットは大きい。

「……一回だけですよ」


シオン様は、ぱっと顔を輝かせた。

思わず目を逸らしてしまった。

書類に集中する。集中する。


「どこ行きたい?セレスの好きなところでいいよ」

「……シオン様が決めてください」

「わかった。期待してて」


シオン様は笑顔で書類に向き直った。

部屋に羽ペンの音だけが戻る。


私は密かに息をついた。


一回だけ。一回付き合えば終わる。

そのはずだ。

そのはずなのに、なぜだろう。


どこへ行くのだろう、とほんの少しだけ思ってしまった。


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