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帰って来たぞ!

ぴしり、と音がした。

 耳からでは無く、頭の中で。

 ぱきり、と音がした。

 身体から、骨から、そして脳みそから。


 ずぐり、と何かがリータの身体の中に入って来る。ツチグモを操作する為に繋げている魔力のラインを伝って。


 コクピット内に散らばる破壊されたコンソールやモニターの裏からコードが伸びてリータに突き刺さる。まずは手、それから前腕、二の腕と登ってゆき次第にその異物はリータの全身に広がる。


 次の瞬間、雪崩の勢いと共にイエティの蹴りが衝突して辺りは雪で真っ白になった。



「マンガやアニメの見過ぎなんだよぉ!ちょっと女の子におだてられただけのガキが!いきなり何十年も戦って来た男に勝てるわきゃねぇだろうが!」


 ビッグフットは勝ち誇った様に告げると、オーカンとダキレル、2人を懐抱するミーシャに向かって歩き出す。


「さぁて、姫様。私と共に来てもらいますよ?貴女のお友達はみんな倒れました。これ以上やってもムダでしょう?」


「だれ………が!………ハァ……ハァ……倒れた…………って?……ハァ……ハァ…………!」


「おぉ!オーカンくん!君はまだ戦うつもりか!なら女の膝の上から啖呵を切るのはいささか情け無いとは思わんのか!戦うつもりなら立って武器を握らないとなァ!」


 少しの間とはいえ身体強化のみでイエティと殴り合いをしていたオーカンはボロボロで息も絶え絶えだった。だがその目は絶望的な戦いに向かう男の目と言うよりも、友の成長を確信して自身の決意を新たにする目であった!!


「誰が……ハァ………俺が戦うなんて……ハァ……言ったよ?……なァ、リーターン・カムバック!!いつまで寝てやがる!いつか必ず俺達は地上に帰るんだろ?!だったらこんな所で寝てらんねぇよなァ!!帰って来い!!」


 カタカタカタカタ、と軽く地面が揺れ始める。

 次第にその揺れが強くなり、ゴゴゴゴゴゴ……ズドン!!とイエティが立っている地面が爆ぜる。

 地面がめくれ上がり、霜の降りた大地は激しくシェイクされ、岩が隆起する!


 「帰ったぞ!友よ!」


 黒い影がイエティを掴むと地面に押し付けながら走り始める。ときおり隆起した岩にぶつけ、バコンゴカンと軽快な音を響かせながらイエティの背中で轍を作ってゆく。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 掴んでいたイエティを空に放り投げたツチグモは黄土色の輝きを放つ両手両足を地面に付けまさしく蜘蛛の体勢を取る。


「ぶっ飛べ!八十女やそめ!!」


 八本足の先から太い石柱が飛び出し、空中のイエティに次々と突き刺さる!


「ぬごぉ!!油断しておった!化けおったわ!あのガキめ!こりゃあ遊べそうなオモチャが増えたぜ!次に合う時を楽しみにしてな!覚えたぞ!リーターン・カムバック!」


 機体のあちこちを貫かれ、動くのも不思議な状態のイエティが空中に氷のレールを作り滑走して姿を消した。


「………逃げた?」


 リータの呟きに、すぐ隣にいたメグルも頷く。

 その直後にリータは意識を失った。




◇ ◇ ◇




 ぶっつけ本番だし、万が一の暴走もあり得たのに、ハイカも無茶をしますね。ポゼッションは本来、もっと機体の材料となった巨獣とパイロットの同調を高め、触媒を用意し、少しずつ慣らしながら次第に使える様になるモノです。


 それをあんな一足飛びに……いえ、確かに他に手はありませんでしたが………あの彼の調子がまんざらでも無かったのですかね?


 ミーシャは平らな場所に比較的綺麗な布を広げ、意識を失っているハイカの頭を撫でながら考える。


 戦力を整えるならやはり次はドワーフですか。ここで集めた巨獣の筋肉や腱、甲殻、爪や牙はそのままでも組み合わせてギブラニアにはなりますが、やはりちゃんと加工、精錬して組み上げて貰わないとムラがありますしね。


 リヴ・ギギアントと呼ばれる様な、機体でないと「アレ」にはきっと敵わない。「アレ」を倒せるなら私の為に命を使った戦士の息子を恥ずかしげも無く戦場に送り出す浅ましい女にでもなりましょう………!


 たとえどんなに非難される事になろうとも、ユキジ家を、いえ、私の周りにある“全て”を使ってでも「アレ」を止めなければ……いつか地上と地底は滅ぼし合う事になる…………ッ。


「つっ………悪い、ミーシャお嬢、意識失ってた。リータはどうなった?」


「ええ、ビッグフットは逃げていきました。リーターンさんとメグルさんも向こうに寝かせています。」


「あの……ハイカさんが魔法を使った後、あの蜘蛛のギブラニアそのものがリータに感じられた。アレが“そう”なんだな?」


 オーカンさんが何か決意を秘めた顔で真っすぐに私を見つめて来る。利用しようと近づいた負い目か目を合わせられなくなった私はつい、フッと目をそらしてしまった。


「なるほど。“そう”なんだな。アレが親父が恐怖の赤鬼テリブル・レッドオーガーとか言うふざけたあだ名で呼ばれてたのと同じヤツか。じゃああのレッドキャップのアタマは形見か?」


 目を合わせようとして顔をオーカンに向けるが、どうしても泳いでしまう。


「一瞬、フェンリルのラグナロクって炎の大剣をはじき返した時に親父が居た気がしたんだが、気の所為じゃあ無かったんだな。これまでは半信半疑だったが、やっと納得したよ。」


 私は「俺を都合良く利用する気だな。親父の代わりか?」等と責められるのを覚悟した。だけどいつまで待ってもそんな台詞は返って来なかった。

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