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ないのんショートショーツ2025奇想   作者: あべ無野


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テーマ 「背中」 と、いえば。やっぱりしんみり? と書いてみた2話

壱  一人と一匹


 きっかけは何だったやら。私ツグミと夫タクロウは大きな声で口げんか。

 だんだんだーん、と足音も荒くリビングを横切る。白い日差したっぷりの窓際で、真っ白なペルシャのシャールが目を上げた。

 胡散臭そうに青い瞳が私たちを見る。大きなあくびを一つ。

 タクロウの足元へ行き、体中をこすりつける。

 それから私の方へ来た。頭を足にすりすりする。それからすっと離れた。

 窓辺に戻る。よく陽の当たる場所だ。ちらっとだけ私たちを見た。そしてふいっと背を向ける。

 ……何をやってんの。落ち着いて日向ぼっこでもしたら?

 シャール流の仲裁だ。言い合いを始めたら、いつもこうする。

 可愛いニャンコの丸い背中が、何気なくこちらを伺う。これには勝てない。

「ツグミさん、コーヒーでも淹れましょうか?」

 タクロウが言った。こちらも、彼なりの仲直りの方法だ。なぜか敬語になる。そして飲み物や軽いお菓子を用意してくれるのだ。

 結婚して二年たっても変わらない。

「はい、タクロウさん。お願いします」

 私たちはソファに並んで座った。コーヒーカップが温かい。タクロウに寄りかかった。

「ごめんね、言い過ぎた。ちょっとナーバスになってたかも」

 うんうん、と彼が頷く。

「ツグミちゃん、今日は出かけるんだよね? 一緒に行こうか?」

「お願い」

 後ろ姿を見せたまま、シャールがまたあくびをした。


 車で三十分ほど走る。私の実家だ。昔ながらの住宅街の中にある。古い建売住宅とはいえ、今は人気のある居住エリアだ。庭付きの和風建築一戸建ては、もう近所でも珍しいかもしれない。

「ただいま」

 迎える声はない。

 私は家じゅうの窓を開けた。生ぬるい風が通り抜ける。持ち帰る物はないか確認だ。

 ふと足元に気配を感じた。

 白い毛並みがゆったりと通り過ぎる。

 猫のシロだ。父が飼っていたミックスの男の子。母が早くに亡くなった後、お迎えした子だ。父を大好きで、ずっと後を付いて歩いていたものだ。

 居間を抜けた。広い和室に出る。縁側の先はささやかな庭だ。今は、膝の丈を越えるほど草が茂る。

 縁側に人影が見えた。白髪頭だ。お気に入りの茶色のベスト。あぐらをかいて庭を見ている。シロが隣に座った。

 ほの暗い座敷からは、まるで彼ら自身が真っ白に光っているようだ。二人の後ろ姿から漂う雰囲気はとても穏やかで平和だ。

 私はどれくらい見ていたのか。

 タクロウの声ではっとする。

「大丈夫? どうした?」

「…なんでもないよ。そろそろ戸締りしようか」

「写真は?」

「もういっぱい撮ったの」

 大きな箪笥などは置きっぱなしだが、中身は既に殆ど処分済みだ。

 縁側には、西に傾いた太陽が反射するだけ。

 父とシロはただの幻影だ。分かっている。まだここに居て欲しい…そう願う私が見た幻だ。

 タクロウと二人で座敷の中央に立つ。ぐるりと部屋中を見渡した。茶色の天井の格子、柱の落書き、けば立った畳…。

 もう住む者はいない。かつて確かにあった父との暮らしを想った。タクロウは何も言わない。大きな背中におでこを当てた。

 私の心を温かく癒してくれるのは、一人と一匹。昔も今も。


 ここは、明日から取り壊しが始まる。




弐  無言の背中で


 せっかくのデートだったのに。さっきまで並んでいた彼は、何歩か前。人込みを縫うような感じで急ぎ足。

 無言の背中。私は一生懸命追いかける。

 彼の地雷を踏んじゃったみたい。楽しくおしゃべりしていたつもりだったのに。

 何かな。どこかな。

 車を買う話だっけ。国産か、外国車がどうこうって言ってた?

 支払いは一括で? ローンで? そんな話しかしていない。

 どこに怒るの?

 でも一度へそを曲げると、いつもこうなる。

 無言。ムシ。付き合い始めて何回目かな。

 私は小走りになって、ようやく追いついた。整った横顔なのに唇の端が下がっている。とても不機嫌そう。まっすぐ前を見ているだけの瞳に声をかける。

「ねえ、どうしたの? 怒っている?」

 彼の肩がちょっとだけ動いた。速足のままだ。私を見もしないで怒鳴るように答えた。

「それが分からないって事は、反省もしてないって事だ!」

「え…そんな失礼な事を言ったっけ?」

「自覚が無いな。ローンは大変だって言ったじゃないか! 俺の給料を馬鹿にしているんだな。謝れ」

 はい? 

 彼はもっと足を速めた。流行りのジャケットの背中はかっこいい。

 しかし。

 ふと私は止まった。

 絶対に私が追いかけて来ているって信じている? 何で?

 確かにイケメン。背も高い。大会社で勤務。かっこよさに魅かれて私から告白した。

 でもだがしかし。ちょっとした言葉に、すぐ揚げ足取りみたいな怒り方をする。

 そもそも、無視した挙句に謝らせるようなオトコって私に必要?

「ふんっ!」

 彼と逆方向に歩き始める。私から背中を向けてやる。

 もちろん、無言でね。

 どこかで振り返った彼は、そこに私がいないのに初めて気が付くでしょう。

 その焦りっぷりを想像すると、笑いがこみ上げた。そして、鼻の奥がちょっとだけツンとした。

お読みいただきありがとうございます。

引き続き 他サイト投稿済のショートショートです。

なんかこの時は まじめに…というか切ない系で書いていました。

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