表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ないのんショートショーツ2025奇想   作者: あべ無野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

テーマ「夏」  夏といえば青春だろう! と書いてみた2話+完全にオマケ1話

壱 キミは夏のひかり


今日のお題は、ビニール袋をかぶった亀の子だわし。透明感の向こうにトゲトゲがある。それを描くのが難しい。

 高校の選択授業だ。クーラーの稼働音と、私語が美術室に交じり合う。もう六限だ。あと数分。僕の高二の一学期タスクは、また終了へと近づく。

 僕は隣の画用紙を何気なく覗いた。酒居(さかい)二三つぐみは、団子に結い上げた頭を振った。大きな目でぎょろりと僕を睨む。

「勝手に見ないでよ、小林君」

 さっと伏せた下には、何枚もの描き直し。

「ちょっと見えただけだよ。下手な鉄砲数撃てば当たるみたいに一杯あるな」

 彼女はむっと唇を歪めた。

 僕は、また画面に目を落とした。

 ガラス越しの熱気が強い。数年前には、学校の教室にクーラーが無かったなんて信じられない。

 今の高校生で本当に良かった。僕はそう思いながら、画用紙にクレパスを滑らせる。

 美術室は北の一番端っこの一階。生徒が作ったビオトープが近い。ガラス窓からは、眩い光と緑の葉が見える。

 チャイムが鳴った。

 みんなばらばらと立ち上がる。スケッチを教壇に置いて、女性の美術教師にご挨拶。それで美術の授業は終わり。

 音楽よりはいいかな、と美術を選んだ生徒もいるのだろう。それなりの画力の絵もある。二三がさっと裏返して置いて去った。

 誰かがめくる。

「それほど下手でもないじゃん」

 何人かの女子が集まった。

「あの言い方、ヒドイよね」

 ヒソヒソ。

 ちょっと僕は居心地がよろしくない。悪気は無かったんだ。

 教師が教壇に来た。スケッチをまとめて、とんとんと揃える。

「そこまで! みんな違って、みんな良い」

 どこかで聞いたようなセリフを背中に、さっさと美術室を出た。熱気が身を包む。

 廊下の窓からちらりと見えたのは、制服の紺色だ。

 ビオトープの木の下には二三だ。しゃがんだ背中が丸い。顔を膝に埋めているようだ。

 とっさにそちらへ向かった。

 何て声をかけたらいいか分からない。僕の気配に彼女が振り返った。相変わらずむっと歪んだ口だし、目付きは鋭い。でも泣いてはいなかった。ちょっとほっとする。

 彼女がガラスをひっかくような声で言った。

「下手な鉄砲で悪かったなあ」

「ごめん。酒居さんが下手って言いたかったわけじゃなくて、何ていうかその…たくさんやってみるのを、あのように言うもんだと思っただけなんだ。悪かった」

 二三は勢いよく立ち上がった。

「分かった。もういい。分かっている。下手な鉄砲だよ。でも将来はイラストレーターになりたい。だからこそ銃を手入れする」

 彼女の目線は頭上だ。緑の葉が揺れる。

 僕に向ける声が強くなった。

「銃身を磨く。弾をこめる。撃鉄を上げる。そして狙いを定めて引き金を引く」

 腕を上げた。指を僕に向ける。

「ばん!」

 枝葉を透かした黄金。風で光が揺れた。

 彼女の輪郭線は金色に縁どられて光る。細い指先から放たれた見えない銃弾が、僕の幻の体を突き抜けた。

 淡いピンクの唇が笑みの形に動く。

「外す方が多いかもしれない。それでも、引き金を引く瞬間が楽しいの」

 いや、君はまさに撃った、僕の心に痕を残した。

 二三は背中を向けた。

 僕は焦る。何か言わなくては。風が吹き抜ける。その勢いに押されて言葉を押し出した。

「文化祭って何の係をやるの?」

 あああ、それは秋。まだ先の話し。唐突過ぎる話題の転換。それに…それに…。他に気の利いたセリフは無かったのか…。

「は? ナニを赤くなってんの? 暑い? もう教室へ行こうよ。帰りのHRが始まるよ!」

 スカートが翻る。ちょっと短くしているようだ。白い足が露わになる。

 僕は急いで追いかけた。

 君は夏の光を背負って、先へ先へと走っていた。



弐 君と夏の終わりに


八月最後の日曜日。

 僕が住む市の花火大会だ。彼女を誘った。会場を少し離れた公園に出かけた。

 人込みは苦手だし、大事な話もしたかった。大学に入ってからすぐ付き合い初めてもう六年。お互い社会人になって二年が過ぎようとしている。

 まだうっすらと明るい空の下、彼女は水色のワンピース。今日の空の色だ。まとめた髪に夕日が輝く。

 僕は眩し気な顔をしただろうか。彼女はちょっと眉をひそめた。

「もっと打ち上げ場所に近くても良かったのに」

「話をしたかったんだ。ところで浴衣じゃないんだ?」

 ちょっと期待していたのだが。

 まもなく打ち上げの時間だ。人が集まり始めた。噴水広場では、屋台が出ている。会場が少し遠いが、逆に花火の全体が見えるのだ。

 座れる場所を探したが、ベンチはもう一杯だ。僕らは植え込みの前に立った。

「残念だった?」

 ちょっとつんとした彼女。そんな横顔も可愛い。僕は笑った。

「ちょっとね。でもその服も似合うよ」

 茜に染まり始めた空に、白く尾を引いて信号弾が上がった。花火大会の始まりだ。

 最初の花が夜空に開いた。どぉん…と尾を引く音が届く。

「あの…実はさ…」

 言いかける。彼女は僕の唇に人差し指を当てた。

「花火に集中しよう?」

 僕はその手を取り、包んだ。わかっているよ、花火はきれいだ。でも、この地上から放たれる勢いのままに話してしまいたいのだ。

「聞いて欲しい。転勤を打診されているんだ。飛行機の距離だ。付いて来てくれる?」

 これはプロポーズだ。指輪は無いけれど、天に咲く花を君にプレゼントだ。

 暗闇が迫る。彼女の頬が、花火の灯りで白く輝いた。

 彼女は静かに手を引いた。両手を膝で組む。まっすぐに空を見上げた。なかなか言葉がない。

「…返事は…今じゃなくても…」

「じゃあ、何で今言うかな? そんな大事なこと」

 怒っているのかと思えば、彼女は微笑む。

「私、今の仕事が気に入っているんだよね。新商品の開発って楽しいよ。まだ二年目だし、キャリアをあきらめたくない。だから、ついて行けない」

「えっ…じゃあ遠距離になっちゃうよ?」

「う~ん…そうだね…」

 隣を歩くこの人が、遥か遠くに行ってしまう。

 光の花は遠い。むしろ穏やかに僕らを包むようだ。人の騒めき、屋台の食べ物の匂い。この空間が愛おしい。

 しかし、彼女はきっぱりと言った。

「私は残る」

「僕に一人で行けと?」

 彼女の瞳は空を見上げたままだ。

「そうなるね。私たちが続くかどうか。これからの過ごし方次第かも」

 僕らは上手くいっていたはずだ。これで終わりなんて。戸惑うばかりだ。

 彼女の背後で虹の光が開く。

 僕は目を逸らす。少し時間が欲しかった。気持ちが騒めいて、心が乱れる。

「一息入れたいな。飲み物を買ってくるよ。何がいい?」

「私は要らない。ねえ、花火を見よう」

「見るけど、すぐだから!」

 振られるかもしれない。その場所から少しだけでも離れたい。気持ちを落ち着かせようと思っただけなのだ。

 僕は自動販売機を探す。なかなか見つからない。

 公園の出入口まで来てしまった。アイスコーヒーを二本買った。戻った時、彼女は見当たらない。場所を間違えたか。

 うろうろと人込みを探す。

「あ」

 フラッシュのように輝く光の中、彼女は少し離れた場所にいた。僕を探しているのか、きょろきょろしている。しかし目線がなかなか絡まない。

 そうする間にも、見物人に阻まれてどんどん距離が離れて行く。何度か呼んだが、気づかぬようだ。

 僕は立ちすくむ。彼女は僕無しでも先へ進むのだ。

 季節の名残の熱が僕の肌を通り過た。天上の華は光の粒になり、地上に届く前に消えてゆく。まるで僕の恋の終わりのようだった。



 

参  サマーヒート


 ちょっと聞いてよ~。

 バイト先の彼が良いなって思ってさ~、連絡先を聞いたのね。

 海に誘ったら都合が悪いって。

 もしかしたら暑いの苦手なのかも? 

 暑いからこそ夏じゃない? それが嫌なら夏はダメだよね?

 別の場所へ誘ってみた方がいい? 

 涼しい処とか? あ~もう考えるのメンドクサイなあ。

 夏なんて、私も嫌いになりそうだよ!


 あ、待って。連絡来た。彼からだ。

 ………

 フェスはどうですか、だってさ~!!!

 新しい日焼け止めを買わなくちゃ!

 ねえ、夏ってサイコー!! 

お読みいただきありがとうございます。

ああ青春。

弐の酒居二三は、拙著『馬の背の橋~』のハジメの妹ちゃんです。

三人きょうだいの中で、一人だけ絵の才能が無いのです。

引き続き別サイトの投稿済作品です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ