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ないのんショートショーツ2025奇想   作者: あべ無野


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テーマ 「伝説」 こうやって新たな伝説が作られる。。かも

天女が淵伝説

 

 僕と彼女はドライブ旅行にやって来た。初のお泊りデートは、道が空いているであろう平日を選んだ。

 きれいな森の中のペンションに予約済だ。宿に着いたのは昼過ぎだった。部屋に入るにはまだ早い。

 そこで宿のオカミさんお勧めの場所へ出かける事にした。

「湖があるんですよ。周回道路の途中に大きな岩があって、その先が『天女が淵』って呼ばれています」

 かつて天女が舞い降りて、水浴びをしたという言い伝えがある。脱いだ羽衣が近くの浜の上を飛び、砂が白く変わったそうだ。

「とっても眺めがいいし、カップルで訪れると幸せになれるそうですよ」

 それは行くしかない。僕らは早速車を走らせた。天気も良いし、目論見通りに行き交う車も少ない。

 しばらく走ると、岩山が見えて来た。その麓に車を停めた。岩に裂けめがある。通れそうだ。ごつごつした岩場が続く。足を滑らせないように先へ進む。岩肌に水しぶきが散った。砂浜はない。

「違うのかな?」

「でも岩の先って言ってたわよね?」

 水辺に着いた。岩山の陰が落ちて水が黒い。僕らの顔が映るほどだ。

「静かだね。誰もいないよ」

 確かにカップル向きだろう。僕らは水辺の岩に寄り添って腰を下ろした。

 自然と手を握り合う。顔が近づいた。

 突風が吹いた。ひと際大きく波が跳ねる。僕らの頭上を越えるほどだ。それはそのまま人の形になった。

「うわ」「きゃあ」

 僕らは思わず悲鳴を上げた。お互いの手をしっかり握る。

 びしょ濡れのソイツの体には、白い布がまとわりつく。女性のようだ。長い髪の間から黒い瞳が覗いた。肌は青黒い。びしっ! と僕らを指さす。

「そこぉ! イチャイチャすんじゃねえ! こっちは一人で、ずっと水に浸かってんだよ!」

 あまりに驚きすぎて動けない。

 女はこちらに手を伸ばす。ふやけた指が宙を掻いた。

「…行けない…ずっと引っかかっちゃって…ねえ、連れて行って…」

「…ヤダ…キモっ」

 僕の彼女の呟きに、女が反応した。

「何だとコラァ! アタシだって昔はアンタよりずっとキレイだったんだから!」

 濡れた髪をかき上げる。ずるり、と肌が後ろへずれた。赤黒く染まった頭骨の一部が露出する。

「ほら…どう? 返事は?」

 とにかくこの場をおさめて立ち去らねば。僕らはそろりそろりと立ち上がった。足ががくがくする。僕は何とか声を絞り出した。

「き、キレイです…」

「あら嬉しい。でも声が小さいな」

「ききききキレイですっ!」

「心がこもってない。もう一回!」

 腹に力を入れた。もうヤケクソ。

「美しい! さすが天女さま!」

「いやん、嬉しいっ」

 両方の拳を顎で揃えた。乙女チックなポーズだ。しっかりと顔を上げた。

 黒目と思ったのは、目玉が失われた眼窩だった。闇の洞穴だ。

「ぎゃあ!」

 叫びが喉を駆け上がる。全身が全て丸太になった感覚に襲わながら、僕らは裂けめに戻る。よろめき、つまづく。それでも必死に駆けた。

 車に戻り、急発進だ。あちこちに擦り傷ができていた。彼女は何度も振り返った。追っては来ない。

 どちらも無言のまま宿に戻った。真っ青な僕らをさっきのオカミさんが迎える。

「あら、早かったですね」

「……何ていう場所を教えてくれたんだ…『岩の先』に白い砂浜なんて無かった…」

 オカミさんの顔が曇った。

「岩を『越えた』先ですよ? まさか手前に入りましたか? あそこ、しばらく前に心中があったんですよ。それで女性の方がまだ見つかっていなくて…」

「うわぉ!」

 伝説の天女どころか、僕らが出くわしたのは……。

 先に言って欲しかった……。確かに女は引っかかって上がれないと言っていた。僕らの何が,アレを呼び出してしまったのか分からない。


 幸いその後の僕らに祟りは無かった。しかしこの遭遇を黙っていられるはずがない。

 こうして、新たな天女が淵(ちょっと手前)伝説が広まっていくのだった。

 

お読みいただきありがとうございます。

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